使用セリフ
○「ああ・・・もう取り返しがつかない・・・・・・」
○「パンツ1枚でおれと戦えると本気で思ってんの」
○「分かってると思うけどおれ今日パンツ履いてないから」
○「だから寝てる間に盛るなって言ってるだろ!」
○「寝てる間にパンツを脱がすな!!」
○「何枚あるの?」
○「外側より中身が重要」
○「期間限定品らしいよ、それ」
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「いやいやいやそれはない」
会話はまず肯定から入るんだよやっぱり人間アゲてくれる人を好むでしょ、という持論を昔聞かされた覚えがあるんだけれど、つまりおまえはおれからの好意はいらないってわけ? などとつい絡みたくなるほど腹の立つ顔をしたトド松は、じっくりと上から下までこちらを見てもう一度「ないわー」と呟いた。それおれのセリフだからとらないでほしいんですけど。
「まあ一松兄さんがこじらせてることは知ってたし、でもこっちに被害がくるわけじゃないからって放置してたのはボクらだけどさぁ、さすがにこれはどうかと思うよ」
これ、とあごで示されたのは、おれがカラ松のタンスからパンツを拝借している現状のことだろうか。
「あ、盗んでるんじゃないから。そんなおそ松兄さんみたいなことしないしね、こんなクズでも」
「おそ松兄さんは確かに財布から金を抜くドクズだけどその言い方はさすがに同情する……」
いくらおれがしょっちゅうカラ松にちょっかいをかけているとはいえ、兄弟のものを勝手に盗用はしない。さすがにそこまでは落ちていないとトド松の誤解を解こうとすれば、なぜかおそ松兄さんが同情されていた。解せぬ。
「家庭内盗難とか云々よりもね、とりあえず、自分と似た顔がクソパンツを握りしめているという絵面がつらすぎるから……お願いとりあえず手から離して。座って」
「え、なんでおれが持ってるのあいつのってわかるの。もしかしてトド松も」
「自分の顔パンツにプリントするようなサイコパス、一人しかいないんだよねぇぇぇ!!!」
もしかして、じゃねえよ一緒にすんな! と怒り狂っているがそこまでのことだろうか。まあ確かにこんなアイデアはあいつくらいしか考えつかないかもしれない。松代が一山いくらで買ってくる兄弟そろいの白ブリーフの、前面に愛らしくデフォルメされたカラ松の顔がプリントされているそれ。開口部に口がくるようにうまくプリントされてるから、しょんべんする時ちんこだしたらかわいい口からこんにちはするとか最高でしかない。
あ、ひらめいた。ねえこれ、パンツのカラ松にキスしたら本体のちんこもきもちいいサイコーのアイテムじゃない? だんだん成長するにつれパンツ松がキスねだって口とがらしてるみたいに見えるし、成長しきったのを開口部から出したらフェラしながらキスもできるという完璧な布陣。え、なにそれすごいね。カラ松おまえそんなこと考えてここにプリントしてんの。
「……あいつ天才かもしれない」
「なに考えてるのか知らないし聞きたくもないけど絶対違うから」
またもや否定から入るトド松の声はいつもより低い。どうやら機嫌が良くないと察したおれが反論せずあぐらをかけば、真正面に座り込んだトド松の眉がぐいっと上がったのが目に入った。なんでおまえ今日はそんなに気が立ってんの。
「ねえなんでそんなにパーカーのポケットパンパンなの」
「……別に」
「なにをつめこんじゃってるの」
「ゆ、夢、とか」
愛とか希望とか。最後まで答える前に、おれのポケットにトド松の手が突っ込まれる。そして引きずり出されるカラ松の愛らしい顔達。
「……何枚あるの?」
「ろく、まいは……ない」
「全部じゃん! タンス空っぽじゃん!! せめて一枚にしときなよこんなの即バレでしょへたくそか!!!」
確かにタンスにある分全部は取りすぎたかもしれない。でも今朝干した分が乾けば今晩は大丈夫だし、そもそもずっと持っているつもりではない。ちょっと確認したいことがあって拝借しようとしただけで、すぐに返すつもりなのだ。
「え、返すつもりだったんだ? 変態松兄さんのことだからてっきり歪んだ性癖の犠牲にするもんだとばかり」
「おれのことノーマル四男って呼んだのおまえだからね」
「あはは、ごめんごめん勢いでさぁ」
勢いでどっちを呼んだのかにはふれず、ポケットからこぼれ落ちたカラ松のパンツに手を伸ばすと意外そうなトド松の声がした。
「あれ? このクソパンツ反対向いてる」
「そうなんだよ! それを確かめたくて!!」
カラ松は器用だ。ボタンをつけてもらったりひっかけた服を繕ってもらったりと、なんだかんだ世話になっている兄弟達は、だからこそ彼が自分の服にプリントしていても特に注目しなかった。いつものことだからだ。プリント柄のインパクトについては言及していたが、どんな顔をしているかどちらを向いているかなんてじっくり見もしない。
それは一松も同じことで、相変わらずまめなことをしているとは思ったがその時は流した。タンクトップに顔プリントなんて羨ましかったけれど、自分もしてはペアルックになってしまう。そんなのうれしいけど恥ずかしい。羞恥心で燃えてしまう。けれど、ふとパンツに違和感を抱いてしまったのだ。え、おまえそんな顔してたっけ……? 恋に落ちるきっかけのようなセリフだが相手はパンツだ。でもまあそんな感じで、銭湯でなんとなく気にしてパンツをちら見するが、プリントがあまり大きくないうえに場所が場所だからじっくり見るわけにもいかない。でも気になる。しかし見えない。
「だから本人がいない時に見比べようと思って」
「よかった……さすがに実兄のパンツあさる男と血のつながりがあるのは避けたかったんだよね……この際性的欲求のあるなしは触れないでおいてあげるから言わないでいいよ」
安心したと言いながらパンツを見比べだしたトド松は、今の状況が兄のパンツをあさる弟二人になっていると気づいているだろか。トド松の機嫌をわざわざ悪くするのは面倒なので口にはしないけれど。
一枚目。サングラスをしたカラ松の顔。
二枚目。同じ顔でやや口角が上がってる。
三枚目。これまでは右向きの顔が左向き。
四枚目。一枚目と同じ顔だけどサングラスがティアドロップ型。
「えぇ……無駄に凝ってる……」
「すげぇ……左向きはレアだな」
「一松兄さんなんで鑑定人みたいな立ち位置なの」
並べてみるとひとつひとつ特徴がある。これはどんな表情にしようかな、なんてあいつが考えてウキウキプリントしていたのかと思うとなんだか泣けてきそう。尊さで。おまえパンツにそんな……おれのにもしてくれていいんだよ、いやしてください!!!
「でもこれでいくと残りも違う顔っぽいね~。今干してあるのと履いてるのか。ここまでくると逆に気になるから銭湯ででも見せてもらおうかな」
「ああ、それならここにあるよ」
はいとジャージのポケットから取り出して並べてみれば、左向きで少し眉が下がっている気がする。これは困り顔なんだろうか。おいこれこそレア中のレアじゃねえ?
興奮してトド松に報告しようと顔を上げたら鬼がいた。
「……なんで」
「え」
「なんでまだパンツ持ってるわけ……ボク達パンツ六枚じゃん……ここに四つで履いてるのと干してるのでしょ……ねえまさか洗う前のを盗った、とかそういう変態行為を……やっぱり……」
「いや違う! 誤解だから! ちゃんと干してあるから!」
慌てて縁側にはためくカラ松プリントを指させば、鬼はなんとか弟に戻った。それにしてもやっぱりってなんだ。
「ほんとだー。ごめんね誤解しちゃって。あれ、じゃあカラ松兄さん新しいの下ろしてもらったのかな」
「いや、同じ六枚。これは夜中に借りたやつ」
「へー」
一気に大量のパンツを買い込む松代から定期的に新しいものが支給される方式の松野家は、勝手にパンツの数を増やすことなどできない。足りないなら各自のお小遣いでなんとかしなさい、なのでトド松などは勝負下着のつもりかボクサーパンツを持っていたりもするが、カラ松はおれと同じきっちり六枚だ。
「……へえぇぇぇぇ???」
干してあるパンツは左向きで満面の笑みだった。かわいい。右向きと左向きが三枚ずつなのに表情は全部違うとか、細かい作業が得意な割に考え方が雑なあいつらしくてものすごくほほえましい。きっとプリントしている最中、いろんな顔をさせたくなっちゃったんだろうな。サングラスのかっこいい角度を計算して作ったのかと思えばおれの胸からは愛おしさしか出てこない。
しみじみとカラ松への思いをかみしめていると、般若のような顔をしたトド松に襟首をひっつかまれた。あ、これ結構苦しいわ。間近で目をのぞき込めるから多用してたけどやっぱりダメだ。息が苦しくてロマンチックな気持ちとかなる余裕がない。
「だから寝てる間に盛るなって言ってるだろ! こちとら隣なんだよ安眠させろよ!!」
「人聞き悪いな……盛ってねえよ」
そして初耳だ。だから、っておまえはどの松にそんなセリフ言ったんだ。仮にも兄弟で、盛るだどうだとか地獄以外のなにものでもない。
「それ言っちゃうの……実の兄に性的欲求ばりばり抱いてるおまえが言っちゃうのかよ……ねえそもそも夜中にパンツ借りるってなに。いっそ漏らしたから罪を擦り付けようとして、の方がマシに思えるんだけど」
「おまえそんなひどいことすんのトッティ……」
「こっちじゃねーよおめーだよ、さりげなく罪擦り付けてんじゃねーよだから」
「罪もなにもおれはちゃんと言ったから。パンツちょっと借りるねって寝てるあいつに言ったから問題ねーし」
「寝てんじゃん! 寝てる間にパンツを脱がすな!!」
「いつダメって決まったんですかー何時何分何曜日地球が何回まわった日に寝てる間にパンツ脱がしちゃダメってなったんですかー」
「クッソむかつく……っ」
子供の喧嘩以下の言い合いはトド松相手ならしょっちゅうだ。別に年を重ねたからといって理知的に口喧嘩しなきゃいけない法律もないだろう。だいたい口のまわるトド松相手じゃ真っ向から言い合いをしたら絶対に負けてしまう。そういうのは口が達者な者同士で戦って欲しい。
そもそも今はトド松に構っている時間などない。さすがのおれだって、カラ松本人にこの姿を見られるのはまずいということはわかっている。いやだって弟が自分のタンスからパンツ取り出して並べて見比べてるんだよ? おかしくない? そりゃ柄の違いが気になった、という正当な理由はあるけど、それを素直に本人に伝えられるならこうしてこっそり見比べてなんかいないわけで。
別にあいつが男のパンツの柄を気にするって一松は変態か? と思うなんて欠片も考えていない。聞けばきっと喜々として、これはここがポイントだここがうまくできたと思う、って隣に座って教えてくれるだろうなってのも想像がつく。それがすげえ楽しくて幸せだってことも。
「じゃあ素直にそう聞けばいいじゃん。最近はこじらせ方もマシになってきてんだしさ、プリント気になるからちょっと見せてって一言」
「バッカおまえトド松、そんな、そんな幸せ過剰摂取したら身が持たないだろ……!? ぼくにはぼくのペースがあるのに」
「はぁっ!? 寝てる隙にパンツは脱がすのに!!?」
「だっからあれは許可とったの! 寝言でおっけぇだいいぜいちまつぅ~、ってあいつが言ってたから!!」
「どうしようこじれすぎて変な方向に進化しちゃった……ああ…もう取り返しがつかない……」
古来より神の託宣なんてあいまいでぼんやりしたものだったんだから、あいつのふにゃふにゃした寝言をおれがそう理解したらそれでいいんだよ。そういうもんじゃん。あ、そうかおれはカラ松ボーイズとしてあいつの言葉を受け取る巫なわけか。なるほどだから童貞でも仕方ない……よし今後はそういう方向でいこう。
あ、巫女って神様の嫁的な扱いの時なかったっけ。そういう小説読んだ気するな。てことはおれはあいつの婿だったりとかそういう……いいな、その設定すごくいい。
「でもその場合、童貞は神に捧げるってのが一番望ましいよね」
「なんでそういう妄想を心の中にしまわずダダ流ししちゃうかなこの闇松野郎は……いっそカラ松兄さんに聞かせてやりたい」
「ひひ、我慢してよトッティ。あいつに知られたら死しかないからさほんと」
「このやばさを黙ってあげてるボクの優しさに感謝して今度ダッツ奢ってね」
お約束の言葉遊び。トド松は本当にダッツを買ってもらえるとは思っていないし、おれだって奢る気はない。でもまあ感謝してることは事実だし、今度買い出し当番を一回変わるくらいはしてもいい。そういうのあるでしょ、兄弟間の暗黙の了解っていうか。どっちもカラ松におれの歪んだ執着を知らせたくないっていう話なんだけどさ。え、だってやばいでしょ。こんなの知られたら兄弟の距離じゃなくなっちゃう。避けられたりしたらほんと死ぬから。あいつが神であることとおれのことを信徒として認めるかどうかは別の問題だから。
だからこそ、スパンと開いたふすまと響いた声に時は止まった。
「じゃあおれがダッツを奢ってやろうトド松!」
朗々と響く声と両手を広げた意味の分からないポーズ。受け入れ? それはこの世界のすべてを受け入れてやるぜとかそういうポーズか? つまりおれのことも、とかそんな夢は見ませんよどうせおまえなにも考えず単にかっこいいと思ってるポーズしただけなんだろ知ってるよ知ってる、期待なんてしませんよはいはいはい。
というかいいんだよそれはどうでも。問題は、室内でもかっこつけてサングラスをかけたままの目の前のとんちきがどこから聞いていたか、という話だ。ダッツ、という単語を出していたということは、その辺は聞いたんだよな。待っておれなにかまずいこと言ってなかったっけ。いや。いやいやいやそれより。
おれの目の前にきれいに並べられたカラ松の顔がプリントされたパンツ、が。
「……カラ松兄さん、どの辺から」
おまえは勇者だトッティ!!!
「ふっ、おれのイかしたパンツが一松の興味を引いて仕方ない大変なギルティさだということは理解したぜぇ」
あ、最初からでしたか。おまえのパンツ並べてる理由は伝わってましたか。よかった、おまえのパンツでしちならべしたいのに数足りねえぞとか凄まなくてほんとよかった。量産してくれちゃうかもしれないしね、聖母だから。そしたらするけどさ、しちならべ。
「あ、トド松、これマミーからだ。そろそろ新しいの下ろしなさいって」
「ありがと。あー、また名前書いてある! もういい年なんだしパンツに名前書くのやめてほしいんだよねぇ」
「皆同じなんだから仕方ないだろう。よければおまえのもトッティフェイスをプリントしてやるけど」
「絶対いらない」
パーフェクトファッションじゃないのにどこに出かけているのかと思っていたけれど、松代のお供で買い物につきあっていたらしい。なんだよよき嫁かよかわいいな。つーかこれカラ松の字じゃん、おまえ兄弟のパンツに名前書いといてくれたのかよなんだよその優しさあいかわらずほんっとーに聖母だな!!!サンキュウ!!!!!
抱えたパンツをそれぞれのタンスにしまうカラ松の後ろ姿を眺めていると、ちらりと非難がましい目で見られた。え、ごめんなさいおれの嫁妄想してたの口から出てましたか。きもいオーラでちゃってましたか。いや違うって、おれだって別に四六時中おまえ見てそういうこと考えてるわけじゃなくて、つなぎもやっぱり似合うなとか今日は珍しくそんなに胸元開けてねえなそれはそれでかわいいとか、新婚だったらがばっていくなーって。あああああパンツしまうカラ松がおれの変なスイッチ押したのか頭が嫁から離れない。
「……一松、その、おれのパンツなんだが」
「ひゃい! あ、ち、ちが、別にまったくこれっぽっちも性的な意味はなくて! ぽ、ポーカーしようかなって!!」
なに言ってんの? ぼくなに言ってるの??
さっきカラ松ちゃんと理解してたっぽいじゃん。パンツの柄が気になってただけって聞いてたらしかったじゃん。プリント一枚ずつ違うの凝ってるね、いいね、とか言えたら……いやそこまでぼくは自分に期待しないけど、普通に返したらいいだけの話でしょ。タンスにパンツしまうから返してってだけで、別におれでえっちなこと考えてたんだろばか、とか言われてないし。かわいい。違う言われてないってば。
つうかポーカーってなんだよ。
「え!? あ、あの、オレの手持ちパンツこれしかないんだが!?」
のってくれんの!? おまえ神すぎるにも程があるだろ!!?
「パンツ1枚でおれと戦えると本気で思ってんの」
馬鹿!!! おれの馬鹿!!!!!
なに鼻で笑ってんだよ悪役みたいな顔してんだよトド松笑い転げてないで助けろよ助けてくださいお願いします。
そもそもパンツでポーカーってなに、数字のひとつも書いてないしなにがどうなったら勝ちかわかんないし、カラ松は一枚だけのパンツ持って変身ポーズとってるし。それライダーじゃねえの。ポーカーつってんだからゲームなんだよ戦闘じゃねえから。あ、もうプリントしたんすか今度は吹き出しついてYESって書いてあるのかわいいじゃん。
「……あれ?」
おれの目の前に並んでいるのはタンスから出したパンツ四枚。縁側に干してあるのが一枚。ポケットに、昨夜借りたのが一枚。
おれ達のパンツは六枚、で。追加の一枚を今手に持ってポーズしてる、ということは。
「あれ??」
え、どういうこと。数があわない。
おれの手元に五枚。干してあるの一枚。新しいのは手に。え?
おまえ今。え。
「一松、あの、オレの芸術的なパンツはそりゃもうイかすしすばらしいと自分でも理解しているんだ。ただ、まあ個人的には外側より中身が重要、とも思ったりして」
ごにょごにょとらしくなく動く口と真っ赤に染まった頬。サングラスに隠された目はうろうろあちこちをさまよっているんだろうか。見たい、のについ下半身に目がいくおれの正直者! 馬鹿!! 何回おれは自分を罵ればいいんだよ馬鹿!!! なんで目が六つくらいないわけ、つーか録画、誰か録画!
そっとカラ松の足下に置かれるパンツ。知ってるこれアイドルが引退する時の。おれ普通の男の子に戻ります? そっかー引退して結婚か~。は?
「これがオレの気持ちだ。あと、分かってると思うけどオレ今日パンツ履いてないから、返事は次にパンツ履くまでが期限てことで頼む」
開いた時とは逆に、すすすと音もなく閉まっていくふすま。舞台の幕が閉まるように部屋から姿を消したカラ松。そして残されたぼくと相変わらず笑いすぎて転がっているトド松。
「え」
わかってる、てなにが。え。パンツを、はい、履いて、ない。ない!!?
え、おまえつなぎの下ノーパンなの、さっきおれが見てたあの尻はノーパンツだったの、つーか買物行ってきたんじゃないの。いや予想だけど。行ってないかもだけど、でも、え、今はどこに。
「はー笑った笑った。一松兄さん、呆けるのはいいけどさ、追いかけなくて大丈夫?」
「なに、え、なにが」
「うっわぽんこつ。ほんと急な事に弱いよね~。期間限定品らしいよ、それ。さっき言ってたでしょ」
ちょいちょいとトド松の指さしたのはカラ松の残していったパンツ。あいかわらずサングラスをかけている、ちょっと口角の上がった口から吹き出しが。YESって。
イエス、って。
「きかん?」
「うん。パンツ履くまで、だってね」
「のーぱん」
「まあ男の尻だし、つなぎなら目立たないしいけるでしょ」
「パンツ」
「そろそろ復活しなよ。うん、カラ松兄さんのパンツ、干してあるの以外はここにあるね」
あいつは神で、聖母で、天使で、つまりおれなんかが手をふれちゃいけないっていうかふれられないっていうか、そういうので。でも兄で。カラ松。おれの。ぼくの。
「気持ち?」
あいつの気持ちが、YES? 期限を決めて? 履けるパンツはまだ乾いていない。乾くまで、ちゃんと、ぼくを待って。
「……神か神なのかあいつが神じゃなかったら誰が神だよ……いや」
「カラ松兄さんが神とか片腹痛いんだけど~」
「そうだな、神じゃねえわ」
好きな人だ。ぼくの。そして今日からは。
「おれの恋人だわ」
「ねえそのクソキメ顔すっごい似てて腹立つし縁側でパンツといれてるの兄さんの恋人(未)じゃない?」