屋上にて

メロンパンアンパンカレーパン焼きそばパンクリームパンカツサンドタマゴサンドハムサンドウインナロール。
次々出てくるパンを目で追うのをやめて、金城は手にしていたパック牛乳にストローをさした。

「あ、これやるよ」
「いいのか」
「ちょっと持ってきすぎちまった」

そうだな、とは口にせず二人の間に積み上げられたパンに手を伸ばす。
ビニールを破る音。咀嚼音。カレーパンだけは油取りなのか紙の袋だからガサガサと違う音がする。
田所はがっつり食べたいからサンドイッチが好きで、金城は焼きそばが入っているから焼きそばパンが好みだ。お互いの好みは十分知りつくしていて、それなのに今ここにあるのは甘いパンも山ほど。

「うまいな」
「だろ」
「今度は買いに行こう」
「いいって。俺が食べるつもりで持ってきたんだからよ」

食べきれないほどの甘いパン。
もう部活を引退してしまったから練習で腹が減るからなんて言い訳もききやしない。

「そういや、進路希望だしたか」
「ああ。田所は」
「店、継ぐわ」
「そうか」
「しばらくは修行で、失敗作はあいつらに差し入れる」
「いい先輩だな」
「だろ?」
「だがそんなに甘えるわけにもいかんだろ。今でもよく差し入れてもらってるし」
「べっつにんなんじゃねぇよ。じゃあまあ、そのうちレジ打ちのバイトでもしてもらうわ。誰かに」
「皆、大はしゃぎで立候補しそうだぞ」
「……無難に手島と青八木あたりに頼むことにする」

腹が減ったと言えば差し入れられ、小遣いが足りないと言えば臨時でバイトに雇ってやろうと笑う。うちなら時間の融通もきくし学校からもにらまれねえ、たまの小遣い稼ぎにゃちょうどいいだろ、なんて。
いつだって誰をも受け入れて、笑って送りだしてする大きな手の平。

「……バイト、なんだな」

いつだって笑って受け入れていた男が、大きな声で背中を押してくれる男が。
一度だけ。

「んだよ?」
「いや。希望者続出だろうな」
「うちは結構なホワイト企業だからな~」

笑わずに小さな声で。隣に立つ男にしか聞こえないような小さな小さな声で。
きっとあれは背中を押すためじゃなく。
進路はどうする、将来は、なんて話をしていた時に。まだわからない、なにもわからないと困り切って笑う細い背中にかけられた声。
金城にではなく、あの振り返らなかった緑色にかけられていた、一度だけの。
聞こえていたのか、返事はあったのか、どうするのか。彼の背中を押してしまった、のか。そのつもりが誰になくとも。

――わからないなら一緒にパン屋やりゃいいだろ。

まるでプロポーズだな、と思ったのは自分だけだろうか。
あの日隣に立っていた男は、もう居ない。