ラッキースケベと呼ぶならば

「ラッキースケベの実!??」
「ああ、食べるとなぜかけつまずいて女性の胸元に顔を突っ込んだり、水浴びしているところに迷い込んだりするらしい」

大真面目なコハクちゃんには悪いが、それはどう考えても。

「わざとだろ、そりゃ」
「だよねぇ〜」
「だいたい木の実にそんな作用ねえよ。腹下して慌ててたから女が水浴びしてんの気づかなかったとかだろ」
「だが言い伝えられているのだ。男どもが食べ尽くしてしまったため絶えたが残っている可能性があるから気をつけるように、と」
「食べ尽くしちゃったんだ……」
「まったく愚かだな!」

見つけたら即燃やしてしまえと言い置いて去ったコハクちゃんを見送りながら、千空ちゃんが今更の問いを口にする。

「で、なんでそんな話をされてんだ?」
「それっぽい実を見かけたって話があったんだって。だから妙な動きに気づいたらシクヨロってね」
「あぁ、確かにテメーが一番周り見てるからな」

突然の褒めに、メンタリスト的にねと笑うタイミングがずれてしまった。やだな、ほんとこういうとこ人たらしなんだもん千空ちゃん。

「っても食べ尽くしちゃうなんてバイヤーだよね。気持ちはわからないでもないけどさぁ」

怪訝そうな顔の千空ちゃんは木の実を食べる気持ちがさっぱりわからないんだろう。だろうと思ってた。まあそうだよね、科学相手にラッキースケベって意味がわかんないもんね。
千空ちゃん食べなさそう、と笑えばテメーは食べたいのかよと返ってきた。
食べたいか食べたくないか、なら食べたい。スケベは男の夢でしょ。ラッキーでちょっとしたスケベに巻き込まれるなんてゴイスーハッピーじゃん。

「そこだ。そこがわからねえ」
「どこ?」
「なにをもってしてラッキーを決めてんだ。さっきコハクが言ってた女の胸にだとか水浴びしてるところにだとか、そりゃあ惚れた相手ならラッキーかもしれねえが、そういう口ぶりじゃなかったろ」
「あ~、確かにそう……かな?」
「どうとも思ってない相手とぶつかってなにがラッキーなんだよ」

女の子のおっぱいに顔つっこむの、百億%ラッキーだと思うんだけど。たとえそれまでなんとも思ってない子でも、意識するようになったりするかもしれないし。

「……女の子の胸に当たるの、ぶつかるでひとまとめにしちゃうの千空ちゃんくらいだと思うよ」
「乳腺があるかないかの違いだろ」
「ざっくりしすぎ~!」

夢と希望とロマンが詰まってるんだよおっぱいには。千空ちゃんほんと夢がないんだから。

「しかもだ、コハクの口ぶりからしてされた方はむかついてんだろ」
「見つけたら焼いてって言ってたもんね。……確かにいきなり水浴びのぞかれたりとか女の子たちは嫌に決まってるか」

え~なに、される側のこと即座に考えてんの。ゴイスーかっこいいじゃんそんなの。え、なに千空ちゃんこれジーマーでもてるやつだよ女の子たちに。ラッキーって喜ばず相手のこと思いやるとか最高じゃん。待ってちょっとこれ皆に知られたら今よりもっともてちゃう。え、勘弁。これ以上ライバル増えんの?

「一方的にさわって相手は嫌がってんののどこがラッキーなんだよ。印象悪くなるばっかりじゃねえか。んなもんより一緒に居る時間が増えるとか二人きりになれるとかのがずっとラッキーだろうよ」

大変かわいい純情少年の意見ですが、これ特定の人物を思い浮かべて言ってたりしない?
わかっちゃうんだよなメンタリストだから。嘘。メンタリストじゃなくてもわかっちゃうな、だってずっと見てたから。

「え~、じゃあ千空ちゃんと二人きりでおしゃべりしてる俺、木の実の恩恵受けちゃってるね。スケベじゃないし食べてもないけど」

そっか~。そのうち誰かを、とは覚悟してたけどまだ先だと思ってたなぁ。あーテンション下がる。まだまだだろうって勝手に甘くみちゃってたな、千空ちゃん俺とかクロムちゃんとばっかり一緒に居たから。いつの間に心に誰か入れちゃってたんだろ。もう少し男友達とだけワイワイしてると予想してたんだけどなぁ。

「あ゛!?」
「千空ちゃんと一緒に居るの、ゴイスー楽しいからラッキーじゃん。ドイヒー作業なしなら完璧」

どうせ伝わらないけど、もし伝わっても問題ない程度の好意だけへらへらと口にしておく。
あーあ、印象ちょっとくらい悪くなってもいいからラッキースケベのひとつやふたつ起こしておくべきだったかな。って男同士のラッキースケベってなに。顔つっこむおっぱいはないし水浴びは一緒にしちゃうんだよねぇ。まあドキドキはしますけど。後からひそかに思い出したりはしちゃいますけど!

「おいそりゃ、あ~……ゲン、三日前よろけたテメーが俺の腹に頭突きしたな」
「ん? うん、あの時はメンゴね。あざとか大丈夫だった?」
「問題ねえ。あと、五日前と昨日、俺が作業してる横で寝落ちしただろ」
「昼に力仕事するとどうしても眠くなっちゃって……寝床半分かしてくれてありがとうね」
「今、テメー風呂上りたてだろ。髪の毛まだ乾いてねえし首のとこぺったりひっついてやがる」
「本日は作業終了でーす。これから宴会じゃん? 飲んだ後お風呂行くの面倒だからさぁ」
「……飲んだら、だいたい俺の隣に座るだろ。へらへら笑って俺に絡むし」
「酔っ払いのすることは大目に見てよ~!」

俺の行動を突然あれこれ述べだす千空ちゃんの意図が読めない。
今後しないように気をつけろってこと? 頭突きは悪かったなと思ってるけど風呂は意味がわからない。なんの確認だこれ。

「俺はこれ、あ~、ラッキーに含む」
「え」
「木の実は食ってねえがここんとこ一週間の俺のラッキースケベだ」

待って。だって惚れた相手ならってさっき。

「……ラッキーだとしてもスケベではないでしょ、今言ったの」
「全部スケベだろうが」