プラトニックラバーズ

「おまえの尻穴測らせてほしいんだけど」
「WHY!?」

数多の試練を乗り越えラバーズになったオレと一松だが、まだまだ知らないことはたくさんある。わりとニッチな趣味も持っているとは思っていたがおまえそんな部分の計測を……いや個人の趣味に関してあれこれ言う心の狭い男じゃないぞオレは。だがしかし。

「なんか誤解してるだろ。違うからな、変な趣味とかじゃなくて……その、ほら、できないって言うじゃんおまえ。おれのがデカすぎて」

否定されても赤い頬のまま言われてはあっさり信じるわけにいかない。だっておまえそれ、悪くないなって顔だろ。ふふん、ラバーのことを理解しきっている…オレ!
男同士でつきあう際もめやすいのは、どちらが受け入れるかだろう。さて、となった時、カモンと言ったのはこのオレだ。そりゃ正直入れたい気持ちは山ほどあるが、オレを求めてギラついた目をしながら必死に我慢している一松にキュンとしたのが大きい。なんせかわいかった。これは兄として受け止めてやらなければ、と思うほどにかわいく切羽詰まっていて、男の沽券だのなんだのはもういいかなと思ったのだ。あの時。
だがその気持ちは、一松の猛々しい代物を見た途端消え失せた。
デカイ。グロい。怖い。
あんなものが尻に入るはずがない。そもそもオレ達はさほどかわらぬ形だったはず。一体なにがどうしてこうなった。
おまえのこと考えるとこうなっちゃうんだよね、じゃない。ちょっと頬を染めてもダメだ。かわいいけどそれで許せる範囲には限度がある。これはムリ。お尻に入れたら裂けちゃう。
涙ながらの訴えに納得した一松もちんこを納め、オレ達はプラトニックラブを育もうということになったじゃないか。それなのに尻がうんぬんはどういうことだ。

「おまえの言うこともわかるけど正直ムリ。淫乱お兄ちゃんのエッチな蜜壺におれの溜めに溜めこんだミルクぶち込んでもうらめしゃいこうって言われなきゃ成仏できない」
「んん?? よくわからんが成仏するなら一緒にしような!」
「…っ、そういうとこおまえほんといい加減にしろよクソ長生きすんぞ!!!」

一松はつきあいだしてから前向きな発言が増えた。いいことだなぁ。

「あのさ、痛いのおまえ嫌いだし、だからやだって言ってんのはわかるんだよ。おれとのセックスが嫌なんじゃなくてただ単に痛そうとか怖いとか思ってるって」

でも時々不安になる。
ポツリと零れた一松の本音に胸がきゅうと痛む。

「ほんとはおれとセックスするのが嫌なだけじゃ、とか。……つきあいたくなかったんじゃ、とか」
「ち、違うぞ! おれはおまえが好きだからこそ」
「うん。ちゃんとわかってる。だから尻の穴のサイズ計らせて」

……なぜだ!?? 今そんな流れだったか???
オレの拒む気持ちもわかるがどうしても入れたい一松は、密かにちんこを小さくするため努力していたらしい。
大きくならわかるが小さくする方法なんてあるんだろうか…というオレの疑問の通り、トッティのスマホでどれだけ調べても解決策は見出せない。精のつく食べ物を絶ってみたり氷水につけてみたり出しまくってみたり一切出さずに耐えたり、考えうる限りのトレーニングを行ったがオレのことを考えるともうダメだと。一気に膨張してしまいどうしようもないと。……ここでちょっとにやけてしまった、ふふふすまないな。
そんなこんなで藁にもすがる思いで訪れたデカパンラボにて、一松は衝撃的な質問を受けたらしい。曰く「どれくらいのサイズになりたいんダス?」と。
小さくすればいいと闇雲に行動していたが、小さすぎてもオレを満足させられないんじゃないか? 一般的な大きさになりたいわけじゃなくカラ松に入れられればいいんだから、あいつと相談すべきでは?
こんな熱烈な告白を受けてしまっては目の前の恋人を抱きしめるしかない。だって、一生オレだけでいいってことだろう。しかもオレのためを思って相談なんて! 一松が!

「……でも普通さ、自分の尻の穴のサイズなんて知らないじゃん。だから測ってやろうと思って」
「なるほど理解したぜ! ラバーズとの愛の語らいのため、このカラ松も体を張ろうじゃないか!!」

あんまりにもうれしかったから気持ちよく請け負ってしまったことを後悔するのは、この後すぐ。

 

◆◆◆

 

下半身だけ服を脱ぎ一松に尻を向けている姿勢はとんでもなく恥ずかしい。これがメイクラブのため布団やベッドでお互い脱いでるならまだしも、家のソファに寄りかかり一松は着込んだままなんて日常の延長だから、オレ1人がおかしいみたいだ。

「痛くない?」
「あ、ああ大丈夫だ」

ラボでレントゲン撮影のようにカシャっと写真でも撮れば大きさがわかると思っていたのに、それではダメらしい。腸なんだから柔らかいし伸びたりするでしょ、そのままじゃうんこより細くなると言われてはそうだなと頷くしかない。一松もあんまり小さくなりすぎるのはやっぱり嫌なんだろう、男としてそれはわかるぞ。
わかるから、コンドームにぷよぷよしたゼリー状のものを詰め尻にあてがわれても受け入れたのだ。柔らかいし痛くないと思う、と言われた通り痛くはない。ただ強烈な違和感はある。こう、なんかずっとうんこが挟まってるみたいな。すまない、いかしたワードが思い浮かばなかった。
ゼリーは時間が経つと少しずつ膨らみ、固まるらしい。カラ松が気持ちいいところで抜いて固定剤かけるから、そのサイズになれるようがんばるから。キリッとした顔で言われ頷いてしまうのは、惚れた弱みというやつだ。わかってほしい。

「もう限界ってなったら教えて。すぐ抜くから」
「わかった。……その、なるべくゆっくりしてくれ」

あまり勢いよく抜かれては切れてしまうかもしれない。切れ痔は嫌だ。オレはこれからも気持ちよくうんこがしたい。

「うぐっ……う、うん。これくらいなら平気?」

なぜか鼻を押さえながら一松がコンドームをゆっくり引き出す。入れた当初より膨らんだのだろうか、尻の中があちこち押されてなんだかムズムズする。

「っ、ああ、問題ない……」
「じゃあ戻すね」

ゆるゆると押し広げられながら、なにかが入ってくる。腹の中まで圧迫感がきた。けして痛くはないが、異物が腸壁をこすり広げていく。
じっとしていると意識せざるを得ない。腹の奥から尻にかけての異物感。普段は意識しない尻の穴がパクリと開いてなんだかヒヤヒヤする。風を感じるというかなんというか。

「!? いちまつ!!???」

風どころか息だ。一松がオレの尻に顔を近づけ穴を凝視している。

「違うから、これはエロい意味じゃなくて純粋に痛くないかとか血出てないかとかの確認なんで。あとほら、ゼリーで濡れてるから乾かしてやろうかなって息かけてみたりね、そういうのでけして興奮してるから息荒いとかじゃないしほんと気にしないでそのまま動かないで」
「え、えぇ……」
「見てるだけじゃわからないからちょっと触るよ。もちろん触診だから! 全然まったくエロいことじゃないんで気にしないで、っつーかすんな」

返事をする前に濡れた指先がピタリと触れた。オレのシークレットゾーン、未だ誰にも触れられたことのない穴の縁をくるりと一周する。

「ゼリーついてるのとってやるよ」

少し固まりだしていたのか、優しくこすられる感触とピリリと剥がれる柔らかな痛み。尻の肉を開き、やわやわと穴の周囲を撫でられ、たまに濡れた感触が触れる。

「い、いちま~つ……あの……ゼリーは、もしかして……水分でふやかしてとってくれて、いるの、か」
「そっ、そうだよ。ほら、シールもふやかしたほうが取りやすいし」
「そうだよな! あの、エッチなことじゃなくて……仕方ないことなんだよな!」
「トーゼンでしょ。ひひ」

オレの痛みが少ないように一松が気を遣ってくれているんだ。オレ達はプラトニックなラバーズで、エッチなことをしなくても愛しあっていて、今だって一松のちんこを小さくするための一環で。だから気持ちいいのは目的じゃなくて偶然で、狙ったわけじゃないんだけどでもだけどでも。
腹の底が無性にむずがゆくて、つい体に力が入った。

「うわっ。なに、急にゼリーが飛び出してきたんだけど」
「す、すまない……その、勝手にギュッとなってしまった……」
「……マジかよ最高……いや、うん大丈夫大丈夫。また入れたらいいんだから」

優しい声と共に尻の中のゼリーがぐわんと動いた。

「っひ、ぅあ」
「ちょっと押し込みすぎたかな、もっと優しくするから」

すでに膨らみ固まりだしたゼリーがあちこちを押す。一松が追加するプルプルのゼリーが、ゴムと固まりかけたゼリーの隙間に潜り込んでみちみちとオレの中に詰まっていく。腸壁を押し、腹の中に居座り、オレの中をどんどん拓く。暴く。待って、ダメだ。なんだかダメだ。

「痛い?」

痛くはない。
そうじゃなくて、ぎゅうぎゅう押されて苦しくて腹が重くて、どうしようもなくムズムズする。痛みじゃなくてかゆみでもなくて、でも無性にやるせない。ゼリーじゃなくて、もっとしっかりした質量のものでこすってほしい。

「そろそろ出すから」
「っひぅやぁあぁぁぁぅ…ぅ」

ズル、と壁をこすりながらひきだされるコンドーム。オレの中から出て行った異物。排泄感に似た、だけどとんでもなく気持ちいい快感と呼ぶしかない感覚。
こんな。こんなの経験してしまったら。覚えて、しまったら。

「うっわ、ねえカラ松見てよ」

力の入らない体をなんとか動かし一松の方を向けば、巨大なコンドームの中にみっちり詰まったゼリーと並べられた一松のちんこ。

「デカさ、変わんない」

問題解決だねと笑った恋人の目論見にはまってしまった気はしつつ、心の広いオレは黙って目を閉じた。戸惑ってないでほら、早く抱き寄せてくれ。こっちはだるくて動きたくないんだ。
どこまで一松が狙っていたのか知らないが、これは正直騙し打ちだろう。それでもまあいいか、と許すオレは本当に心の広いナイスガイだし最高のラバーだ。プラトニックじゃなくても。だから、ほら。

愛の行為はキスから、だろぉ??