神様には誓わない

この世の天国ってどこにあるか知ってる?
ここ! 赤塚のラブホ街、少し奥まってて出入りする時に表通りから見えないから実は先生とかに大人気のちょっと古めのこのホテル!!

今時駐車場に入る時にぴらぴらしたのくぐらなきゃだけど、エントランス(そんな大層なものじゃないけど)は無人のテイだしお金は小さい窓に入れたらさっとお釣り出てくるし、人目をはばかるというか秘密を守りたい恋人同士に最適のこの場所。
あっ、気づいちゃった? そうそう、実は恋人と。こ い び と と!!! ラブホに居るわけなんだよね、今。現在。ナウ。っは~ロマンティックが止まるとか止まらないとかどうでもいい。いやよくない、あいつロマンティックなの絶対好きだからそういうの大事にしてやらなきゃ。恋人としてね。まあおれは、うん、ロマンとかそういうのどうでもいいっていうかあいつさえ居たらそれでもういいっていうか。カラ松が居たらそこが天国だよ、みたいな。
っあ~言えね~言えるわけな~いそんなの一卵性むつごの兄に素面で言えたらとっくの昔にいちゃこらあれこれするただれた関係になってる~~~、って落ちこんでた日もありました。ひひ。過去形だよ、過去形。
今のおれはなんといっても勝ち組。なんせ恋人がシャワーしてるのをラブホのベッドでゆったり待ってるんだから、これを人生の勝者と言わずしてなにを成功者と呼ぶのかって話だよね。カモンヒルズ族。

耳をすませば水音と、ふんふん楽しげな鼻歌。
歌ってるのかよご機嫌かよかっわいいなおい!!! これからドキドキの初めてってこと頭から完全に飛んでるだろおまえ。は~バカ、脳みそちっせえ、あれだろ入浴剤入れたりして普段やれないこと全力で楽しんでんだろクソかわ。ホテル入る時のそわそわ居心地悪そうな顔も部屋入った途端ちょっと足重かったのもおれが風呂って言った瞬間はねた肩もこちとら全部覚えてるんで。忘れてなんかやらないんで。
あ、そうだタイマー。なんせ邪魔な物みな脱ぎすてて裸の二人なんだから、あとお互い見るのに忙しいから時計とか見てられないだろうしね。ひひ。延長料金は痛いからちゃんと帰る時間をわかるようにしとくとか、なにおれスパダリの勢いがでてきたんじゃないの……? いやいや、これもすべて恋人への愛ゆえですよ、とかね。ふへへ。ひひ。っは~マジでホテルだわ。ラブホテル。すげえ。
スマートにホテルを選んでさっと入ったおれに「……なんか一松慣れてないか?」って言った顔が死ぬほどシコかったんで、クールに「そう? こんなもんでしょ」とか返しながら実は踊りだしたかったとか内緒だ。はっはー下調べの成果! この日のためにどれだけトッティのスマホにこっそりお世話になりホテルまで自然に歩けるよう自主トレしたことか。男同士でも入れるラブホ調べは当然のこと、料金だのどうやって支払うか部屋はどんな感じだなにがあるんだって謎は山盛りのくせにラブホ体験記とかろくな事書いてねえ。おまえが抜かず三発決めたとかどうでもいいんで! それよか他の客と顔あわせない方法とか書けよ詳しく!!

自分の身を包むペラペラのバスローブを見つつ、まあそれもいい思い出ってやつかなと振り返る。
勝者の余裕? まあそりゃそうだよね、ラブホ、つまりラブをメイク思う存分するホテルにいるわけだし?? 罰ゲームとか無理やりじゃなく双方同意の上、うれし恥ずかしラブラブの恋人同士としてこの場にいるわけ。おれとセックスするために今カラ松はシャワー浴びてるわけで、圧倒的勝者以外の何者でもないよね実際のとこ。
セックス。
さらっと脳内に流れた単語をもう一度繰り返す。
そう、セックス。性行為。あいつのシコってただろう雑誌をこっそり拝借してとか洗濯かごに入ってたパンツこっそり拝借しようとしてできなくて指先に残るぬくもりだけを頼りに、とかじゃなく。単体行為でなくおれとあいつ、二人で。
え、するの?
いやするんだけど。そのためにここに居るんだけど。なんせラブなホテルでラブホなわけで、そういった行為をしないならなんで金まで払って別にきれいでもなんでもない部屋に閉じこもってんだよピクニックかよ弁当ねえなってことなんだけど。いやでも。え。
ドアを見る。鍵はオートロックだったからかかっているはずだけど、もしかしてとそっとドアノブを回してみる。回る。やばい!
じゃねえよ中からは開くんだよそれがオートロックなんだから落ち着け、当たり前。普通。大丈夫。ドアをもう一度閉め、カチャリと軽い音がするのを確認する。よし、鍵は閉まった。
ドアを背に振り返れば室内が一望できる。三歩歩けばベッドで、脇には引出が三つある小ダンス。チェストか? こんなとこで洒落た言い方しなくてもいいでしょ、小さいタンスだよ、タンス。タンスの隣には小さい冷蔵庫があって、水とエナジードリンクが入ってるのは最初に見た。こういうところのは飲んだら金払わなきゃだし高いんだよ、と持参した水を振ったおれになるほどとあいつがキラキラした目を向けたから調べておいてよかったと思ったんだ。で、右手には洗面所とその奥に風呂。風呂にはカラ松。風呂じゃない方のドアはトイレ。

今更ながら不安になる。
ねえしょぼって思われてない? こんなとこで初めてとか一松にはがっかりだぜとか、せめてベッドが回ったりライトがぎらぎらしてないとな、みたいに思ってない?
そりゃおれだって海外とはいわなくてもどこかリゾート地に二人で旅行に行ってここなら知った顔がいないからって手をつないでお土産見たりして楽しいなって笑うカラ松の顔に耐えられなくなってヤシの木に押しつけてキス、とか温泉で部屋つき露天風呂でいちゃいちゃからの布団がひっつけて敷いてあるってばれてんのかなひえぇって言いながら浴衣プレイで熱い夜を過ごしたり夢みたよ。でもね、そういうのには必要なものがあるわけ。あ? 愛じゃねえよんなもん溢れるほどあるわ。売れるし。売らないけど。
金だよ、金。軍資金。世の中世知辛いからなにをするにも金が必要だし、おれ達に手に入るのは月々のお小遣いだけ。それだってちょっと買い食いしたり猫達のおやつ買ったらすぐなくなるし、あいつだってぎらぎらした謎の服を買ったりしてるんだから余るわけがない。貯めておけって? 正論だけどそれできる? 自分だったらできるわけ、ねえ。買い食いはぐっと我慢するとしてもさ、わざわざ家に寄ってくれた友達ににぼしのひとつも出さずに帰せっての。恋人って名目になってからちょっとその辺に行くのににこにこデートだなってついてくるかわいいの相手にさ、からあげのひとつやふたつ買ってやりたくならないんですかって聞いてんだよ。あぁ? あっちも自分の小遣いから出すだろうって? バカ野郎、クソ松の服は結構いいお値段がするんだよ! 雑誌にふせん貼ってチェックして松代の手伝いなんかもこまめにしてなんとか貯めて、たまにパチンコで勝利の女神が微笑んだらそそくさと買いに行ってんだぞ健気だろうが!! しかもその大切でいかす最高の服を、おれとの買い出しに着てきてデートだつって喜んでるんだぞ!!! スタバァで映画でウインドゥショッピングじゃなく、自販機でレンタルでスーパーのお買い得セールなわけ。なあ、そんな健気かわいい恋人にしてやれることって何だと思う。からあげだろ。KARAAGE。おれの出せる範囲の金額で一番喜ばせてやるの、そこでしょ。それをけちって金貯めてどうすんのって話なんだよ。

ええとつまり、だからもらったばかりの小遣いでなんとか賄えるこのラブホが選ばれたわけです。お分かりいただけただろうか。

 

◆◆◆

 

ぶるんと一度頭を振る。大丈夫、あいつだってこっちの懐事情はわかってるはずだし、さっきだってご機嫌に鼻歌うたってたし。ホテルに入る時戸惑ってたのはたんにびびってただけ、しょぼいから嫌とかない。うん。
そろりと息を殺して風呂に近づく。シャワーの音は聞こえないけれど、時折ぱちゃんと水音がする。洗面台の上に重ねてあるキラキラしたズボンとクソタンク、その上にはバスタオルにバスローブ。なぜかバスローブをおしゃれ着だと思い込んでいるから喜んで着てくるだろうな、と思うとつい口元がゆるむ。
ご機嫌な歌は聞こえないだろうか。こんなしょぼい場末のホテルだけど、でもなんとか満足していてほしい。こんなところ嫌だなって思っていてほしくない。最高級ホテルのサービス、とか宝くじでも当たらないとムリだし家で開き直ってするほどおれ達はまだ慣れてない。手はつないだけど、唇をひっつけるキスはしたけど、でももっと深く知りあうための場所がこんなところしかない。ねえ、でも精一杯調べたんだ。スマホじゃわからないこともいっぱいあって。家からこのホテルまで不審がられずかつ人に見られない道はどこだろうとか。一番人の少ない時間はとか。立ち止まって見るのはできなかったから、ウォーキング中みたいな顔して何度もホテルの前を通った。

誘うのだって何パターンもやりとりを想定して、一番スマートでおまえが喜びそうなのがいいなって。十四松もトド松もどれでもいいって言うけど、そんなわけないじゃん。おまえとの関係をもっと深めたいんだとおまえのこと性的に好きだからちんこ爆発するホテル行こうは全然違うでしょ。言いたいことは同じだけどさ。でも二人揃って別にどれでもオッケーされるでしょとか適当言うし。ちょっとは親身になれよな兄と兄の恋愛事情だぞ。うまくいかなかったら片方の兄(おれ)の行方がわからなくなったりする可能性もあったわけなんですよ、マジで。まあ結局、迷った誘い文句全部書いてた大量のメモを見られちゃったんだけどさ、本人に。正座で一から十までじっくり目を通して、へらって笑いながらオレも全部に返事するなって言ったカラ松マジ神。後光が射してた。マジあいつなんなの、おれを許すメシアかなにかか……? 全部に返事はさすがにムチャだよ、って真顔でつっこんでたのトド松かと思ったら十四松だったからね。そういうレベルの量だから。それをこの返事だよ。最高。おれの恋人が愛しすぎて泣ける。

今日だってさ、本当はバラの花束なんかバサッと渡して似合うよとかニヒルに笑いながらホテルまでエスコートしたかった。つーかホテル来る前にちゃんとしたデートするべきかなって思ったけど、ホテル代とローションとコンドーム買ったらもう残りはなかった。もちろんゴムがホテルにあるっていうのは調べたけどさ、でもなんかこう、もし補充忘れとかあったらどうしていいかわかんないし、さすがに初回からナマはカラ松に負担かけすぎだし。欲張って大量に入ってるの買うからだって? うるさいこっちのが割合で言ったらお得なんだよ。けしてこれからいっぱいするための期待とかそういうわけじゃない。……ない。
風呂に向かうカラ松にせめてと薔薇の香りの入浴剤を渡したのが、花束の代りだなんて伝わっていないに決まってる。言ってないから当然だ。そもそもあいつは空気を読もうとするわりに得意じゃないし言われたことを脳内カラ松ワードを通して受け取る傾向がある。だからまあ、おれの繊細な気持ちとか心遣いなんてまるで読みとらずのほほんと生きていやがって片想いをこじらせている時は心底憎かったそれが、でもわりと救いであったりするという地獄なわけだけど。というか本当なんでそんなのとこんなののおれ達が今うまいこと恋人なんてリア充極まりないものに落ち着けてるんだろう。逆ギレしてわあわあ叫んだ記憶はあるけれど、じゃあオレ達これからラバーだなと手を取ってにっこり笑ったカラ松という記憶(永久保存版)に辿り着く道筋が見えない。カラ松兄さんだって石じゃないんだからそりゃ感じるものくらいあるでしょとトド松にため息をつかれ、アピールすごかったもんねにーさんと十四松に肩を叩かれた思い出はたぶん同じ箱に入れておいていいものだろう。うん。まあとにかく今が良ければすべてよし、セラヴィだっけ?

ばしゃばしゃという水音とふわりと漂った甘い香り。やばいカラ松が上がってくる。
鼻の先にふわりとあいつのまとっているだろう湯気が触れた気がしたら、もうダメだった。それまでなんとか頭を下げていたちんこがぎゅわりと存在を主張する。待て、ちょっと待って早い。いや元気なのはいいことだけど待って。まだ出てきてもないから。落ち着いて。ベッドで恋人がギンギンなのは最高だけど風呂から出たとたんギンギンの男が立ちすくんでるのはちょっとしたホラーでしょ。なに想像してんだドエロって話じゃん。違う、いや違うっていうか確かに風呂場に来たけどそれはのぞこうとかエロい下心じゃなくておまえが楽しんでるかどうかの心配で。けしてエッチな気持ちではなく。でも勃ってんじゃん、はいそうですね。あ゛ぁ゛~~~言い訳できねえ!!!
薄いバスローブは股間のふくらみをまったく隠してくれない。バスローブは下着なしではおるらしいって知識のままパンツはかなかったおれのバカ~! いやブリーフじゃ抑えきれない元気さだけど、でもおれの考えなし……っ!! いつものジャージならゆったりした生地でなんとなくごまかせるのに、そりゃもう力強く起きてますと主張しまくっている。しかも前開きだから、ちょっと油断したら途端ちんこがのれんかきわけてこんにちは! だ。まったくほほえましくもかわいくもない。少しも興奮しないとかムリでもいきなりクライマックスはないだろ。なあ。
カラ松とギンギンの暴れん坊がいきなりごあいさつ、の危機を防ぐため慌ててベッドにもぐりこむ。シーツで隠しておけば見えないし大丈夫だろう。いちゃいちゃしだしたらちょっとくらい元気極まりなくてもまあ普通だし。そういうもんだし。……そういうもんだよね? 童貞臭くっさ、とかないよね??

「ふっふ~ん、待たせたかハニー」

しっとり湿った髪の毛からぽとりと落ちた水滴が、鎖骨をつたい緩めにあわせた襟元に消えていく。上気した頬、同じく赤い胸元、腰でバスローブを止めている紐はなぜかおれのものより蝶々結びの輪がでかい。いやなぜかって理由はわかってるけど、うん。別に男だし。全然そんな。気にするとかないし。……明日から腹筋しよ、少しくらいは。
膝よりずっと上でひらひら揺れる裾はたぶん女の子が着たらめちゃくちゃ興奮するやつ。ごめん嘘をつきました。女の子じゃなくても、つーか恋人が着てたら視線がはりついてはがれないやつ。つまり今ものすごくダメ。カラ松が近づくたび太ももに目が行ってドキドキする。

「……ちょっと裾が短いな」

ダメ。
待ってなに。今のはダメでしょ。さっきからもダメだったけどこれは反則では?
眉毛へにゃって下げてほっぺた赤くて少し前かがみだからちらって乳首見えたし血行よくなってるからどこもかしこも赤くてつまりそう乳首もちょっと薄赤くてふっくらしててそんで裾を指で引っ張ってえへへって感じに笑いかけるとか、ねえなんなの。おまえおれを殺すつもりなの。わかってんのか今おれが死んだらおまえ未亡人だからな。つーかラブホで謎の死体が、犯人は!? だからな。覚悟して動けよ。
つーか後ろ姿は?
ちょっと前かがみになってるってことは現状カラ松はめちゃミニスカートの女子と九割似た成分で作られているわけだけどつまりミニスカートの女子がしゃがんだりせずに前に身体を倒したのと同じ状況で、つまり尻を突き出してスカートは持ちあがって、いやスカートじゃないけどバスローブだけど。つーかつまりぺらぺらひらひらで防御力皆無のこの布が。ぺらって。あっ、下着。これおまえ下着は。バスローブの下は履かないって知識あるよなたぶん。ということは守る物のない生まれたままの尻がつきだされ裾が持ちあがり。
頭から血の気が引いた。
いや、全身の血液が一気に引き股間に流れ込む音がする。ゴウゴウと。
今なら悪魔でも召喚できそう。ぐらぐら沸く血の池ならぬ沸騰しそうな全身の血液を集めた股間地獄だ。まるで針千本でも突き刺したかのような痛み。ただでさえ興奮してギンギンだったのに、なんとか隙間はないかと股間に一気になにもかもが流れ込んでいる。
痛い。
ちょ、痛い。ほんとに。なに、興奮は度が過ぎたら痛みに変わるとかそりゃSかMかと言うならMだけどどちらかというと精神的なやつっていうか肉体的なのは得意じゃないんだって。十四松のバットにくくりつけられるのは、あれ頭に血が昇ってくらくらしてこれまでの人生を振り返るから精神的なやつだし。
たとえ肉体的Mでもこれはない。勘弁。いやマジに、いた、いって。
いっそちんこが破裂しそう。犯人は喉が渇いたとペットボトルに手を伸ばしている。おれのちんこが破裂してなくなったらおまえ責任とれよ、一生だぞ一生。絶対だからな。

「んん? どうした一松、腹でも痛いのか」
「……違う。大丈夫、だから気にしないで」

心配そうな顔と前かがみで乳首チラ見せのギャップがすごくてエロコラみたいですけべ極まりないからこっち見ないで。いやおれの視界からちょっと遠ざかって。まじ痛い。興奮のあまりこんなに痛くなることってある?
必死に絞り出した声はまったく大丈夫じゃなさそうで、カラ松の心配を煽ることしかできなかったらしい。そりゃそうだ。ベッドで腹抑えて(正確にはちんこ)脂汗かいて真っ青な顔してたら普通に心配するよな。
つうかこれなに。射精したら楽になれるやつ? でもギチギチすぎて精子が出る気がしないんだけど。確かに射精管理っぽいのはちょっとやったことあるけどさ、セルフで。出そうになったらぐっと根元握ってこらえた時の痛みと似てる気はする。それの数百倍痛いけど。あれはちょっとの痛みが気持ちいいとかそういうやつで、こんな破裂の危機とか求めてないしちんこなくなったらどうやってカラ松と愛しあえばいいんだよ。おれの尻に入れろって話はしてない。そこはちゃんと双方納得の上ってやつだから蒸し返さないで。とりあえずちんこは絶対いるって話だから。
なんとか射精しようとちんこに触るも、今世紀最大の硬度と角度を誇ってることしかわからない。勃起しすぎて出ないとかなんの罰ゲームだよ。おい楽にしてやろうとしてんだから意地はってんじゃねえよ、さっさと楽になれって。おまえがちょっと気を抜いたところで変わらずギンギンのバリバリだから大丈夫だって。
懸命にちんこに語りかけるもまるで聞く耳を持ちやがらない。いったい誰に似たんだこの頑固さ。おれはカラ松の尻の中でしか射精しないと言わんばかりに硬くはりつめていやがる。

「一松、本当に大丈夫か? あっ、水飲むか?」

優しい。おい聞いたかちんこ、おれの恋人がこんなにも優しくてかわいい。
わかるよ、おまえの気持ち。あのかわいくて健気なカラ松のエロい尻につっこんであぁんいちまつそんなに深くッ…とか言われながらフィニッシュ決めたい、めちゃくちゃ理解できる。でも落ち着いて聞いてほしいんだ。おまえの張り切りは今、空回りしてる。あいつの尻に入れる前にがんばりすぎて、いざインって時に疲れたら意味がないだろう? だからちょっと気を緩めよう。ガス抜きってやつ。一回や二回空撃ちしたって恋人とラブホってシチュエーションで何回でも復活できるだろ、おまえなら。な?

「水も飲めないくらいか……トイレ行くか? おんぶしてやるから、ほら」
「ん゛ぐぅっ」

くるりとこちらに背を向けしゃがんだカラ松に、少し説得に応じる構えを見せていたちんこがまたフル勃起になる。
しっとりほの赤いうなじからきれいな背中のライン、ゆるく弧をかく尻までが、身体の線をはっきり拾う薄手のバスローブのおかげでなにひとつ隠さずさあ見てくれさっさと食べろと言わんばかりに目の前に。しかもやっぱり短い裾はひらひらして、かろうじて尻は隠しているけれど曲げた足のせいで前は開いちゃってるんじゃないかなとかカラ松のちんこもこんにちは! してるのかなとか背負われたら位置的に尻にこすりつけちゃうんじゃないかなおれのビッグマグナムをとかもう、あれやこれやで大忙しだ。

「……おまえおれを殺す気かよ……」
「なんでだ!? え、腹を圧迫したらやばいとかそういう方向か??」

いっそ暴発してほしい。男としては情けないけどこの痛みから逃れるためにはそれしかない気がする。つーか痛みで萎えるとかないの。普通こんなに痛かったら萎えると思うんだけど、おまえちょっと元気すぎない? もうちょっと空気読んでよおれの股間にいるからにはさ。
痛い! 出したい! 痛いから出せない! 痛いのに萎えない!
なんだこれリズム感よく言ってもダメだから。ごまかせないから。いいから出せよ、出すんだよ射精だ射精、とにかく吐き出して楽になれって。な?

痛みをこらえて何度か撫でてみるも、ちんこはまったくもって頭を下げる気はないようだった。なんなの、おまえそんなえらそうにしてるけどマジでこのままじゃカラ松の中に入るとかそういう問題じゃないからな。そりゃビンビンだけどこんな痛いのに狭くてきゅうきゅうの穴とか入れられるわけないから。は? トーゼンでしょ、なに初耳ですみたいな顔してんだよ顔ないけど。そもそもまずおれ達はね、カラ松の尻をゆっくりほぐすところからなわけ。いちゃいちゃちゅっちゅしながらちょっと小粋なトークとか挟んで緊張するあいつの手を握って安心させてゆっくり指一本から、ってちゃんと学んできたんだよ任せろ。そこ勃起したつっこめいえーい気持ちいい! とかじゃないんだよな、ちんこにはわからないんでしょうけどねぇ。これだからつっこむことしか知らないヤツは困る、ってつっこむこともまだ知らなかったですねはいはい。そうだよ、おまえの出番はまだ先なの。今こんなにおれを痛めつけてもなにひとついいことはないわけ。おれ達はライバルじゃなく協力者、カラ松をとろとろのふにゃふにゃにした後こそがおまえが華々しく活躍する順番なんだよ。わかるだろ?

全力で説得した甲斐あってか、ほんの少し痛みがマシになった気がする。ちんこも心なし、さっきより元気がなくなったような。よしよしいいぞぉ、できたらこのままやんわりと萎えてくれ。勃起しすぎて射精すらできないとか笑い話にもならないし、萎えるのがムリでも痛みがなくなればなんとかなる。

「少し落ち着いたか? ……すまないな、オレがあまりにも魅力的なギルトガイなために」

ばちんとウインクにうれしさを隠し切れていない口調。おい、さっきからの心配してくれてた聖母おに~ちゃんとのギャップが激しすぎねえ? なんで唐突にクソ松降臨してんの。

「それにしても一松のサンは暴れん坊だぜ。パパの言うこときいていい子にしてくれよな」
「ふぇっ」

投げキスとかだから刺激が強いって!!!
つーかなに、なんでおれの股間に向かって話しかけてんの。ちんこに口はありませんけど! 下のお口はおまえの尻にあるんですけど!! あっでもちんこがキスしちゃったねとか言っておまえの尻穴に先ちゅぽちゅぽさせて焦らすってやつはやりたいですそのうちでいいんで先生よろしくお願いします!!!

「な、なに、なんで」
「いちゃいちゃちゅっちゅ、するか?」

あーーーやっぱり! もしかしてと思ってたけど声に出てた!? ねえいつから?? 聞かれたら困ることばっかりなんですけどどこから口動いてましたかね恋人に隠し事はなしとか言うけどムリでしょないでしょ助けて……っ。
オレのこととろとろふにゃふにゃにしてくれるんだよな、なんてにこにこおれの指に口づけるカラ松はご機嫌でかわいくて最高だけどちんこには毒だった。だから! 痛いって!!
パパの言うこと聞きなさい、ってめってするのこの世のシコさを集めて形作られた勢いでシコいんだけど~。なんなのパパっておれのことかよちんこをムスコ扱いならパパだよねじゃあおまえがママかよわ~んママぼくのことよしよししてぇ~、じゃねえよまだ結婚してないしつーかプロポーズもまだだしでも生涯一緒にいるつもりだからつまりそれって結婚だよね健やかなる時も病める時も永遠の愛を誓うわけじゃんよし誓う。誓おう。おまえのサイズのウエディングドレス探そうか、いや神前式のが好みとか? とりあえずゼクシィだよねごめんごめん先走っちゃってこういうのは二人の意見を擦り合わせてだよね、そうそう初めての二人の共同作業とかいう。
まだだよ!!!
いや正直めちゃくちゃぐっときたし絶対その内赤ちゃんプレイならぬ家族プレイもする。するったらするんだけど今は始めの第一歩なんだよ。今、ナウ、初回の成功なくして今後のよしよし家族プレイもなにもかもないわけ。結婚よりなによりまずは初セックス! 初夜!! バージンロードをバージンのまま歩きたいって? 任せろおれの尻の穴はバージンだから。だから安心してまずセックス。落ち着いて萎えてくれちんこ。

「……ちんこ、痛すぎるから萎えさせたいんで……ちょっと待ってて」

水風呂にでも入ったらなんとかならないだろうか。あと松造のこと考えるとか……あっダメ今それパパが頭をよぎるから興奮ポイントだ。なんでもかんでも性的にしやがってチクショウこれだからエロすぎる恋人からは手も目も離せないんだよな、は~やれやれ。

「萎えさせるのか? 射精した方がいいんじゃないか??」
「いや、痛すぎて出ないから」
「はっは~ん、致すのに痛すぎて致せない。早口言葉だな!」

クソ顔でクソしょうもないことを言うクソは恋人になっても変わらずクソでしかない。エロいしかわいいし恋人だけど、クソはクソだ。
びしりと指をさすクソ松を押し退けて立ち上がろうとし、さほど痛みを感じず動けていることに気づいた。
あれ? さっきまでの脂汗流しまくり動けずベッドの上で転がってた痛みは??
ちんこはあいかわらず勃ってるけれど、確かに痛いけれど、正直さっきまでの破裂するような痛さじゃない。

「……もうちょっとクソな事言って」
「んん? オレのビューティーワードの事か??」
「早口言葉って言ったじゃねえか! まったくもってビューティー関係ないだろ!!」

思わずつっこんでから股間を見れば、先程より元気がないように見えなくもない。え、萎えてきてる? これもしかしなくても萎えてきてるんじゃない?
最高かよクソやっぱりおれの天使はおまえだったんだよカラ松、ちんこの爆発まで救ってくれるなんておまえもおれのちんこを求めてくれてるってことじゃない?? 早くその力強いサンでついてくれよってことだよねやばいなんか親子丼の空気が漂うからパパとサンはやめとこ、イチモツにしよ。つーか一松のイチモツとか呼ばれたらそんなのもう。

「い゛っで、い、痛い!!!」
「一松!?」
「い、今のはうかつだった……」

妄想の中でまでエロさが天元突破とかなんなのこいつ。おれの恋人でーす!
せっかく少し萎えたのに己の妄想で台無しにしてしまったおれは、なんとか気力をかき集めてカラ松を見た。これならいける。いや、この方法しかない。

「協力して。おれとおまえの初夜のために」

目の前で首をかしげるカラ松は問答無用にかわいくてシコい。じっとしているだけでおれの想像力を高め、少し動いただけでエロい空気をじゃんじゃん漂わせる堕天使だ。たとえ一人風呂場で水で冷やしても、ここでさっきまでカラ松がおれのために風呂に入ってたんだよねつーかほぐしたりしたのかなおれのこと思ってエッチな声でちゃったりしてとか妄想余裕だしちんこが萎える気がしない。かといって勃起しすぎた痛みで射精もできない。詰んでる。この袋小路から脱出するためには、カラ松の協力をとりつけるしかない。

「まかせろ! 休憩だから夜じゃないけどなんでも強力するぜ!」
「ぐっ。……そうそう、そういうのもいいダメージ」
「えっ、ダメージはダメじゃないか!?」

心配する顔はダメって言ったでしょシコいから! つーかクソ顔以外のすべてがエロいとかなんなの。本当になんでこの年齢まで無事に生きてこれたのおまえ。いやおれがちゃんと目を配ってたからなんですけどね。ええ。

「いやいいから。ダメージっていうかポイント。ポイントがたまったらおれのちんこが落ち着いておまえとの初めてっていう本来の方向に戻れるから」
「そうか……? じゃ、カードとか今度作ろうな」
「うっ、無邪気清らか路線はそれをおれが汚してやるぜラインがあるからちょっと……こう、クソな……おまえの思う最高にかっこういいセリフとかお願い」
「わかったまかせろ! 得意分野だ!!」

 

◆◆◆

 

ぱぁっと輝いた顔はとんでもなくシコかったけれど、風呂場にかけこみクソタンクとギラギラパンツを身にまといベッドヘッドに片足をかけながらクソ顔とクソポーズを決めたのはトンチキ極まりなかった。肩にかけた皮ジャンが風になびいてる雰囲気を見せたいのか、肩を小刻みに揺らしているのがまた間抜けだ。首に巻いたバスローブはなんだ。もしかしてロングマフラーとかそういうののつもりか。いやマフラー巻く気候なら皮ジャン着ろよ。その風になびいてる演出のためにたまにこっそり手でひらひらさせんな愉快すぎるだろ。
しばらくひゅーふーと口笛チャレンジをこなした後、うまく吹けないと諦めたのかサングラスをかけ直す。ギター弾きながら口笛の練習してたもんね、まだできないみたいだけど。

「ざざ~ん、ざざ~ん」

なるほど波音ね。波止場な。わかる、おまえ大体かっこういいつったら波止場で片足上げてるよね。ただひとついいだろうか、口で言う波音、欠片もカッコウヨクナイ。
あまりにあまりな学芸会にそっと視線を下げると、ちんこも戸惑っているのか先程までの勢いはうすれていた。

「いいぞぉいいぞぉ、その調子。いい感じに萎えてきた」
「なんで萎えるんだ?」
「いいからいいから」

ベッドに立ち海をバックにたそがれるかっこういい男とそれを正座して見上げるバスローブの男。なんだそりゃだけど、かっこういい男の首にもバスローブがまきついているし波音は自力だしそもそもここは波止場でなくラブホだ。なにもかもが間抜けでどうしようもない。そりゃちんこだって気も抜ける。よしよしこのまま萎えろ。性欲消えろ。とりあえず今だけでいいから。

「……世界は広い、だけどオレの愛は」

低い声は男らしくのびやかで、だいたいのことはかっこうよく聞こえる。
ぐっとためて、そこからの。

「おまえにだけさ、カラマツオブラブ」

意味のわからないセリフ。間抜けな格好。最高にかっこういいセリフと聞いて即座にこれを持ってくるトンチキさ。得意分野だと頬を真っ赤にしはりきってかけていった後ろ姿。
なにもかもが、もう。

「…………アウト」
「え!?」

あまりに愛おしい。
だって最高にかっこういい姿で来たのだ、カラ松は。

お気に入りの皮ジャンと自作のクソップ、ぎらぎらと輝くパンツはスパンコールがとれやすいからここぞというときに履く勝負ズボンだと知っている。クソップだって何枚も作ったうち、一番眉の角度が鋭くていかした顔のにしたんだ。そんなことくらいわかる。だってずっと見ていた。
近所をうろついて猫に餌をやりコンビニに寄る。デートなんてそんなことしかしていなかった。今日だって家からホテル直通で、人に見られないように気をつけていたから二人の姿は誰の視界にも入っていなくて。だからつまり、このお洒落は。カラ松の一番かっこういいと思う服装は、おれのために、おれだけのために。
セックスするためのホテルだ。来たら服なんてすぐ脱いでしまって帰りまで着ないし、きっとホテルからは家までまっすぐ帰る。寄り道するような甲斐庄おれにはない。
それなのに。それでも。
クソ顔もなにもかもかわいくて愛おしくて痛い。ちんこもだけどそれよりなにより、腹の上、胸の奥がしびれて痛くて熱い。

「こんなにかっこういいオレでも射精できなかったのか……困ったな、これ以上となると少し準備が必要なんだが」
「……いいよ」

ベッドで丸まるおれの背を心配そうに撫でる手は、骨ばっていてごつごつした男の手だ。
部屋に入った時跳ねた肩も、バスローブの裾からのぞいた足も、パーフェクトファッションに身を包んだ今も。カラ松を構成するものはおれと同じで、だけど薔薇の入浴剤でご機嫌に鼻歌を歌うしちゃんとほこほこに温まって風呂から出てくるしせっかくの初夜だと張り切ってホテルに来たのになにひとつできない情けない恋人を責めることもなく、背を撫でてくれる。おれと全部一緒でなにもかも違うただ一人。
神じゃなくて聖母じゃなくて天使でもなくて。
おれとの初めてを心底楽しみにしてとっておきのお洒落をして来てくれた、最高の恋人。

「いいよ、もう。全然萎えないの諦めた」
「大丈夫なのか? 腐って落ちたり」
「あんまり怖いこと言わないでくれますぅ!?」

背中に感じる体温とひそやかな甘い香り。ちんこはやっぱり萎えないけれど、ぎゅうぎゅうにしびれる胸の奥の痛みの方が苦しいから股間はマシだ。
ああ、本当にどうしよう。このままじゃ今日だけでなく、一生こいつとセックスできない。こんななにもかもを押しつぶす勢いで愛おしい相手になにをどうしたらいいんだ。

「……オレが一度抜いてやろうか?」
「そういうのはもっとちんこの元気がない時にお願いします!!!」
「でも今のオレができる最高のかっこうよさだったんだ……それで射精しないとなると」
「待って。おれさすがにムリだから。きゃーかっこいい抱いて~って思いつつおまえを抱くとかそこまでレベル高くないんでまだ」
「でも今勃起したままだよな?」
「そーですね」
「つまりオレがかっこうよかったから勃起したままなのでは?」

萎えるためにクソ顔でキメキメのおまえを見たかった、と告げられるほどおれの心は強くなかった。だってあんな得意気に全力でやってくるのにさぁ、恋人が。おまえで萎えるとか言うのもちょっとデリカシーがないし。言われたら死ぬしかないセリフでしょこれ。え、別れ? 死の。でしょ。
ああ、どう説明したらいいだろう。
おまえが愛おしい。好きだ。通常は性欲がわかないだろう行動や表情にまで、溢れる愛おしさがゴーサインを出してしまう。こんな生き物、愛さないでいられるわけがない。おれが囲い込んでおれの物にしてしまわなければ安心していられない。
素直に言える性格ならきっとデートだって近所をうろつくなんてしょぼいことしない。今日だっておまえが好きすぎて萎えないって言えた。クソパーフェクトファッションで萎えを狙ったことを、傷つけずに褒めを挟みつつこれからも着てほしいなんて要望も込みで伝えられる高コミュ力があれば就職だってなんだってしてる。最悪じゃなくてもおれが養うって言えたし一緒に暮らそう二人で家を借りようって言えるし松造と松代にだってみんなにだって、ちゃんと。
全部ちゃんと。

「大丈夫だ一松!」

うまくできたはずなんだ。

「あの~、オレもな、ほら、今はちょっと元気がないが風呂でこれからのこと考えたりしたら元気になったりもしたから同じだ」
「こんな最低最悪社会の底辺のゴミとなにが同じなんですかねぇ」
「え、だから……ちゃんとな」

おまえで勃つから。
ぽそぽそと耳元でささやかれた言葉は、おれの悩みとはまるで無関係でなにひとつ慰めではなく、でもどうしようも優しかった。

「おまえは女の子じゃないし、好きになるまでおまえでぐっときたこととか正直なかった。ごめんな」

違う。今そんな話はしてなくて。いや話もしてない。おれが勝手にぐだぐだ悩んで、おまえを傷つけるとか傷つけないとか一人身勝手に。
こうしてラブをメイクするホテルに二人でいるってのに。

「でも今はな、おまえとひっついたらドキドキするし、ラブホテルにきてこれからのこと考えたら勃起もしたし、だから」

痛い。
カラ松の見当違いの優しさがとんでもなく甘くやわらかで、おれの全身を包み込んでぎゅうぎゅうに押しつぶしてしまう。
なんて痛くて温かい。
ずっと居たい。

「もうとっくに、オレの性感帯はおまえだよ。なにをされてもきっと興奮する。だから同じなんだ」

ずっとオレで勃起したままなのを恥ずかしがらなくてもいいんだぜ。なぜならそれはラブ、愛のせいだからな……!
得意気なクソ顔が腹立たしくてかわいくて胸をかきむしりたい。そこじゃないんだ。もうそれは通り過ぎていて、おまえを好きなことは当たり前で勃起は恥ずかしいというより痛みで。
でも、全部、口にしていないから伝わっていないのだ。
ああ、さっきみたいに都合よく口が動いてくれていればいいのに肝心な時はなにひとつ役立たない。つきあうことになった時もホテルに誘う時も、おまえのすべてが好きだと告げるべき今さえも、おれの口はまるで動かずカラ松がいつのまにか受け入れてくれている。

「お、おれも」

全部。
全部はムリでもせめてなにか。こいつが与えてくれたものの一部だけでも。

「うん」

わかっているさ、と言わんばかりに穏やかな顔で肯いてくれるカラ松に力をもらう。なんだよその顔先生か。幼稚園の先生でも今時そんな慈愛に満ち溢れた顔しないぞ。そんな聖母な顔するからおれが調子にのるんだからマジちゃんと気をつけて。まあおれが気をつけるけどおまえもちゃんとね。

「おまえが、あの」
「ゆっくりで大丈夫だぞ」
「っ、おれの性感帯も! お」

甘ったるい空気を切り裂くようにピリピリと電子音が鳴り響き、おれの精一杯の告白は途中で途切れ、股間は濡れた。
他人事のように言うなって? いや他人事にさせてよ。わかるでしょ。ねえ、そりゃ安心とか大事なのは知ってるよ。緊張してたらなかなか勃起しないとかあるもんね。そういう精神的な事大切だよね。セックスってそういうとこあるある~わかる~したことないけど~……はぁ。
カラ松の優しさに包まれ、受け入れられると安心し、少しおちついて痛いくらいの勃起ではなくなった。いやちゃんと理解してるんだよ。理解は。でも納得できないっていうか受け入れがたいことはあるでしょ人間誰だってなんだって。
部屋を出る時間がわかるようにかけていたタイマーの音にびっくりして射精した、とか最悪にもほどがあるじゃん……びっくり射精とかそんな新たな扉開くつもりないんですよすでに切り替えて帰る準備しだしてる恋人の中でしたかったわけですよ。
ねえ気づいて?
おれ達ここでキスの一回すらしてないわけ。ラブをメイクどころか新たな性癖をメイクしちゃってるんですよタイマー怖……つーかびっくりで射精とかおれこれからお化け屋敷とか行けないじゃんどうすんのそのうちデートで行きたいって夢みてたってのにさぁ。オムツ? オムツとかそんな高度なプレイを?

「一松、また来ような」

次はオレが出すな、ホテル代。そんなことピカピカの笑顔で言うからおまえ。全力で大好きって顔、バカ、幼児か。もう。そんなんだからおれは。

「……結婚しよ」
「バージンロードはバージンのまま派かぁ?」

やめてそれ冗談にならなかったら今度こそちんこ落ちる。壊死とかで。