失敗した。
ちょっとした好奇心でやってしまったオレが悪い。わかってる。
でも夢を見てみたかったんだ。もしかしたら、って想像をするのは悪いことじゃないだろう?
一松と恋人のように振舞ってみたいなんてかわいらしい願い、催眠術にのっかってかなえてもらうのはそこまで責められることじゃないと思う。
実際うまくやったはずだ。
少し気弱で一途で照れ屋の、一般的に受けのいいかわいい恋人像。
ああ、でも大失敗だ。
思っていたよりずっと優しい一松。催眠術が解けない単純な兄への思いやり、好意をぶつけられてとまどう視線、乱暴にならないよう震える指先。見たことのない恋人に向ける表情。声。オレにも見せてくれればいいのに。もっと。オレに。
恋人、を解きたくなくなるのは予想通りだった。
だけどそんな、おまえが。おまえの方が。
まがいものの恋人なんかにやりたくはないんだ。
オレに、向けてほしかったんだ。
ああ、こんなことしなきゃよかった。
ライバルがけして存在しない『恋人』だなんてどうしろっていうんだ。