いっぱい食べるキミが好き - 2/2

 最初に意識したのは乾きだった。足りない、と強烈に求めているのに何が欲しいのかわからない。己の主だという人間に在ることは認識できたが、肉体を割いても得られないこともわかっていた。そも、尾張徳川の宝刀としてそんなけだもののような真似とうてい許せるはずがない。
 揺れる視界に耐えなんとかしゃんと立てば、不具合だどうだと騒いでいた人間が見知った顔を連れてきたのでほんの少し一息ついた。認めたくはないが、この刀が健やかに過ごす場ならば、南泉に不利な事は起こらないだろう。お互い口に出したことはないが、これは二振り共通の認識だ。そのままつい腰をおろしてしまったのはふがいなかったと思っている。顔を見たら安堵で力が抜けたなど、山姥切には絶対に言えない。
 狐の姿を模したらしいちんちくりんの式神と人間が解決法を告げ、古馴染みの腐れ縁が任せろと請け負った。そこまでは認識した。次に意識がはっきりしたのは、南泉の体の下でぐったり身を横たわらせている山姥切を見た時だ。

「おいっ」

 慌てて声をかけるも、長いまつ毛が震えるばかりで視線すら向けられない。さっと全身をチェックし、外傷がないことに安堵する。傷つけてはいない。よかった。血を、などと夢うつつに供されそうになった記憶があったので、もしやと。断ったつもりだったが、意識がはっきりしていなかったのでいまいち自信がない。なんせずっと腹がすうすうしていたのに、今は温かくずしりとしているのだ。これが山姥切の血のおかげだ、と言われれば否定できない。
 腹にみっちり詰まった感覚に、やっと己の輪郭がはっきりする。体液から霊力供給を、と言われたのは覚えている。与えてやると、腐れ縁が胸を張っていたのも。山姥切がぐったりしているのは、おそらく南泉が霊力を奪いすぎたのだろう。先程までの渇きと無力感を思い出し、顔をしかめる。少々わけてもらう気はあったが、こうも弱るほど奪い取る気はなかった。山姥切は誰かに、こんな弱った姿を見せることを良しとする刀ではない。いらぬことをしたならまだしも、南泉を助けようと動いたならこちらも手助けしてやらねば。ふらつきやだるさは少しでも霊力を得ればマシになる。南泉に分け与えすぎたものを少しでも返してやろうと、山姥切の口をこじ開け唾液を流し込んだ。ぱちりと見開かれた青い眼に言いつける。

「飲め」

 吐き出そうとする口と鼻をふさげば、必死に首を振ろうとする。ろくに動けもしないくせに抵抗する姿に苛立ち、つい声が強くなった。

「落ち着け、変なもんじゃねえよ。霊力もらいすぎたから返すだけだ。飲め」

 南泉の説明がうまく聞き取れないのか、まだ拒もうとするので抑え込んで喉仏にふれた。意識がもうろうとするほど他刃に霊力を与えるんじゃねえよ馬鹿。いくら南泉が欲しがっても限度というものがあるだろう。
 山姥切は昔からどうも身内に甘い。己の内側に入れた相手には無理してでもあれこれ与え、そのくせ本刃は余力があったからとうそぶく。今回も、南泉が腹をすかしていたからと気軽に分け与え、ぶっ倒れたのだろう。見栄っ張りにもほどがあるが、それで南泉が助かったのだから感謝すべきかもしれない。だが。
 くるりと喉仏が動いて、南泉の唾液を飲みこんだのがわかった。けれど足りない。山姥切の目は開いたが、まだろくな抵抗もできない。もっと飲め、と流し込もうにも固く唇を閉ざして抵抗される。いったい何を意固地になっているのか知らないが、せめて南泉を蹴り飛ばせるくらい回復してからにしてほしい。どうせ助けた相手に与えられ返すのは道理に合わないとか勝手に考えているのだ。
 席をはずした人間と式神が戻ってくるまでに山姥切をもう少し元気にしてやった方がいいだろう。南泉を任されたのに、その南泉に世話をやかれているのを見られるのはさすがに哀れだ。悪態をつきあう仲といえ、山姥切の主の前で立場を考えてやる程度の情はある。任せろと胸を張った手前、こいつは絶対に南泉の面倒を見ると決めているはずだ。
 さきほどまでの経験上、唾液は手軽だが霊力供給的にはそこまで即効性はない。出すのに少々時間はかかるが、精液の方が満足感があった。ならば、と下履きをくつろげ山姥切の口の前に陰茎を差し出してやったが、やはり唇は閉ざしたまま。いらないだのいやだの言うわりに顔をそむけるだけで、相変わらず身体はふにゃふにゃだ。

「ワガママ言うなって。霊力足りねえのしんどいんだろ」
「ちがう……俺はだいじょうぶ、だから」

 ひどく掠れた声に、拙い言葉づかい。口から産まれたのではと揶揄されるほどぺらぺらとよく回る口で、立て板に水と煽り文句を並べ立て堂々喧嘩を売り歩いていたくせに。南泉の顔を見ればかわいいだのなんだのとからかって。それがどうだ、口を動かすことさえ重労働なのかピクリともしない。
 ならば陰茎をしゃぶって精液を飲むのは気が進まないのかもしれない。確かに南泉も、唾液と涙で少し動く気力が出たから挑めたところはある。正直、いくら目の前に持ってきてもらっても、これからまだ自分が動かなければいけないとなると飲む気も失せると言うものだ。霊力の塊だとわかっていても、もう少し飲みやすい形にしてもらいたいところだ。湯呑にでも入れてやるかと室内を見回すが、茶箪笥のひとつもありやしない。仕方なく己の手で擦り山姥切の口めがけて出してやったが、ほとんど顔にかかってしまった。かろうじて口内に入った分も、咳込んで出てしまったので望み薄だろう。
 飲みこむ体力もないのかと、南泉は密かに危機感を抱く。気力が無駄に有り余って暴れている姿ばかり本霊からの記憶にあるので、静かに横たわっているだけで違和感から腹の底がぞわぞわする。これはいけない。こんな山姥切は見ちゃいられない。せっせと指先で拭って口の中に入れてやるも、違う違うとむずかる山姥切の体内には、精液も唾液もおそらくほとんど入っていない。

「だるいだけで。ねえ、俺は違うから。南泉」
「霊力不足なんだろ? ほら、ちゃんと飲みこめよ元気になるから」
「ちがう! おまえが俺を……バカみたいに、その、……イかせたから、体力がきれただけだ」
「やっぱり俺がもらいすぎたせいじゃねえか」

 やはり南泉の責だった。精液だけでなく、山姥切が声をあげたり身を震わせたりする箇所を噛んだり撫でたりすれば、唾液や涙も無尽蔵といわんばかりに出たので。だからつい、こうして元気に動けるくらい飲みまくってしまったのだ。その分山姥切の霊力が不足しているというなら、きちんと返さなければ。霊力不足がつらいことを南泉は知っているので。

「ちが、だから霊力はあるって! 疲れただけだと言ってるだろ!」

 しかし山姥切は、未だ自力で霊力を取り込めるほどの元気がないようだ。隙をみては南泉の唾液を流し込んでいるのだが、飲み込むのも体力を使うのか拒むばかり。かといって直接口内に射精しても、また咳込んで吐き出しては意味がない。なんとか山姥切を元気にしてやりたい。本霊からして腹立たしいほど元気でムカつく面ばかり向けられているので、ほんの少しでも弱っている顔を見せられるともう南泉は落ち着かない。どうにかしてやらねば、と焦りで腹の中が騒がしい。しかも今回は、南泉のために弱っているのだ。これを放置するなんて、本霊分霊問わず全南泉一文字にできるわけがない。けれど口からはろくに入れられない。ならば他に――他に、あるな。
 ころりと山姥切を伏せさせ、腰を持ち上げ確認する。あった。一般的には出口ではあるが、出るということは入れられるということだ。つまりここからでも口からでも、体内に入るということは変わらない。人間が尻に性器を突っ込んでいるのは見たことがあるし、刀剣男士の身が人を模しているというなら山姥切にも入るだろう。うん、と納得し顔を近づけた南泉は、悲鳴まじりに名を呼ばれピタリと動きを止めた。

「なんせん! なんせんやめろ!! おまえなに、なにするつもりだやめろ!!」
「おっ、だいぶでかい声出るようになったにゃ。もうちっと待てよ、今入れてやるから」
「そんなのんきな感想はどうでもいいんだよ! いれ、入れるって何を、いや待て何も言うな聞きたくないやめろ! とまれ!!!」

 問うたくせに何も言うななどとわけのわからぬ事を言う。まだ意識がもうろうとしているのだろうか。そのわりには元気に叫んでいるが。やはり早く霊力を返してやらなければ。ぐっと尻たぶを開いて穴を割り、直接唾液を流し込んでやれば、死にそうな声で呪詛を唱えられる。

「おっ、ちったあ元気になってきたじゃねえか」
「おまえぜったいゆるさない、ゆるさないからなおぼえてろよクソねこごろしが……ッ」
「おうおう、おまえがいつも通りクソ生意気な口きけるようになるまで面倒みてやるからにゃ」
「は? っあ、え、ぁ」

 何が山姥切をこうも頑なにさせるのか。持てるものとして与えることが好きな刀ではあったが、気の置けない身内からは甘やかしを受け取るのも上手かった記憶があるのだが。
 本霊の記憶をたどってからふと、そういえばこの山姥切とは初対面だったのだと気づく。もしかしてこいつ、本霊の記憶をほとんど受け継いでいない個体か? いや南泉の事をさらりと猫殺しくん呼ばわりしていたのだから、古馴染みの記憶はあるのだろう。では実感がわいてないのだろうか。南泉を、この目の前にいる南泉一文字を、好き勝手にワガママを言い甘えて振り回してきた相手だとわかっていないのか。それはあまりに薄情では、と南泉は腹の底からため息をついた。あれだけ長く共に在り、面倒事に巻き込み巻き込まれ、勝手をし許し喧嘩し騒ぎ、延々と。延々と、永遠と。ひたすら永き時を隣で過ごし、こうなれば朽ちるまでこのままだろうとお互い言葉にせずとも納得していたというのに。だというのにこの他人行儀!
 これはしっかり甘やかしてやるしかない。こんな風に、己の不具合をごまかすようなことをさせてはいけない。意地を張るのも気が強いのも悪くはないが、体調不良に関してはきちんと頼れるようにしてやらないと。
 いやだいやだとろくに動けないくせにもがき、せっかく摂取させた霊力も涙でこぼしてしまうので、南泉はもう一度唇を目元に寄せた。もったいない。なだめる様に涙をすすれば、いやなんだとまた訴えられる。

「何がいやなんだっつーの」
「下は、下はやだ。なら、口がいい」
「わーったわーった、舌がいやなんだな」

 山姥切は、下半身に触れるなと伝えたつもりだった。尻の穴に舌を突っ込まれるくらいなら、口から唾液を飲む方が百万倍マシだ。たとえそれがすでに尻を舐めた舌でも。それでも、延々と舌で尻の穴をほじくられる地獄を思えば天国でしかない。というか、そもそもぐったりしているのは霊力不足ではなく、南泉にイかされすぎて体力と気力がきれただけだ。正直、許されるなら今すぐ寝てしまいたい。射精疲れなんて、顕現してそこそこ経つが経験したことない。こんなの初めてぇ♡ってか、ふざけんな。もう精液はでないし陰茎もさわられたくない。本日の営業は終了しました。どこもかしこも舐められすぎて、南泉の服が触れる部分が痛いってどういうことだ。物事には限度というものがあるだろう。
 だが南泉は、尻の穴に舌を突っ込まれるのが嫌なんだなと理解した。口がいい、もそれよりもっとキスしてほしいな♡くらいの勢いだ。そんなかわいらしいことを言う化け物切りはどこにもいないが、顕現早々霊力不足を解消してくれ、今は抵抗もろくにできないほどくたくたの姿に好感度と庇護欲がじゃんじゃか積まれていたので仕方ない。こんなになるほど俺のために尽力してくれたんだにゃあ、かわいいヤツだにゃあ♡である。「した」が同じ音であったがための悲劇であった。

 しかし、と山姥切の口に舌をつっこみながら南泉は考えた。やはり唾液だけでは回復が遅い。せっかく体内に通じる穴を見つけたのだから、効率よく供給させてやりたいものだ。ならば上と下に同時に精液を流し込んでやれば、と思いつくも、口に入れようとした時と同様に、尻の入り口にかかるだけで上手く飲みこめないなら意味がない。
 こうして口の中に舌をつっこみ喉を拓き唾液を流し込むように、尻にも同じことをしてやらねば。さきほど見た、きゅうとすぼまりほんの少し湿り気のある菊座を思い出す。あの中に入れて。拓いて、開けて、しっかりきっちり刺し貫き、奥の奥で射精する。己のモノがふにゃふにゃでは難しいな、とちらりと確認すれば驚くほどに硬かった。さすが霊力供給されたばかりのことはある。これならちゃんと胎内に出してやれるだろう。
 少しでも楽になる様に、と山姥切の顔についていた精液と南泉の唾液を使い、指で穴をほぐしてやる。直接舌で流し込むよりは量が少ないが、塵も積もればというやつだ。諦めの悪い山姥切はまだ何やら文句を言おうとしていたが、その都度口をふさぎ唾液を流し込んでやれば、陰茎を挿れる頃にはほとほとと涙をこぼすばかりになっていた。馬鹿だな、泣くほどしんどいならもっとしっかり霊力を奪っていけばいいものを。そりゃ南泉とて先ほどまで山姥切からもらっていた身。自分が与えた相手からもらうなど本末転倒と考えているのかもしれないが、現状、南泉は回復し山姥切は不足している。なら分けるのは当たり前のことだというのに。
 ぐ、と腰を押し進めるたびこらえきれない声が山姥切の喉から転がり落ちる。温かくぬかるんだナカは早く精液をくれとばかりに絞めつけるから、思わず射精しそうになって南泉はぐっと息をのんだ。奥で。ちょっとやそっとじゃこぼれないくらい奥の奥、山姥切の胎内にしっかりたっぷり出してやらなきゃいけない。全部南泉のものでひたひたにして。溢れんばかりに。他のものなど入らぬほど。こぼれてこないよう、飲み込んで取り入れてするまできちんと栓もして。

「っ、はぁ……おまえのナカ、ぎゅうぎゅう絞ってくるから自分で擦るよか早く出るにゃあ」
「エロオヤジが…ッ、闇夜に気をつけろよ!」

 褒めたのに、毛を逆立てた山姥切に怒鳴られ南泉は首をかしげた。こいつ本霊の時より意固地に磨きがかかってないか?
 壁を押し開くよう突けば高い声をあげながらほころび、腰を押しつければきゅうきゅう吸いつく。ほしいほしいと無言でねだる山姥切の姿に、こんなになっても素直に求めないのかと呆れ半分心配半分。霊力不足は恥じることではないだろうに、弱みを見せたくないのか矜持か、南泉がこうして強引に供給しなければ放っておいたのだろう。そのうち回復するだろうと。これだから目を離せないのだ。

「体は正直、ってやつかにゃ」

 南泉としては、こんなに腹減ってたならそりゃがっつくよな、くらいの軽口であった。霊力不足はつらいよなわかるぜ、だから別に正直に足りないって言っていいんだぜ。だが、山姥切には当然の如くまるで違う意味で伝わったので、相互理解というものは難しい。本霊の五百年にわたる腐れ縁は、今回に限りまるで仕事をしなかった。そして山姥切は、南泉がまさかそんなエロ漫画みたいなセリフを吐くとは思わず、うっかり反論の機会を逃した。ふざけるなとすぐさま噛みついてやるべきだったが、あまりにあまりな発言に一瞬呆けてしまったのが敗因である。

 いや全然まったく気持ちいいとかそういうのではないが!? 俺の身体がいやらしいみたいな言い方やめてもらえるかな。あと尻の穴はあくまで出口であって入口ではなく、おまえの一文字を入れるにはサイズ違いも甚だしいが!?? わりと結構相当きついし限界まで広がってるだろうし、というか奥に! 来すぎ!!! なんだこの長さ、おかしいだろもっと縮めよ削れ!!!!! 太さも、機能的にもっと細くとも十分務まるんじゃないのか!? 動かす度に壁をゴリゴリ擦るし苦しいしこのまま入れっぱなしにしてたらおまえの形に広がってしまったら、え、ちょ、どうしたら……いくら俺の腸が伸縮性と対応力に優れたすばらしい腸だとしても、こんなとんでもないサイズと硬さのモノを入れる想定はされていないんだが!!!!! まあキスは、いや霊力補給であってキスではないけれど結果的にキスになってしまってる状態のこの、……キスは、もっとしても構わないけど。勝手にこぼれる俺の涙をぬぐう唇はやわらかく気持ちいいし。うん。……いや違う、そう、尻に比べて!!!

 という山姥切の言いたいことを全て伝えるには体力が底をついていた。
 溜まったら出す、レベルの知識しか持たず一度の自慰で一回射精が基本であった山姥切にとって、南泉が満足するまで延々と射精させられたのはひどくこたえた。性行為は疲れるものなんだな、が初めての他刃の手による射精というのもどうかと思う。だから、というのは言い訳になるだろうか。けれど仕方なかったのだ。疲労に打ちのめされた肉体と精神は、絶対に伝えたい事だけなんとか伝えようとした。つまりは、俺は尻で快感を得ていないのでこれ以上さわるな、である。初回からあんあんらめぇきもちいい♡とかふざけるなありえないぞ。
 だが、ちらっとキスは悪くないとか考えてしまったからか、長文を話しきれないと思ったのか。山姥切が発したのが

「なんせん、くち」

 であったため、尻に南泉の陰茎を突っ込まれたままぎゅうぎゅうに抱きしめられ口を吸われるという、傍から見ればラブラブの恋仲セックスのような状態になってしまったのは遺憾の意。こんなに甘えてくるなんてこいつやっぱり弱ってんなしんどいんだにゃ、と兄心を爆発させてしまった南泉と、口をふさがれたため早く尻からその御立派様を抜けと言えずもうろうとしつつまた涙をこぼす山姥切という悪循環である。悪ではないが。いや悪い。
 何が悪いって、宝物かなにかのように大切に大切に、抱きしめられ撫でられ愛しまれるかのような現状が悪くないと思ってしまった山姥切が悪い。南泉に恋仲のような扱いをされることを、うれしいと感じてしまったなんて。尻の痛みが些細な事だと思えるほどに、この行為を受け入れてしまったなんて。
 最悪だ。
 南泉は霊力不足で顕現し、だから山姥切が供給した。それだけなのに。実は密かに恋しく想っていた、なんて絶対にありえない、初対面の、これから本丸の仲間としてやっていく南泉一文字相手だというのに。
 あまりに優しく慈しまれてしまったせいで、山姥切の霊力回路が異常をきたしたのだろうか。愛されている、なんて。目を見ればわかる。山姥切に対する恋情などない、ただただ古なじみを心配しているだけの色をする南泉の眼差し。

 

◆◆◆

 

 これ以上与えては今度は南泉がまた倒れる、という段階まで山姥切に霊力を与え返してくれた腐れ縁にできることなど数少ない。百パーセント善意での行動だということは理解している。だから、だいぶ元気になったにゃ、と満足げに笑う南泉にひきつった笑顔で礼を告げつつ、山姥切は念押しした。

「緊急事態だったからだよ。本来霊力不足でこういった対応はとらないんだからね」
「おう、助かったにゃ」
「……いいかい、どんな素晴らしい刀剣男士相手でも、絶対今回みたいなことするんじゃないぞ」
「わーったって。特別対応なんだろ」
「……弱った俺を介抱してくれたのは、感謝してるよ」

 結果的により弱らせられたわけだが、南泉の気持ちはうれしかったので。
 うっかりセックスしてしまったが、これは純粋に事故だ。そもそも霊力供給にはセックスだとこんのすけも言っていたのだから、肉体に害はないだろう。精神的に山姥切が疲れただけで。恋仲でもないのに性行為、の是非はもう放っておこう。南泉は気づいていないから、山姥切さえ口を閉ざせば何の問題もない。もうこんな事起こらないだろうから、さらりと流しておくが吉だ。

「素直に礼言えんじゃねぇか」
「失礼だな。礼は欠かさない方だぞ」

 にんまり笑われ、乱暴に頭を撫でられる山姥切は知らなかった。
 この南泉一文字と主の霊力パスがまだうまくつながらず、しばらくは霊力供給が必須になってしまうことを。恋人同士だったんだ~、じゃあこれからも山姥切にお願いしよ、と途中こっそり戻ってきた審神者が二振りの行為を見て判断してしまったことを。誰とでも霊力供給に体液のやりとりをするものではない、だが山姥切相手ならば特別対応としてあり、と南泉が理解したことを。
 まるで気づかないまま、童扱いするなと文句を言いつつ、南泉の手を受け入れてしまっていたのだ。