「今日はチェックの日だよ」
低い声に身がすくむも、カーラはなんとか平静を装うことに成功した。余裕を見せるためゆっくり視線を上げると、階段の上から見下ろしていたイッチーと目が合う。
「そうか、もうそんな時期か。まるで気づいてなかったな」
うっかりうっかり。笑ってみせても愛想のない弟は頬を緩めることもない。
気づいてない、なんて嘘だ。自室のカレンダーにはこっそり印がついている。
そもそも忘れられるわけがないのだ。あんなこと。これまでされたことを少し思い返すだけで、カーラの頬には熱が集まる。
「もう準備できてるから」
「オーケイ、ブラザー」
背を向けるイッチーに追いつくよう、駆け足で階段を登る。ああ、なんだか待ちわびていたように見えないだろうか。違うんだ。カーラはあの行為を望んでいるわけじゃなく、弟を待たせてはいけないと急いでいるだけで。
誰に言うわけでもないのに心の内で言い訳をする。
別に気にしなくてもいいのだ、きっと。だってあれはあくまでもチェックと、その結果。カーラが望む望まないに関係なく、チェックにひっかかってしまったらしないといけないことなのだし。ただそれがちょっと……いやすごく、その……いやイッチーが悪いわけじゃなく、ただただカーラの問題なわけで。痛いとか嫌だとか怖いとかそういうのではないし、そもそもイッチーがしてくれるのもボランティアだし、無理強いされてもいなけりゃ脅されてもいない。なんなら普段よりずっと気を遣ってくれているほどで。
チェックの日。それは、悪魔に憑かれやすいくせに自覚のないカーラに悪魔が憑いていないか確認する日だ。
おまえに悪魔が憑いてる。数ヶ月前、唐突に訳のわからないことを言いだしたイッチーは笑い飛ばしたカーラに懇切丁寧に説明してくれた。いわく、悪魔は人間の体内に潜み悪さをすることがある。憑かれている本人は無自覚だが悪魔は本人の意識のない時に勝手に動いたり、寿命をスイーツ扱いで食べられたりするらしい。そもそも悪魔なんておとぎ話かなにかだと思っていたカーラには寝耳に水。だが、確かに思い当たることはあったのだ。自室のレイアウトが微妙に変わっていたり、仕舞っていたはずのお気に入りの皮ジャンがなぜかイッチーの部屋から発見されたり。
それでも首をかしげるカーラに怒ることもなく、じゃあチェックしてみようと告げたイッチーは自信があったのだろう。なんせ彼の趣味は黒魔術。悪魔のことはお任せあれだ。
チェック後、悪魔が憑いていると判明したカーラがパニックに陥った時も。なんとか悪魔を体内から追い出せた後、またこんなことが起きたらと嘆き悲しんでいた時も。イッチーは常に落ち着き穏やかで優しかった。「大丈夫、おまえはすごく悪魔に憑かれやすいみたいだけど、早めに気づいて追い出せば問題ないんだから。定期的にチェックして、いたら追い出せばいい。健康診断みたいなもんだよ、おれがちゃんとみてやるから安心しなって」普段ぼそぼそ口の中で呟くか怒鳴り声しか聞いていないカーラとしては、おまえこそなにか憑いてないか? 悪魔、にしては言動がまっとうすぎる……天使……!? と危うく口にしかけたがそこはなんとか飲みこんだ。好意で言ってくれているだろうにさすがにいけない。
おそらくイッチーは、黒魔術に傾倒しているからこそ悪魔に憑かれる怖さをよく知っているのだ。だからこそカーラのことを心配してくれている。普段は気にくわないとつんけんしていてもやはり兄弟、イッチーにはなんのリターンもないのにこうして予定をたて時間をつくり声までかけてくれる。さすがだぜブラザー! おまえはオレの誇りだ!!
だからこそ、チェックや追い出す方法がもう少し違うものだったらよかったのに。考えても仕方ないが、それでもカーラはつい願ってしまう。
確かに痛いとか怖いとかじゃない。どちらかというと気持ちいいとかそっちの方向で、オーソンあたりなら「ラッキーじゃん!」とでも言うかもしれない。だがカーラはそこまで思いきれない。チェックしてくれるイッチーが平静だからこそ、余計に。
自室を通り過ぎイッチーの部屋に入る。カーテンを閉め切っただけじゃなく、あちこちに黒い布やおどろおどろしい飾りが置いてあって暗い。昼間だというのに薄暗い部屋は、いつ来てもなんだか落ち着かない。パッション溢れるミュージックでも流せばいかす空間になるだろうに、BGMのない室内は鍵をかける音までも響きわたる。
電気をつける音を背に、いつも通り服を脱ぎベッドに上がる。昼間にわざわざ電気をつけるくらいならカーテンを開けばいい、とはさすがに言えない。なんせ今のカーラは全裸だ。薄暗いままでいいんじゃないか、は初回に伝えたがよく見えないからと断られた。黒魔術に傾倒していても暗闇ではやはり見えないらしい。
チェックの準備をしているイッチーは忙しそうに動いてるから、自分だけ裸なのもさほど気にならない。そういえば初めてチェックをしてもらった日は、どんな動きにも目を光らせないといけないと服を脱ぐところから全部見られたのだった。カーラのどの動きで悪魔が活性化するかわからない、と理由を告げられても弟の目の前で一人服を脱ぐのは気まずかったものだ。本当に、自分でもろくに見ることのない場所までありとあらゆるところを見られチェックとは大変なものだと実感した。家族のためといえ、こんな重労働をしてくれる弟には感謝してもしたりない。
「はい、聖水」
すでに見慣れた紫色のガラス瓶に入った液体は、イッチーがわざわざ教会からもらってきてくれている聖水だ。これでカーラの体の中に悪魔がいるかどうかわかる。ミサだなんだと教会には出入りしていたが、まさかこんなにすごい物があるなんて知らなかった。まあ悪魔に憑かれているかどうか調べようと思わない限り不要なのだから当然かもしれない。
聖水、という名前だが味は水ではなく牛乳に似ている。どうせ飲まなければいけないものなら飲みやすい方がいいので、カーラとしては大変ありがたい。やはり神様もあまりまずいと皆飲まないだろうと考えてくれたんだろうか。サンキューゴッド、さすがだ。慧眼、というやつだな。
瓶の中身を一気に飲み干し、イッチーに返す。ベッドの端に座る人影を目の端に捕えながら、カーラはぐにゅぐにゅと自分の胸を揉んだ。
意識を乳首に集め、今飲んだ水分が胸に集まるイメージで脇から乳首までをゆっくり撫でる。あれだ、残り少なくなった歯磨き粉。順番にゆっくり押しだしていって、びゅっ。
出ろ出ろ出ろ出ろ、出ろ。今日こそなんとか自分一人の力でどうにかしたい。これができれば毎回イッチーの手を煩わさなくてもよくなるんだ。
カーラの努力は報われず、乳首はうんともすんとも言わない。
「……うまくいかない」
「おまえほんと意識するとヘタクソだね」
オーソンが乳首から水を出すのだから当然自分もできるだろうと試した時は出たのだ。本当に。弟たちからもやんややんやの大喝采で、これでパーティーの主役はいただいたと思ったのに。
まさか出そうと意識すればするほど出なくなる、わがままニップルであったとは。
「きっと観客が足りないんだ。なんせこのオレのニップルだ、大観衆の前でならそれはもう張り切って噴水のように魅せてくれたに違いないぜ」
「で、悪魔憑きだって知られて避けられ逃げられのド底辺な青春を送るわけだ」
「ぐっ、……いや、今回は大丈夫かもしれないだろ!」
かさついたイッチーの指先が、乳首の先をちょいちょいとこすった。それだけで腰にぞわりと何かが走る。
「これまで悪魔が憑いてなかったこと、ないでしょ」
耳元に掠れた声がかかり、カーラは思わず耳をふさいだ。邪魔だよと押され、両腕が上がる。
「みっ、耳はダメだって言ってるだろっ!??」
「はいはい。わかったからそのままでいて」
脇から乳首まで、やわらかく何度も手のひらが往復する。イメージよりずっと温かい手の平が優しく撫で、少し荒れた指先が皮膚をかすり軽いかゆみをうむ。邪魔と言われたカーラの腕はバンザイの姿勢のままだ。苦しい。そっとおろそうとするとにらみつけられたので、せめて頭の後ろでくんだ。バンザイよりは楽だ。けれど胸をイッチーにつきだす姿勢になったのは少し恥ずかしい。もう吸ってほしいわけ、なんて意地悪く目を細める弟に強く否定できないから。
背中に手が添えられ、軽く引き寄せられる。口を閉じるのを忘れていたからつい吐息が漏れた。
「っ、あ」
手は頭の後ろだから口をおさえられない。ぐっと歯をくいしばる。
ねろりとなまぬるい何かが胸の先をはった。いや、何かはわかっている。弟の。イッチーの舌がゆるりとカーラの胸を。
乳首の形を確かめるように舌全体を押しつけ、トントンとノックする。刺激で勃ちあがってしまう乳首にやわりと歯をたて、カーラに存在を知らしめるようきゅうきゅうと甘く噛んだ。
「い、ッチ……っ」
「遊んでないって。ほら、おまえの乳首がいじってほしいって必死に勃ってきたからさ、えらいなって撫でてやってただけ。あとどれくらい成長したかも測ってやろうと思ってさ。おれの歯で挟めるくらい大きくなったの、えらいじゃん。チェックもすごいしやすい」
話しながらも口はカーラの胸から離さないため、唇や歯が予想もしてないタイミングで乳輪や乳首にあたる。口に含まれていない方の乳首はひたすら親指ですりすり擦られ、乳頭がなんだかちりちりする。もっとぎゅって。開いた口から飛び出しそうになった言葉を慌てて飲み込み、カーラは頭の後ろでくんでいる手を握りしめた。バカ、もっとってなんだ。ぎゅって、そんなまるでちょっと痛いのが好き、みたいな。違うだろ。今はそういうんじゃなくて、乳首からさっき飲んだ聖水を出さなきゃで、イッチーは一人でできないカーラの手伝いをしてくれてるだけで。
「真っ赤でぷっくりしてかわいいね、ピンピンに張りきってるじゃん」
ちゅくんと吸われ力が抜ける。
かわいい、って。いやオレは格好いいしオレのニップルなら当然格好いいに違いなくて、だからかわいいわけがなくて。ああでも、部屋のライトに煌々と照らされる濡れた乳首は確かにどこか別の生き物のように見える。カーラの乳首ではなく、胸に偶然落ちてきたキュートなグミのような。
ぎゅっとグミがつぶされる。ぬめった舌先でずっとよしよしされ甘やかされたそれは、突然の刺激にびりびり悲鳴をあげた。痛みでよりいっそう赤くなったそこを、イッチーの爪がピンと弾く。
「っ、う、……ど、どうだイッチー」
「もう少しで出そう。ちゃんと意識を乳首にやって、なにされてるか見てろよ」
あやすように口づけられ、ちゅくちゅくと吸われる。生温い甘やかしと痛みに近い刺激を交互に与えられ、きゅいきゅいと乳首を吸引されている。見ていろと言われたから目をそらすこともできない。別の生き物、なんて逃げられない。カーラのだ。甘く噛まれ舌で押されひたすら吸われているのは、カーラの乳首。先がうずき、かゆくてかきむしりたいようなぞわぞわが胸から全身に巡っていく。
力が抜ける。前に倒れ込みそうになり、ぐっと腹に力を込めた。腕が震える。変な声が出そうになって唇をかみしめた。変な声ってなんだ。わからない。わからないけど、たぶんきっと弟の前では出さないようなそんな。
鎖骨にぬるい空気がかかる。イッチーの鼻息だ。口で吸っているからあたるのは当然なのに、荒い呼吸がまるでカーラに興奮しているようで妙な気分になる。これは悪魔がいるかどうか調べているだけ。乳首から聖水を出すための行為。
「ほら、やっぱりまた悪魔が憑いてた」
まったくどれだけ憑かれやすいんだか。
呆れたように肩をすくめる弟が口から出したのは、白く濁った液体。カーラの乳首から出た元聖水だ。
透明のままなら問題ないが、ミルクのように白いと悪魔が憑いている証らしい。
「……本当に自覚はないんだ。こっちこそ知りたいぜ、なんでここ最近、悪魔はオレにばかり憑くんだ?」
「知らないよ。どうせバカみたいに口開けて歩いてるんでしょ」
「口をあけると言えばジュシーなんだがなぁ」
「おまえが悪魔ならあいつに憑こうと思うわけ?」
鼻で笑われてぐっとつまる。かわいい弟だが、まあイッチーの言わんとすることはわかる。うん、まああの、あんまりとり憑きたい感じではない。なにが起こるかわからないうえに主導権も奪われそうな気がする。
その点カーラなら、ギルティフェイスにエキサイティングなボディ、スマートかつホットな空気を漂わせるいかしたナイスガイだ。クール!!! 悪魔が憑くのも当然だ。
「はい、じゃあ尻上げて」
「っ……ああ」
「いつもやってることでしょ。今更恥ずかしがらなくても男同士なんだから」
淡々とした口調にひるむ心をふるえ立たせる。
悪魔を祓うためといえ、この行為の前はいつも戸惑ってしまう。男同士、しかも兄弟なんだから裸を見られるなんて今更だ。だが、いやだからこそ、全裸で四つん這いになって尻の穴を弟に見せるのに慣れることはない。
イッチーに向け持ち上げた尻たぶが、ぐいと開かれる。悪魔が憑いていればするだろうから、ときちんと洗ってきたのだ。大丈夫、汚くはない。そう思っていても羞恥でカーラの目は潤んだ。
「……ねえ、もしかしてシャワー浴びてきたわけ?」
「えっ」
「なんかしっとりしてる」
ぺたぺたと穴の周りに乾いた感触。イッチーの指だ。水分を探すように押してはくにくにと尻を揉んでいる。
「ま、まあエチケットの一環というか」
「悪魔がいないかもしれないのに?」
きゅっと心臓が縮んだ。確かに、これまでチェックのたび毎回悪魔はいたが、今回は大丈夫だったかもしれない。可能性はゼロではない。
「だだだだだだがその、もしかして! もしかしたらいるかもしれないしそうしたらその、イッチーは祓ってくれるだろうしあの、だから」
「おれの指がここに入るから、きれいにしてきたんだ?」
にゅくりと慣れた様子で、イッチーの指がカーラの体内に入った。我が物顔で。
「ねえ、どこまできれいにした? 一人でシャワーしながら、おれの指が入るあたりまで自分の指入れたの? ここらへんかな、とか前の時の思い出してしたんだ?」
ワセリンと共に入り込んだ指は、ぐるりぐるりと腸壁を押さえるように回しながら出て行き、また挿入される。答えを求めていないのか、カーラが口を押さえ震えていてもイッチーがとがめることはない。
「悪魔がいるつもりで準備したんだ……おれの指のこと考えて入れたんだ……ねえ、そうでしょ。こうされると思ってシャワー浴びたって言ってたもんね。チェックされるつもりでいたんだ。ねえ」
忘れてたって言ってたのにね。
赤裸々に秘密をあばかれカーラは言葉も出ない。イッチーの声音にあげつらうような色がないからこそ余計に恥ずかしい。
ああ、こんなことなら気づいてない振りなんてするんじゃなかった。シャワー浴びてきたからチェックよろしく、と堂々としていればよかった。言われるまで忘れていました、なんて顔をして内心意識しまくっていたなんて格好悪いことがばれるくらいなら。
「カーラ」
とろけるようなやわい音で名を呼ばれた。
まさか。イッチーはこんな呼びかけをしない。カーラの名をめったに呼ばない。こんな、まるで愛おしいものを語るような響きで。どうせカッカと燃えるように熱い耳のせいで、聞こえ方がおかしくなっているに違いない。
「お望み通り、ちゃんと悪魔を祓ってやるよ」
熱っぽい声と共にまた指が挿入される。
穴の縁をやわやわ押し、抜いては入れまた抜いて。けして痛みを与えないよう、怖い思いなどせぬよう。その指先は、シャワーをしながら想像したものよりずっと気持ちよかった。
ああ、やっぱりおかしくなってしまっている。きっとこれも悪魔のせいだ。
◆◆◆
悪魔は身体にある穴から入ってくるらしい。
口はもちろん耳や鼻、目。ほんの少しの隙間から油断しているところにするりと。
だからこそ、祓っている最中に他の悪魔が入らないようふさいでおかなくてはいけない。目と口を閉じ耳をふさいだカーラに、意識がある間はその辺は問題ないと告げたイッチーは淡々と口にした。尻だよ、と。
目も鼻も口も耳も、意思を強く持っていれば入れない。だけど尻の穴を常に意識の中に置いてはないだろ、そこを狙われるんだ。一番守らなきゃいけないところなんだよ。
ふざけたことを、と笑い飛ばすにはイッチーは悪魔がいるという証明をしすぎていたのだ。
「まずいな」
カーラの尻の穴を自らの指で栓してくれているイッチーが、ぽつりとこぼした。
空いていた左手をカーラの胸元にやり、乳首から染み出る液体をぬぐいとりぺろりと舐める。問いかけるよう顔を上げたカーラに難しい顔をして見せ、まだ唾液でてらてらと光る乳首をきゅいとひねる。
「ひぅっ」
「悪魔の力が強まってる」
「……え?」
「何回も憑かれてるから憑きやすくなってるのかもしれない。いや、もしかしたら今回の悪魔がいつものより強力なのかも……ほら、穴も前よりでかくなってる」
「でか……っ!?」
思わず反論しようとし、尻の中で指をピースされカーラはぐっと黙った。
悪魔が侵入しないよう毎回イッチーが指で栓をしてくれていたそこは、確かに指一本でぎちぎちだったのだ。当初は。ワセリンだって、あまりに入らないから滑りを良くするためにイッチーが準備してくれたもので。それが今は二本の指が中でピースできてしまうのだから、少々カーラの尻の穴が緩やかになった、のは……そうかもしれない。
「見て。乳首の形もほら、ぷっくりプルプルにエロく成長してる。おまけにさわってもないのにちんぽは半勃ち。まずいよ」
エロいかどうかはともかく、弟の指に挟まれたニップルは確かに大きくなっている気がする。なんというかこう、妙に扇状的というかなんというか。カーラの記憶にあるものより触られるもののような形になっている、みたいな。なんだ触られるものって。すまないお察しください、というやつだ。
そもそもまず、ちんぽが勃つのがおかしい。だって今一切触っていないのだ。魅力的なガールも見ていないし、触れてもない。溜まってたんだろうって? さっきシャワーした時、あれこれ思い出してつい自分でいたしてきたところなのだ。出したばかりで、それなのに。
「ちょっと本気だすから」
両手使わないと、と熱い目をするイッチーはアメフト選手のようで結構なことだが、いや待ってくれ。説明。説明がほしい。枕元からとりだした、ふさふさした犬のしっぽのようなそれはなんだ。キーホルダーにしては大きい。しっぽの根本部分に丸がいくつもついている。
「指の代わり。おれは犬より猫派だけど、さすがにあからさますぎるし逆にあざといでしょ。おまえのイメージはどっちかっつーと犬だし」
「いやオレは誇り高きウルフ、じゃなくてええと……イッチーもしかしてそれを」
「おまえの尻に入れます」
「WHY!?? え、待ってくれなに、なぜだ!!?」
「いつも言ってるだろ、悪魔は穴から入るって。でも今回のは強そうだからおれも本気だして両手使いたいわけ。つまりおまえの尻がフリーになる、ここまではオーケー?」
「お、オーケイ」
「じゃあおれの指の代わりに他の物を入れないといけない、のもわかるよね」
理解はできる。が、したくない。
イッチーの手にあるそれは黒くごつりとしていて、少しでも身をこわばらせれば優しく撫でゆっくりゆっくり進めてくれた指とはまるで違う物に見える。ってゆーか見て、数えて。ほら、丸がいちにーさん、三つもあるんだが。
「指より短いし、二本あわせたのより細いから。ほら」
「いや……その、でも」
「怖い?」
兄として格好がつかないが背に腹は代えられない。だってどう考えても痛そうじゃないか! こくりとうなずくと、ぐっと唇をかみしめながらイッチーが下を向いた。せっかくいろいろ考えてくれているのに申し訳ない。だが怖いものは怖い、仕方ない!
「なにそれ素直かっわ、……っごほん。じゃあさ、怖くないようにおまじないしてやろうか」
「恐怖心がなくなる呪い!? すごいな、黒魔術は! あ、じゃあせっかくだし痛くない呪いもかけてくれないか」
「んぐっふ、んふ、……うん、もちろん」
指示されもう一度イッチーに尻を向け四つん這いになる。
尻の穴に指がふれる。これまでは栓するために入ってきていたのに、今は穴の縁をゆるゆる撫でるばかりだ。尻たぶがぐいと開かれる。ぬるい空気が当たった気がして、つい身体に力が入る。もしかして今の息じゃないのか。位置的に、穴をまじまじと見られているに違いない。悪魔祓いに必要だとすでにあちこち見られたことはあるけれど、何度経験しても恥ずかしい。ああ本当に、シャワーを浴びてきてよかった。
安心から身体の力を抜いた瞬間。ぺとりと濡れた感触。尻に。
「ひぇっ!?? い、イッチーなに」
「おまじない」
「な、なになになにが」
「痛いの痛いのとんでけ、怖いことなんてなにもないわよってよくキスしてもらったでしょ。あれ」
それは幼い頃にマミーがよくやってくれた懐かしい思い出のやつでは!?? とりあえず今この状況でする話じゃない気がするのはカーラだけだろうか。
ちゅ、と感じてはならない箇所に口づけされた感触。
穴の縁をねろりとたどり、たっぷりの唾液と共にぬめる何かがカーラの中に入ってくる。壁にぺたりと張りつき、面で押しながらぐにょりと抜ける。穴の周りに熱い空気とかさついた感触。やだ。やだ、違う、キスなんてそんな。シーツの上、ずるりと腕がすべった。力が入らない。こんなの舌じゃない、舌はだってこんな動きしないはず。
悪魔は穴から入る、だから栓をするんだよ。
弟に言い聞かされた言葉がぐるぐる頭を回る。悪魔。悪魔が入ってくる。イッチー、悪魔が入ってくる!!!
逃げようと動かした腕はシーツにしわをつくるにとどまった。真っ赤に腫れ敏感になった乳首が擦れ、くにゃんと腰が落ちそうになる。
「おっと。カーラ、しっかり膝たてておいてよ」
ずるりと慣れ親しんだ感触。イッチーだ。イッチーの指が無遠慮にカーラの中に入り、ぐいと穴を広げた。開いた隙間を覆うようにべちゃりと膜のようなものが被さってくる。ぐにゅぐにゅと縁のしわともみ合うような動きに、カーラはついに叫んだ。
「もう! もうやめてくれ!!」
「……怖いのはなくなった?」
弟の言葉の前に、ぴちゃりと音がしたのを耳に入れたくなかった。
あの舌がなにをしていたか、なんて。
「怖くない! 怖くないから、だからもう」
「うん。どうしてほしいって?」
言葉にしなければいけないのか。
ぐっと息を飲むも、おそらくイッチーは譲らないのだろうと必死で言葉を絞り出す。弟のこだわりはよくわからない。それでも、カーラを助けてくれるのはイッチーなのだから。
「さっきの、あの犬のしっぽみたいなの……入れて、ほしい」
ねだるような言葉に顔に熱が集まる。ああ、あんなオモチャを挿入してほしがるなんてあさましい。ディルドを求めているみたいじゃないか。
だけど今のよりまし。耐えられる。あれはダメだ。あんなぐにょりとしてぬるぬるでとんでもない動きをする……イッチーの舌、は。カーラの中に侵入してくる悪魔そのもののようだったあれは。
「カーラが望むならもちろん挿入するよ。動物の尾は魔除けの効果もあるからね、安心して」
指と舌でさんざんやわらかくされたカーラの穴は、何の問題もなく黒いでっぱりを三つとも飲み込んだ。
痛みや苦しみを覚悟していたのに肩すかしだ。
それだけ悪魔の力が増しているのだという言葉にぶるりと肩をふるわせる。そうだ、カーラの乳首が妙に大きくなってきたのもイッチーの前で裸になって少し尻の穴をさわられるだけで半勃ちになるのも、全部悪魔のせいなのだ。
その恐ろしい悪魔を祓うべく、イッチーは真剣な顔で絵筆に聖水を含ませた。
「うっ……それ、するのか」
全身にありがたいお経を聖水で書くことで体内に入り込んだ悪魔を苦しめ外に出す、のは以前やってもらった。
効果はすごいらしいがなんせくすぐったい。最後の方など、笑いすぎてよくわからなくなりカーラはあまり覚えていない。とにかく笑い転げて疲れ果てることだけは確かだ。
「今日はツボだけ。こないだのでわかったんだけど、全身に書くと悪魔がおまえの体内で分裂してあちこち逃げるからすごい時間かかるんだよね」
「ほう」
「今回は魔除けしてるのもあるし、ツボいくつかだけに書いて一気に出したいと思ってる」
悪魔払いにも様々な方法があるんだなぁ。常に試行錯誤する弟を尊敬の目でみつつ、カーラは覚悟を決めた。こんなにイッチーは考えてくれているのだ、カーラががんばらなくちゃ話にならない。
「じゃあ始めるから、そのままの体勢キープしてて」
先ほどすべった腕をしっかりのばす。四つん這いのままぴたりと止まったカーラの背中を、よくできましたとばかりにイッチーが撫でた。きゅっと身体に力が入り尻を締め付けてしまい、ゆらりと尾が揺れる。ただの反射でしかないというのに、まるでうれしいと犬がしっぽを振ったように見えたのではとカーラの頭はゆだってしまった。
◆◆◆
がくんと膝がおれそうになり、あわてて足に力を入れる。
「もう少しだから動かないで」
口を開いたらだらしない声が垂れ流しになるから返事もできない。ベッドにつっぷした頭をなんとか動かしたら、筆先が尿道口をかすめてカーラは声にならない悲鳴をあげた。
ツボだ、と顎から首にかけてお経を書かれていたときはよかった。耳はイッチーがまた怖くなくなる呪いをかけてくれたから、べたべたになったけれどまだなんとかなった。へそも背中もくすぐったかったけれどさらさらと一文書く程度だったので、以前の全身に書いた時と比べて楽だと思ったくらいなのだ。
問題は、悪魔の力の影響力が高い乳首に至ってからだった。
筆の先でちくちく刺激され、乳輪をぐるりぐるりと撫でさすり乳首の先をしゃわしゃわ擦られる。文字を書くというより刺激するような動きに疑問を抱けば、古代文明で使われていた闇の文字だから複雑なのだと返された。魔法陣を書いたりもしているらしい。なるほど。筆ではなくイッチーの指が乳首をひっぱったり弾いたりするのも、そういう動きが必要だからだそうだ。強力な魔法陣は平面だけではなく立体的らしい。
まだ聖水が残っているから全部出しきるように、とカーラ自身が胸を揉むよう促される。聖なるものといえ体内に残ったままでは体に悪いらしい。もっともだ、と揉んでもなかなか乳首から聖水はでない。いつものようにイッチーに吸ってくれと頼んだが、せっかく書いた文字が消えてしまうから無理だと顔を覆いながら断られてしまった。もったいないとかせっかくのおねだりチャンスとかぼそぼそと聞こえたが、イッチーの指の動きを再現することに夢中だったカーラにはあまり聞きとれなかった。
アドバイス通り、乳首を軽くひっぱったりひっかいたりしてぷくりと頭をもたげさせる。イッチーの指を思い出し動かせば、同時にぬるい口内やねろりとした舌、吸われる感覚もよみがえる。ただ乳首から水を出す。それだけなのにいつもと全然違う。鈍く熱を持ちじんじんとしびれる乳首はひどく敏感で、乳頭から水が出るたびとんでもない快感が胸にたまっていく。
精子を吐き出す時のように一気に放出してしまいたい。股間に溜まってくれたら慣れたものだというのに、胸にだなんて一体どうしたらいい。聖水が出るのはある意味射精では、と期待するも滲み出るたび快感が溜まるから正反対だ。ただひたすらじれったい気持ちよさのみが体内を暴れまわる。
それでもここまではまだがんばれた。今までだってこれくらいのぞわぞわはあったから。
「ひわっ!? な、なに」
「ああ、ちょっと乾きが悪いから息ふきかけたんだ」
急に悪かったよと言う口調に反省の色はまったくない。次は一声かけるとかそうじゃない。そういう問題じゃない。いきなり股の間に息をかけられてみろ、イッチーだって悲鳴を上げるに決まってるんだ。
動かないでよ、と告げられると同時にさわりと筆が太股を撫でた。尻の間から股の間を通り足の付け根をくすぐりながら睾丸をくるくる撫で回し陰茎に。細かい魔法陣を念入りに書かないといけない、と幾度も幾度も筆でなぞられるそこは、じゅわじゅわと体内から熱が染み出てなんだか溶けてしまいそうだ。四つん這いで尻を高くあげているから、シーツに突っ伏してしまうこともできない。
さぼるな、と乳首をピンと弾かれる。そうだ、自分で絞ってださなきゃ。ああ、でも自分でするよりイッチーがしてくれる方がずっと気持ちいい。もう一度ピンって弾いてくれないだろうか、乳首。手を動かさなかったらまたしてくれるかも。きゅってひっぱってちょっと歯をたててそれで。
ダメだ。なんだ今の。なに。なんてことを考えて。ああまだ勃起してる。悪魔はまだ出て行ってくれない。
陰茎の裏側をしゅりしゅりこすられ腰が浮く。
「ここさ、女の子だったら穴があるとこ」
とん、と固いものがカーラにあたる。筆の柄だろうか。
「蟻の戸渡りって言うんだって。女の子はここが気持ちいいならさ、男もここ気持ちいいかもしれないよね」
違う、指だ。イッチーの指がくいくいとリズミカルにカーラの蟻の戸渡りとやらを押している。意味がわからない。女の子は確かにここに女性器があるんだろう。だからといって男にはなにもないんだから気持ちいいわけがない。
「納得行かない顔してんね。……まあいいや、そのうちで」
「……? そのうちもなにも、気持ちよくなる理由がないだろ」
「そりゃそうだけど」
「っ!??」
いきなり尿道に筆の先が差し込まれ、全身が粟立つ。思わず力が入ったのか、乳首にそえていた指がぎゅっとつまんで避けていた快感を拾ってしまう。
「う、っあ」
「あ~あ、ダメだって出したら」
尻、というよりその中にずぶりと差し込まれる固形物。魔除けだ。力が入った勢いで出してしまったなんて。そんな。イッチーの目の前で、そんなのまるで排泄したみたいじゃないか。
顔に熱がたまる。嫌だ。そんなプライベートな行動見せるような趣味はないんだ。頼む、イッチー気づかないでくれ。
「あ、今ので結構悪魔出て行きそうだね。乳首自分でひねったのがよかったの? 赤くなっちゃってるけど、こんなに痛いくらいのがいいんだ? カーラ痛いの嫌だって言うわりに好きなんじゃない」
「ちがっ…」
「それともこっちかな。おれの指より太いもんね、丸いのがあちこち刺激していいとか? しっぽ振って喜んじゃってるもんね」
ふさふさとしたしっぽがずるりと抜かれる。急な動きにこすられる中は、痛みを感じてもおかしくないはずなのに。
「おっと栓はしておかないと」
ぽかりと空いた場所にもう一度ぐにょんと魔除けが入り込む。さっきとは違う角度でとんとんとあちこち刺激され、尾てい骨がしびれる。
ぞわぞわ、では収まりきらない感覚が快感だとすでにカーラは悟っている。だってこれ、一人でする時に射精の前に腰を駆け上がる感覚だ。ただもっと巨大で、全身に巡っているから受け止めきれないだけで。こんなのちょっと精子を出しただけでどうにかなるんだろうか。胸も、腰も、耳も背中もへそも筆で撫でられた箇所は当然のことながら、尻の中というか奥、腹の底あたりのかきむしりたいようなしびれは。
「ねえカーラ、自分で魔除け出してよ。手使わないで」
イッチーの信じられない提案。
「大丈夫、さっきできたじゃん。それに丸が三つあるから、二つまでは出しても栓はできてる」
なにひとつ大丈夫じゃない。カーラの心配が栓なわけないだろう。
手を使わないということはつまりその、力を込めなくてはいけない。……排泄する時のように。
今の体勢は四つん這いで、真っ裸で、座るイッチーの目の前に尻をつきだしているわけで。悪魔祓いのためでなければ絶対しない、まるでクールじゃない姿勢だというのに。この期に及んで弟の目の前で尻から物を出せと。自力で。
「無理! できなぁい! できるわけがなぁい!!」
「は!? やる前から諦めてんじゃねえよ、できないじゃなくやるんだよ」
「だってそんな」
人前で平気で脱糞できるイッチーと一緒にしないでほしい。カーラには羞恥心というものがあるのだ。
「おまえが見、っうひぃっ!??」
ぐぽん。尻から何かが勢いよく出ていく感触に、思わずカーラは声をあげた。
「ほら、簡単だろ出すの。感覚がつかめないなら手伝ってやるから」
ぐにゅん。ぬぷ。ぎゅにゅり、ずり、ずずず。入って、出て、また入って。ぐちぐち尻の穴が開かれ、腸壁がこつこつとつつかれる。ふさりとしたしっぽが揺れて尻をかする。なんで。いったいどうしてこんなこと。
「や、や、ダメ、や、いっち、イッチー!」
「乳首もさぼるんじゃねえぞ。ほらぎゅーっと搾乳しろって」
「さくにゅ、じゃないぃぃ」
出し入れされるたび腸内がぐにぐに押され、どんどん形を変えていく。知らない。カーラは自らの尻が、体内が、こんな風に動くことも広がることも、ましてやふれたこともない場所にいつの間にか快感の種が埋め込まれていることも気づかなかった。なに、なんで。どうして。自分の身体になにが起こっているのだ。痛いだけならやめろと怒れたのに、違和感までならふざけるなと止められたのに。腹の底にたまったじれったい何かが、もっともっとと訴える。かきまわして、突いて、もっと奥まで。
ぎゅうと指先ではさむたび飛び出る聖水。むずむずしてかきむしりたくてできれば引っ張ってとってしまいたい。乳首なんてなくてもいいだろうに、日常生活をおくるうえでまるで気にもとめない部分なのに。それなのに今、目を背けていてもあからさまに存在を主張してきてまるで無視できない。少し搾るだけでじわじわにじむ聖水。イッチーがくわえてちゅくちゅく吸ってくれたらすぐなのに。ああでもそんなことしてばかりいたら、授乳になってしまうんじゃないだろうか。聖水を胸から出し飲ませるなんて聖母マリアもかくや。キリストでなくマリアになってしまうなんて予想外……YO SO GAYというやつか。それにしても搾乳なんてクールじゃない。確かにまだ白く濁っている聖水はにおいまでミルクのようだが、それならいっそ授乳ということにしたら。
「しっぽ振って大喜びしてるのになにいってんだか」
だんだんなにを考えているのかわからなくなってきていたカーラは、尻への衝撃でふと正気に戻った。
ぺちん。
軽く、本当に軽くイッチーの手で尻たぶをたたかれた瞬間、射精したからだ。
「え」
魔除けが予想もしてないところにくっと当たって、ぎゅわっと全身に力が入って、乳首もきゅっとなって。
「え」
射精してしまった。
尻をたたかれて。
「……えぇ」
勃起はしていた。快感も得ていた。体中あちこちに散らばっている快感が股間に集まればすぐ射精できるのにな、とも考えていた。
いやでも、え? 今??
「やったじゃん! 悪魔出て行ったね」
「……い、っち」
「今回のは手強かったけどなんとかなってよかったじゃん。やっぱ魔除け効くな」
「あくま、が」
「おれの手にも聖水たっぷりついてるからさ。内から魔除け、外からおれの手で衝撃を与えて追い出したわけ」
「しょうげき」
「そうそう。けっしておまえがスパンキングで感極まっていっちゃったわけじゃないって。でもまあ今後そういう方向に手を伸ばすのもおれとしてはやぶさかではないというか、いつもとちょっと趣向変えるのすげえ大事っていうか、おまえの可能性をより感じたというか」
急に早口になったイッチーの言っていることがわからない。
ただ悪魔を追い出せたということは理解できたので、カーラはほっと安心し座り直そうとしてぴたりと動きを止めた。いけない。まだ尻をベッドに下ろすわけにはいかなかった。
「よくわからんが悪魔を追い出してくれてサンキューだぜ。ところでイッチー、あの……魔除けはもう、グッバイしていいんだろうか」
「ん? ああ、魔除けね魔除け。そうだねいつまでも入れてたら苦しいだろうし」
「いや苦しいというかぞわぞわがな」
「へ」
「予想外のところが押されるというか、あっちこっちにコツコツ当たるから落ち着かないというか、こう、ぞわぞわが溜まるって感じで」
「溜まる、って……ちんぽに?」
「そっちより腹の底というか奥というか、自分でもよくわからないんだが」
「……痛い、じゃなく?」
「痛くはないな!」
「苦しいとかしんどいとかもう勘弁だしばらく尻に物を入れるのはノーサンキューだぜ、でもなく」
「うん? ああ、そうだな。別に尻に問題はないぞ」
ただぞわぞわが終わらないのと不定期にきゅうと中を刺激されびくついてしまうだけだ。イッチーが丁寧にならしてくれているからこれまで切れたこともない。
尻の穴の取り扱いについて、おそらく弟はプロだ。カーラはその点について心配したことはない。
なんだかんだ、今回の魔除けだって大したことなかったじゃないか。見た目でちょっとひるんでしまったがおまじないもしてもらったわけだし。……あのおまじないの方が問題あるんじゃないか? イッチーは怖がる相手全員にあれをしてやるんだろうか。マミーは転んで泣くカーラ達むつごにわけへだてなくキスしてくれていたが、つまりそういう……?
胸がもやりとする。
イッチーは兄弟思いだ。普段あたりの強いカーラにここまで親身になってくれる愛あふるる男が、他の兄弟に手を貸さないわけがあるだろうか。いやない。特に悪魔祓いなんて彼の得意分野、助けてくれるに決まっているのだ。
当然のことで、情に厚いブラザーを誇りに思う。クールな顔していざという時、なんて恰好いいじゃないか! そうだろう?
胸の内に問いかけるも、はっきりした回答があるわけでもない。そもそもなにを問うのだ。疑問なんてない。イッチーはいつでもブラザーを助けてくれる、カーラにしたようにこうして。おまじないだって、定期的なチェックだって、体内の悪魔を祓うための行為だって。
「ああ! なんてことだ!!!」
突然の大声に、ぐるぐる考えていた内容がパンと断ち切られてしまう。
「今回カーラの中にいた悪魔はなんと二匹! 一匹はさっき祓えたけど実はもう一匹残ってる。ああ、でもなんて悲劇! 聖水は使いきってすでになくなってしまっている!!!」
まるでバラエティ番組のMCのような口調で、イッチーが滔々と状況を説明している。これまでのお話、をCM明けに教えてくれるような親切さだ。
「え……ええ!? もう一匹!!!」
しかも聖水はなくなったということは、悪魔を祓う術がない。
やっとぴんときたカーラが目を見張ると、イッチーもこくりとうなずいてくる。
もっとも悪魔が入りやすい尻の穴をふさぎ、カーラの体内にひそむ悪魔を聖水で追いつめ陰茎から精子と共に放出する、のがこれまで繰り返してきた悪魔祓いだ。筆でお経を書かない時も、聖水を飲み体内の悪魔を追いつめる行動に変わりはない。
「もしや聖水がなければ祓えない……なんてことは」
そっとそらされた視線が答えだった。
つまりカーラに憑いた悪魔を祓うことができない。
「きょ、教会にもう一度もらいに行けば」
「時間おいたら免疫つけるよ。今すぐたたかないと」
そんなウイルスじゃないんだから。いやカーラ的には悪魔の方がウイルスのような気持ちなのだけれど。
どうしたらいいんだ。これから生涯悪魔を憑けたまま生きていかなくてはいけないのか。悪魔憑きのカーラと後ろ指をさされ孤独に……なんだかちょっとクールだな? 悪魔憑きでなく悪魔使いとかならもっといい感じじゃないか? こう、悪魔にマスターと呼んでもらうとかそういう。
「……ひとつだけ方法がある」
「うぉっ!? あ、いや方法な。うんうんひとつだけ方法がある。オーケイ、大丈夫だ」
「カーラ? やっぱり怖いよね、悪魔が憑いてるうえにこれまで試したことのない方法なんて」
頼りにならなくてごめん、と肩を落とされカーラは必死に声を張った。
イッチーが頼りにならなければいったいどこの誰が頼りになるというのだ。こんなに親身に考えてくれている弟になんてことを言わせるのだ。おまえは頼りになる、だから胸を張ってほしい。悪魔憑きのままも恰好いいなとかちょっと考えてしまってすまない。このままのカーラがいつだって最高に恰好いい、そういうことだろう。
「じゃあ、試してみていい?」
「もちろんだ! 信じてるぞイッチー!!」
「おれの力もかなり使うし、あとおまえの協力が必要なんだけど」
「なんでも言ってくれ!!!」
少々後ろめたかったカーラは、自分にもできることがあるのだと諸手を上げて喜んだ。いくら詳しいといえ専門家でもない弟に、一方的に世話になっているのが心苦しかったのもある。
「ひひ、元気だね。それだけ体力あまってるならいいかな」
「まかせろ。今からスクワットでもすればいいのか?」
「全裸スクワット揺れるしっぽつきとかどちゃくそえろいじゃねえかおまえそんな健全な顔してしれっと最高の提案してんじゃねえよクソふざけんなカメラ用意してから今度ぜひお願いします!!!!! ……んんっ、今回はいいよ」
「そうか? ところで早口すぎてほとんど聞き取れなかったんだが」
「いいから」
「え、でも」
「おれが指示するから、それまでスクワットはとっておいて」
「んん? まあイッチーがそう言うなら」
とんと肩を押されベッドに仰向きに寝ころぶ。覆い被さる姿勢になったイッチーを見上げつつ、何度もこのベッドに上がったけれどこれは初めての体勢だなとカーラはなんだかしみじみした。
「あー、その、おれの力をおまえの体内に入れて追い出すっていうか」
「イッチーの力が聖水の代わりってことか」
「まあそんな感じ」
「じゃあこれまでとそんなに代わらないんだな。オレはなにをしたらいいんだ?」
協力が必要、と請われたからには完璧に弟のオーダーに応えてみせるぜ。燃えるカーラをちらりと見、天井を見上げ、黒い布に覆われた窓とドアと棚を順番に見、もう一度カーラに視線を戻す。おちつかなげに肩を揺らし目をつぶったイッチーは、ぐっと眉間にしわを寄せゆっくりと唇を開いた。
◆◆◆
この後、カーラは知ることとなる。
己の弟は悪魔祓いの知識だけではなく、体内で悪魔の苦手な液体をつくることができるということを。
そんなすばらしい肉体があるのになぜ教会に勤務しないのかって? 同じ疑問を抱いたカーラに抱きつきながら告げられた秘密。それは、イッチーの体液が悪魔に効くのは恋人に対してのみという事実。つまりそう、ラブイズパワー。愛は悪魔に憑かれた恋人を救う。
そしてカーラは、今後どれだけ悪魔に憑かれても大丈夫というわけだ。