自覚したなら恋の底 - 2/2

「じゃ、始めよっか」

情緒の欠片もなく宣言したゲンの目の前で、ふんどしだけで胡坐をかいた千空が無言でうなずく。
あ~どうしよ。なんて言ったら緊張ほぐれるかな。いやカチコチになってこっち意識してくれてる千空ちゃんはかわいいし胸ときめくだけなんだけど、せめて返事くらいしてもらわないとなんだか無理強いしてるみたいでちょっと罪悪感が。
勢いで押し流し二度目のセックスに持ち込んだ自覚のあるゲンは、少々後ろめたく思いながら手を伸ばした。
膝の上に置かれていた千空の手を握れば、びくりと全身を跳ね上げられる。かわいい。そんなにこっちを意識してくれてるんだ?

「大好きだよ千空ちゃん」

千空の手を引きゲンの頬に沿わすよう触れさせれば、数秒迷ってそっと指が落ち着く。ゲンの頬から首筋に両手をあて、脈拍でも計っているのだろう。ゲンとしては体温と少しでも柔らかな場所にふれ、緊張をといてくれれば万々歳だ。
ぎゅうと千空の眉がひそめられ、口が何か言いたげに動く。

「いいよ、好きって返さなくても」

俺が言いたいだけだから、千空ちゃんは気にしなくて大丈夫。
そう言えば不満そうに唸られるのだからゲンとしては笑うしかない。好意には好意を返すのが当たり前で育ってきた、素直でかわいい男の子。責任感も誠意も人一倍だから、口先で丸め込んでぐらつかせれば千空を手に入れることは簡単だ。ゲンがやろうと思えばもうとっくに二人は恋人になっていたに違いない。
そうしなかったのは、あまりに千空が健やかでまっすぐだったからだ。
別にわざわざ策を弄して別の立場にならなくても、隣で楽しく過ごしていられた。本人もまだ恋愛より科学で、結婚してすぐ離婚するくらいにはそこに重きを置いていない。手を伸ばして曲げずとも、落とさずとも、ただまっすぐ光っているのを見ているだけで満足していたから。

「おつきあい始めたら言ってくれる?」
「……始まらなかったら言わねえぞ」
「えぇ~、なんだか結構言いたい気持ちになってきたんじゃない?」

何を言っているんだ、と正直に表情に出す千空があまりにかわいくてゲンの機嫌は上がりっぱなしだ。
お互いふんどし一枚で、密室に男二人。布団の上に向い合せに座って相手の顔に触れているのに嫌がる素振りのひとつもない。脈をはかって、軽口に乗って、手を離しもしない。
基本的に男性との接触を拒む千空がこの距離を許している。そんなのゲンだけが特別だと言っているも同然だ。

「抱きしめてもいい?」

両手を広げてあえて問いかければ、少し考えた後うなずかれる。
すぐに逃げられるようにゆっくり身を寄せても千空は動かない。両腕で閉じ込めるように千空の背で手を組めば、ゲンの首に回していた手がそのまま後頭部に回された。
まだ腕以外は触れていない。けれど胸は千空の体温を感じるほど近づいているし、少し身動きすればぺたりと腹から腰からひっつくことができるだろう。

「もうちょっとぎゅーってしたいけど、千空ちゃんは大丈夫そう?」
「あ゛~……体勢かえる」

胡坐から膝立ちになろうとする千空に引きづられるよう、ゲンも膝で立ち両腕に力を込める。
上半身がべたりとひっつく。自分に寄りかからせるよう千空を引っ張れば、そのまま体重がかけられ首元に顔をうめられる。
うっわ。懐かれた。
なにこれかわいい。ゴイスー懐かれちゃってるじゃん、やっぱり俺のこと大好きじゃんこの子。
かわいいかわいいと背を撫でれば、もっとしろとばかりにゲンの後頭部がぐしゃぐしゃ撫でられた。

「気持ちいいねぇ」
「……おう」
「俺、もっと千空ちゃんに触ってたい感じかな。そっちはどう?」

聞かずともわかっているけれど言葉にすれば自覚する。あえて問いかければ、千空は素直に大丈夫だと口にした。
大丈夫なんだ。素肌で上半身をべったりくっつけるの大丈夫って相当だよ千空ちゃん、わかってる?
このまま腰を動かすのと許可を取るののどちらが受け入れられるだろう。少し考えてからゲンは、なるべく性的なものを感じさせないよう力任せに千空を抱きしめた。

「いででで、おい強ぇよ!」
「んふふメンゴ~。ねえ、下触ってもいい?」
「し、たは早くねえか」
「ハグもゴイスー気持ちいいけど、これくらいならこれまでもしてたでしょ。今回はセックスできるかの確かめなんだから、ちょっと攻めていきたいなって」
「まあそうだな」

全然全くそうではない。酔って致してしまった日以降、ゲンから抱きしめたりと接触は増やしたが服は着ていた。素肌で抱きしめあったことなど皆無。なんだかんだ緊張しているし頭がまわっていないんだろう。流される千空をほぼだまくらかす勢いで流しているゲンが心配するのも妙な話だが、もう少し警戒することを覚えてもらわねば。……これが終わってからでいいか。

いきなり脱がすより抵抗感がないだろうと、太ももを撫でてからそっと指をすべらせる。やわらかな鼠径部、こつりと存在感のある腰骨、布越しにざりざりとマッサージでもするかのように陰毛を撫でてやればこらえきれないとばかりにふきだされた。
額をぺたりとひっつければ、目の前にピカピカ輝く赤い星。目の端は赤くて、少し鼻にしわを寄せて、のぼせた声でゲンの名を呼ぶ。

好きじゃん。これもう俺のことゴイスー好きでしょ。

手を出すつもりはなかった。いくらでも落とせるけれど、そんな関係にならなくても十分楽しかったから。おつきあいなんて面倒だし、今のところ誰かを特別にする気もなさそう。ゲンを十分特別扱いしてくれている。ならこのままの関係でずっと。
だけど酒の勢いといえ、セックスしてしまったなら話は別だ。
千空もだが、ゲンもできてしまったのだ。この愛おしい子と体の関係になる予定などなかった。それなのに、頭を抱えている千空を見てまず最初に出てきたのが驚愕でも後悔でもなく喜びであった時点でゲンは腹をくくった。
お互いにセックスまでできてしまうなら、関係性で縛るべきだ。これで男としたなんてと焦った千空が、誰か女の子とつきあいだしたら。想像しただけでもうダメ。アウト。ゲンとできるならゲンとつきあうべき。できないなら仕方ないけれど、でも、これ余裕でいけるやつ。

ゲンが好きだと告げるたび自身の口角が上がるのを、千空は自覚していないだろう。
抱きしめても抵抗のひとつもしない。ゲンが座れるよう常に隣にスペースを空けているのも、名を呼ばれれば必ず反応するのも、会いに行かなければわざわざ探しに来るのも。すべて無自覚、そんなつもりはないと言うに違いない。
告白されて困っている、なんとか断りたい。そう千空本人は思い込んでいるのに、ゲンが好きだ好きだと押さなければ不満そうな顔をするのだ。自身の感情がつかめなくて好き避けなんて、慣れてなさすぎて手を出すのに罪悪感を抱くしまつ。
ああなんてかわいいゲンだけの恋人!(予定)

きっと今とて、小難しいことを一生懸命考えているんだろう。
恋なんて千空の言う通り脳のバグだ。どれほど気をつけていても落ちる時は真っ逆さま。傾向も対策もまるで役立たない、なんてことさえ実感していないのだ。

「千空ちゃん、大愛してる」

緊張をほぐすためゆっくり、穏やかな声を意識して耳元でささやく。なるべく怖がらせないように、前をさわる左手と同時に右手で尻を撫でた。後頭部に回された千空の両手に力が入ったから、なだめるようにキスをする。耳、首筋、頬、こめかみ。あの夜はゆっくり進めてやれただろうか。酒の勢いなんてゲンも初めてだから少し自信がない。こんなにいとけない子に手を出したなんて、と記憶にない過去の己を責めつつ、まあやっちゃったなら責任とるべきだよねと頬をすり寄せる。
がっついてなかったらいいな。いや千空ちゃんもろくに記憶がないんだから、今日を初夜にしてしまえばいい。めいっぱい優しく抱いて、ゲンのことを好きだと自覚してもらえれば。

「っ、と、おい! おい待て!! ゲン!!」
「なぁに? 大丈夫、怖いことなんてしないよ」
「違ぇ、その……俺の気のせいじゃなけりゃテメー、今、俺の尻をさわってるな?」
「うん」
「尻のあ、穴までさわりかけてんの、こう、愛撫ってやつじゃなく」
「いや愛撫だよ」
「そ、うか。だよな」

やっぱり怖いのだろう。千空の声が震えている。かわいい。大丈夫、安心してほしい、以前に挿入できたんだから今回もいけるよなんてクズなこと絶対に言わない。なんせ記憶にないのだから千空の中では今日が初めて。
デロデロに優しくしてかわいいかわいいばっかりでめいっぱい甘やかす。もしどうしても無理なら今回は挿入しなくたって構わない、ゆっくり二人でがんばろうとゲンは決意しているのだから。

「うん。今日無理でも少しずつほぐしていったら大丈夫だから」
「そこだ!!! 違ぇ!!!!!」

全力で突き飛ばされ尻もちをつく。え、なに。そんなダメなこと俺した? 拒否? なんで??
ゲンがあまりに呆然としていたからだろうか。真っ赤な顔で息をきらした千空は、嫌じゃねえと告げてから信じられないことを口にした。

「俺が挿れる方じゃねえのか」

 

 

 

「え」

俺が。誰が。俺が?

「……あの日、尻に痛みも違和感もなかった」
「お……俺も」
「だからてっきり俺がテメーに挿れたんだとばかり」
「いやそれ俺も……だって千空ちゃんだよ!? そもそも勃起するのがありえないのに俺に挿入とか絶対ないでしょ、だから」
「勃起くらいするわ、こちとら健康な十代男子だぞ! っつーかテメー、俺に挿れるつもりだったのか」
「そりゃ」

ひく、と喉が鳴った。空気がうまく吸えない。
千空が男相手に挿入できるなんて考えたこともなかった。身体の反応で少しくらい勃っても、男に挿入しようとする時点で萎えるに決まっている。なんせちょっと距離が近かったり好意を口にするだけで顔をしかめる男だ。だからこそ当然のように、ゲンが挿入したのだと信じ切って。
酒の勢いであっても受け入れてくれたのだと。だから。

「千空ちゃんが俺に、挿れるとか」

ない。
だから押した。
受け入れてもらえた。気持ち悪がられていない。好き避けしてるだけ。
千空から好意があることは事実なのだから、ゲンが少しくらい強引に押しても何の問題もない。

「ありえないでしょ」

何もなければ。
酒に酔ってただ隣同士寝ただけ。服は暑かったか苦しかったか知らないが勝手に脱いだだけ。二人の間に性的な行為はなにひとつなかった、ならば。

「……あ゛~、そのことなんだが。ゲン」

好意もない。

「俺も今気づいたんだが」
「ジーマーでメンゴ! いやごめん!! 申し訳ない!!!」
「うぉっ、どうした」
「俺とんでもないセクハラ野郎じゃん、ほんとごめん。反省してる。勝手に体の関係があったと思い込んで嫌な事しちゃったね、千空ちゃんはずっと断ってたのに」

そうだ、千空はずっと正直に告げていたじゃないか。男相手にそういうつもりはない、と。それを聞き流したのはゲンだ。希望的観測と思い込みでべたべたと千空にまとわりついて。
セックスできたなら大丈夫、好意はあるんだからこれは好き避け。
思い込みが痛すぎる。なにがメンタリストだ、浮かれるにもほどがある。セックスなどしていないし、千空の言う通りできないのだろうし、好意は同盟相手としてのものだ。好き避けなんてどこが。きちんと断られていたのに。情けない。恥ずかしい。申し訳ない。

「ほんとごめん。……ごめんね、気持ち悪かったね」

本気で嫌がられていたのに無理強いしていたという事実はあまりにもゲンを打ちのめした。
過去そういったあれこれを受ける身であった時は、絶対に自分はこんなことしないと決意していたというのに。それなのにこともあろうか千空に。まるで物慣れない、性的な事には年齢以上に幼いだろう相手に。

「ゲン、おい」
「自己嫌悪で死にそう……明日には復活するからちょっと放っておいて」
「待て。一人で終わるな、勝手に納得すんな」
「そうだよね謝ったくらいでなかったことにするわけにいかないよね。本当に反省してるしもう絶対こんなことしない、千空ちゃんに半径三メートル……は難しいな、一メートルまでしか近づかないならまだここに居てもいいかな」
「だから落ち着け。頭回さずこっちの話を聞け」

バチンと音がなるほど勢いよく肩を叩かれ、慌てて顔を上げれば目の前に千空がいた。
先ほどまでは真っ赤な顔をしていたのに、もう落ち着いたのかまるでいつも通り。セクハラを働いた相手に対してまでそんな誠実な対応とるなんてさすが千空ちゃん。さすせん。

「まず前提条件をはっきりさせる。俺達はあの夜、酒の勢いでセックスした、と思い込んでいた」
「はい」
「俺はテメーに突っ込んだつもりだったし、そっちは俺に挿れたつもりだった。だが実際は、お互いの尻は無事でなにもなかった」
「おそらく」
「で、だ。ここからだが、……テメーは俺に突っ込んでなくとも俺が好きか?」
「……そこ重要?」

謝罪と今後の対応についての話し合いが始まらず、ゲンはつい首をかしげた。
好意があれば情状酌量の余地があるということだろうか。甘すぎでは? 悪意がなければいいという話ではないのだ。

「っていうか千空ちゃんもっと危機感持って。今半裸だよ? ケダモノの前でふんどし一枚とか、のんきに話してる場合じゃないって。まず服着て物理的に距離をとってから」
「裸っつーならテメーも同じじゃねえか。そもそもさっきまでセックスしようとしてたくせに何言ってんだ」
「あーっ、ほんと申し訳ない……絶対セクハラだけはしないでいようと思ってたのに」
「セクハラされたか?」
「自分の立場を利用して千空ちゃんが強く断れないのいいことにべたべた好意おしつけまくってたでしょ……あっ、パワハラのが正確かな。いやどっちにしろ最悪だよね」

怪訝そうに眉をひそめる千空からじりじりと距離をとる。
おそらくこれまでされたことがないから無自覚なのだ。だから今、ゲンにさほど嫌悪を抱いていないのだろう。だが理解すれば今後、思い出すたび嫌な記憶になる。同盟相手として楽しく過ごしていた過去まで拒絶されたらどうしよう。仕方のないことだけれどつらすぎて泣く。
あの朝、もう少し慎重に考えていれば。
千空とゲンの間に性的な情動など起こるはずがないのに、どうして。

「性的な嫌がらせじゃねえだろ。テメーからの好意のアピールだろ」
「たとえ好意のつもりでも相手が嫌がってるのはアウトだよ!」

ああ、わかっている。どうしてなんて、だって浮かれたのだ。うれしかったのだ。
千空はゲンとセックスができる。酔った勢いで流されてで構わない。受け入れてくれた。好意を。
そう、思ったとたんにとっくに恋に落ちていた己を自覚した。

「嫌がってねえ」

他の子の手を取らないで。こっちを見て。隣で見ていられたらいいだなんてふざけてる。一番近くで特別扱いされることを喜んでおいて寝ぼけたことを。無自覚でここまで思い入れておいて今更ここで恋などと。
初恋でもあるまいに。

「喜んでる」

睨みつけるようにゲンの目をまっすぐ見たまま、千空はダメ押しした。

「なぁ、テメーが好きだって言ったり頭撫でたり抱きついたり、あ゛~、色々してきたのは俺に突っ込んだ責任とるつもりだったからか?」
「なんで!? 違うよ!」

責任はとりたかったが、千空の性格から拒絶されるだろうと理解していた。そもそも子ができるでもないのになんの責任だ、と言われれば引き下がるしかない。
ただ好意を受け入れてもらえたと思ったから、素直に伝えられるのがうれしくて。そのたび喜ぶ千空を見たくて。

「そりゃいい風に見てほしかったから、甘やかしてくれる年上の頼りになるお兄さんムーブはしちゃったけど」
「……構われエッチなお姉さん、じゃなく?」
「ん?」
「いや、気にすんな」

なんとか千空により好感を抱かせようと色々していたことまで勢いで白状してしまった。羞恥で溶けそう。かっこいい恋人♡とか思われたかったのだ。ああ愚か。バカ。メンタリストは死んだ。

「話を戻すぞ。俺らはセックスをしていない、テメーは俺に好意がある、ここまではいいか」
「はい」

さりげなくとっていた距離をぐいと詰められる。
再度目の前に迫った千空の顔は、目の端がうっすら赤いし鼻にしわも寄っている。ああ、さっき見た表情によく似ている。この子は自分の事が好きなんだ、そう実感した時の。夢みたい。もう見られない。

「テメーが寄って来てはひっついたり首筋だのなんだのチラチラ見せたりするのがエロいと思ってたんだが」
「は、い?」
「まあセックスしたんだから、引っ張られてエロい目で見るのは当然だと思い込んでたんだよ、こっちは。やった時もこんな甘ったるい声で俺呼んだのかとか、その薄い腹に挿れたのかとか」
「は、ら……いや名前は別に普通だったでしょ!」
「あれでか?」

真顔で問われつい口ごもる。
そんなに隠せていなかったのか。名を呼ぶだけではしゃいでいたのがバレていたとしたら、今後どんな顔で千空の事を呼べば。

「これからはちゃんと、できるよ。メンタリストだし」
「は? つまらねえ、却下だ。つーかまだ話は終わってねえよ」

ゴツンと額がぶつけられ、逃げるなとばかりに後頭部に両手が回された。
近すぎて千空の顔がぼやける。

「テメーの事エロい目で見るのはセックスしたからだ、と思ってたんだ。なあ、でもしてなかった。それなのに」

やわやわとうなじが揉まれる。吐息が唇に触れた。すり、と額が甘えるようにこすりつけられて発火しそう。

「今も、ずっとそういう風に見えてるんだが。ゲン」

好きじゃん、って思ったのだ。さっき。セックスをしようと二人で抱きしめあった時。
千空はゲンの事が好きなんだと、当たり前のように信じ切って。

「……俺だけ?」
「テメー以外にこんなちんこイラついたことねえな」
「直接的すぎ! セックスできたらそれでいい?」
「いや、エロい兄ムーブもしとけ。俺にだけ」
「甘やかしてくれる年上の頼りになるお兄さん、だよ」

そろりと両腕を千空の背に回してみる。先ほど抱きしめあった時のように。
よくできましたとばかりに後頭部をぐしゃぐしゃにされて、思わず吹き出してしまう。ねえ、だってこれあからさまに子ども扱いじゃん。村長が村の子達ほめてる時の手の動きじゃん。

「千空ちゃん」

きちんと年齢相応の扱いをされるように子どもはしないキスをしてみれば、目の前にはまた真っ赤な頬。
そんな反応しちゃったら。

「まるで俺相手に、恋に落ちてるみたいだよ」
「これ以上まだ落ちるのか? もう底だろ、ここ」

怪訝そうな声と共に、底の抜ける音がした。はっきりと。
ゲンには聞こえたし、きっとそのうち千空も聞くかもしれない。

「底なし沼だって底はあるから、そのうち着くんじゃない?」
「そんなもんかよ。……ああ、そうだ。ゲン、好きだ」
「おつきあい始めちゃう感じでしたか」
「素面でもしてえと思ったからな。で、トライは続けてよかったか」
「忘れないなら」
「テメーもな」

二人そろって真っ逆さま。