白いふわもこのセーターに短すぎないミニスカートとタイツ。俺の趣味とはちょっと違うけど、今回は千空ちゃんに合わせてあげる。お願い事するからね。
足を出すな、肩を隠せってうちの親より口うるさい千空ちゃんは、つまりおとなしめの恰好が好きなんだろう。まだ小学生だもんね。たぶん周りの女の子と同じような恰好じゃないと、びっくりしちゃうんだ。ビビりめ、と思うけど今回ばかりはお姉さんな俺が譲ってあげる。
「千空ちゃ~ん、おちんちん見ーせて!」
「痴女かよ」
さすがに断られるかもなって思ってたけど、あまりにひどいことを言われたから手に持ってたコートを投げつけてやる。
せっかく好きそうな服着てきてあげたのに失礼な。
「女の子になんてこと言うの! 痴女とか!」
「部屋入ってきたとたんにちんちん見せろっつー奴に他なんて呼ぶんだよ」
「幼馴染じゃん?」
「幼馴染はいきなりちんちん見せろっつわねえ生き物なんだわ」
「残念~。千空ちゃんの幼馴染は言っちゃう生き物だったよねぇ」
ふん、と笑って座り慣れたベッドの上にダイブすれば呆れたみたいにため息をつかれる。な~ま~い~き~! そのくせ俺のコートはちゃんとハンガーにかけてくれるし、お気にの星型クッションも手元に置いてくれる好待遇。なに、俺が遊びに来たのうれしいんじゃん。コーラでも持ってきてやろうかな、みたいな顔してるの丸わかりでほんとかわいい。そうだよね、千空ちゃんの部屋に来るの久々だもんね。
「で」
結局コーラは止めたみたいで、コロコロのついてる椅子に座った千空ちゃんは俺の方を見てしかめ面をした。
「いきなり意味わかんねえこと言ってきた理由はなんだ」
え、これ見せてくれるやつじゃん?
理由に納得したらオッケーしてくれる流れでしょ。
いいのかな、千空ちゃんチョロすぎでは……? いや俺は見せてほしいから助かるけど、小学六年生でこれは素直すぎない? 今度百夜パパにさりげなく注意しとこっかな。
「ん~、実は今度カレシとお泊りデートでね」
「待て。テメーいつ彼氏なんかできた」
「言ってなかったっけ? 文化祭からだよ~。俺のステージ見てくれたらしくって、友達から紹介されたの」
野外ステージでマジックショーをした興奮がよみがえってうっとりする。
千空ちゃんや友達にはこれまでも見せてたけど、あんなに大勢の人の前では初めてで。準備も練習も大変だったけど楽しかったなぁ、なんてしみじみしてたらポコポコとクッションが叩かれた。
「文化祭って俺も行ったやつだろ。あれからまだ五十六日しか経ってねえが!?」
「もうそんなに経っちゃってる? ショー、なんかまだついこの間みたいな気がしてさぁ」
「もう、じゃねえよ二ヶ月も経ってねえんだぞ!? おい、最近の高校生はつきあってたった五十六日で泊まりなんぞすんのか。泊まりつったらその、あ゛~、あれだろ」
「人それぞれでしょ。ダメって思うなら千空ちゃんはしなかったらいいよ」
む、と押し黙った千空ちゃんを見て大人げなかったなと反省する。
心配してくれてるんだよね。なのに嫌な言い方しちゃった。俺もう高校生なんだから、小学生にひどい言い方しちゃダメだよね。
「……心配しなくてもカレシ大人だし、大丈夫よ? お金も全部だしてくれるらしいし」
「いくつだよ、大人って」
「えっとね、確かハタチって」
「犯罪者じゃねえか!!!」
声変わり前の高い声がぎゃうんとシャウトする。
「同じ高校の野郎かと思ったら二十歳とか、ざっけんないくつ違うと思ってんだよ!!」
「え、なにどしたの千空ちゃん。おちつこ、ね、ちょっと深呼吸しよ」
「五歳も下の未成年に手出そうとする奴なんか最低だぞ! わかってんのか!?」
ベッドに正座させられて、授業で習ったらしい内容の説教を延々される。
いやそれは知ってるし。わかってるのね、俺も前に似たようなこと習ってるから。まあ確かに俺も、千空ちゃんが五歳上の彼女とお泊りデートって言いだしたら心配しちゃうかも。なんだかんだ顔はいいから連れて歩くアクセ扱いされてない? とか。せめて高校卒業まで待ってくれる相手にしたら、とか。
でもそれは俺が千空ちゃんの姉的立場だからで、弟的立場にこんなに説教される必要なくない?
「じゃあ千空ちゃんがおちんちん見せてくれたら行くのやめてもいいよ」
別に行くのやめないけど、にっこり笑って提案してみればまた千空ちゃんはしかめ面をした。
「……一応聞くが、なんでそんなもん見たがる」
「見たことないものは見てみたいじゃん?」
「今度、泊まりっつーことは……見るんじゃねえのか」
それはそう。
俺もさすがにお泊まりデートって誘われて二人並んで寝るだけとは思ってないし、当然そういうことになるだろうと考えてる。だからそこで見れる、といえば見られるんだけど。
「どうしても行きたいってわけじゃないっていうか……おつきあい、どんな感じなのか経験してみようかなってつきあったんだよね。お泊まりデートも。だから、男の人の身体がどんな感じか見れたら今回は行かなくてもいっかな~って」
半分本当で半分嘘。
そろそろカレシいてもいいよね、と思ってた時にちょうど告られたからつきあってるのは本当。でも今回やめてもどうせそのうち誰かとそういうことはするだろうし、誰かとするならまあ今カレでいいし。
ただ見たことないから心の準備をしておきたいっていうか。いきなり成人男性のばーんって見てびっくりするのは悔しいじゃん。ここは千空ちゃんの子どもちんちん見て心の準備してからカレシに挑みたいでしょ。
だからまあ、どっちでもお泊まりデートは行くわけだけど、それは黙ってればいいわけだし。
俺のことゴイスー心配してくれてる千空ちゃんは、うぐぐって二分くらい悩んで、見せるって言ってくれた。
え~、俺の幼馴染ジーマーでチョロかわいい~。百夜パパに気をつけるように絶対言っておこ。
◆◆◆
ひょいひょいとズボンとパンツを脱ぎ捨て、千空ちゃんはベッドの上であぐらをかいた。
ぺたんこの下腹からぴょこんと飛び出したみたいなおちんちん、グロテスクでもごつくもなくてなんだかかわいい。話に聞いてたのと結構違うな……もっと赤黒くてぬらぬらしてるって聞いてたんだけど。
あんまり俺がまじまじと見ていたからだろうか。落ち着かなげに膝を揺らした千空ちゃんは、ちけえよ、と呟いた。
「メンゴ~。ちょっと前のめっちゃった」
がっついて見ちゃった照れくささをごまかすために、ちょっと乱暴にセーターを脱ぐ。
おちんちんを見せる代わりに俺にも脱げ、って言った千空ちゃんは、たぶんそう言えば俺が諦めると思ってたんだろう。往生際が悪いよねえ。軽くオッケーしたら口パクパクしてたもん。
昔は一緒にお風呂に入ってたんだし、千空ちゃんに見られたって今更恥ずかしいとかない。たぶんパパに見られるより抵抗感ないな……やっぱり弟みたいだからかな。
長袖の下着は暖かいけどかわいくないから、デートの時はキャミとかにした方がいいかな。寒いの苦手なんだけど。あーあ。
「ゲン、それ見てえ」
「ん? ブラ?」
手早く外そうとしていた手を止められ、背中のホックをまじまじ観察される。
「……あ~、そっかこういうの見るの初めて?」
「おう。なるほど、ひっかけて止まってんだな」
百夜パパと二人の男所帯だもんね。そりゃブラジャーを見る機会もないよね。え、でも構造じゃなくてこういう時は中身に唆るべきじゃない? 注意しとくべき? いや、さすがに千空ちゃんだって自分のカノジョにだったらちゃんと。
「ね、千空ちゃん。こっちは見ないの?」
なんとなくおもしろくなくてスカートをちょいと持ち上げて誘ってみれば、フェアじゃねえだろと返された。
「俺はちんちん、テメーは胸。ひとつずつ見せてんのに俺だけ股も見たら二つになるじゃねえか」
相変わらず変なとここだわるな。
「確かにね~。でもそれを言うなら、千空ちゃんがおちんちんならおr、…私もおまた見せるべきでしょ」
「あ~、そうなる、……か? っつーか私ってなんだよ」
「一人称」
「じゃねーよ。これまで俺、つってただろうが」
「カレシがさ~、俺女とかやめとけって」
「は? 他人様に対してなに失礼なこと言ってやがんだよ。クソダセえな、そいつ」
ずばっと言い切られて笑っちゃう。
いや俺もね、高校生だしそろそろ私って言った方がいいかなとか思ってたからいいんだけど。けど。まあ確かに何様だようぜぇ、とは思ったよね。えへ。
「え~、まあ俺呼びはそろそろやめとけとかは、あるじゃん?」
「ねえわ。自分の呼び方くらい勝手にさせろ。つーか似合ってんだろ、ゲンが俺っつーの」
照れのひとつも見せず当たり前の顔をして言われたの、結構ぐっときちゃった。
似合うんだ。そっか。こだわりとかあるわけじゃないけど、うん、そっかぁ。似合ってる、か~。
「そこまで言うなら俺って言おうかな、これまで通り」
「おう、そうしとけ。そのまんまのテメーがいいってヤツじゃねえとつきあってても面倒なだけだろ」
「このままの俺がいいとか千空ちゃんくらいしか無理なやつじゃーん」
「あ゛?」
あ。
違った。違う違う。
「千空ちゃん脱いだから俺も脱いじゃうね!」
言葉選びを間違えちゃったから急いでブラを外す。つっこまれないうちに話題かえなきゃ。
外したブラジャーを見られるのがなんだか落ち着かなくて、横に置いてたセーターの下に押し込む。服なんだけど、なんかちょっと。直接肌にふれてたからかな。自分の肌のぬくもりが残っている気がして照れちゃうのかも。
「女の子の胸見るの初めてでしょ。どーよ」
「どうよって、あ゛~……ふくらんでる、な?」
「そりゃあね!」
感心したみたいな千空ちゃんの言葉にちょっと胸はっちゃう。
まあ小学生に比べたら当然ね? 俺の年齢の割に控え目な胸も、普段千空ちゃんの周りにいる女の子達に比べたらたわわってやつでしょ!
「お、揺れた」
「そりゃ、あ、まあ当然」
「痛くねえのか? こんな揺れたらつけねとか」
「え、うん、ブラで支えるっていうか」
「ほーん、なるほどな。確かに支えがねえとぶらぶらしそうだもんな、乳房」
言われ慣れない言葉に妙にそわそわしちゃう。乳房って! 千空ちゃんは教科書で覚えた言葉使ってるだけってわかってるけど、これおっぱいって言われた方がまだ恥ずかしくない気がする。
じっと俺の胸を見つめる千空ちゃんは、真面目な顔しててエッチな気配とかまったくない。
いや小学生だもんね。大丈夫、エッチな感じになる方がおかしいよね。初めて見るものに夢中なだけの、いつもの千空ちゃん。さっきブラのホックに感心してた千空ちゃん。小さい頃からずっと一緒の、かわいい弟。
「白いな」
「日焼けしないとこだし」
「なんか餅みてえだな。いや、もっとやわい……なあ、前に百夜が持ってきたあれなんつったっけか。出張土産の」
「……羽二重餅のこと?」
「ああそれだ! テメーの乳、あれみたいだよな」
ひぇぇって声出そうになって、ぐっと喉の奥に押し込める。
パッと顔を輝かせる千空ちゃんの口に、がぶってかじられてたお餅。口の動きにそって形を変えて。白くってやわらかくって甘い、お裾分けにもらってゴイスーおいしいって食べた。
きれいに並んだ白い歯が、あのお餅にたてられたみたいに俺の胸に。
「っ、そ、かな。そこまでやらかくはないけど」
ぶるりと震えたのは痛みを想像したからだ。きっと。
他の感情なんて全然。ちっとも。ないよ、ない。
ぶはって噴き出した千空ちゃんの息がかかる。
「んだよテメー、別にうまそうだからって食わねえよ」
うまそう、なんだ?
震えちゃった俺を茶化したのか本当に怖がってると思ったのか、わかんないけど妙に機嫌よく笑ってる。さっきまでしかめ面とかばっかりしてたくせに。
言い返してやろうにも、胸の前で笑うから千空ちゃんの立った髪の毛がふわふわ首にあたってくすぐったいったらない。クククと笑うたび揺れる髪の毛に、こっちも笑うのをこらえられなくて噴き出しちゃう。
「もー、髪の毛でくすぐるの禁止ってば」
「知らねえなぁ。勝手に髪が動いてんだわ」
「こっわ。管理責任者は千空ちゃんでしょ、しっかりしてくださーい」
ちょっとだけいつもと違ってた空気がいつも通りになって、ホッとする。
よかった。千空ちゃんだ。俺の知ってる千空ちゃん。
「ゲン」
「んー?」
「なんか乳首、たってるぞ」
思いもよらなかった指摘にパッと胸元を見れば、確かに乳首がちょっと、ちょっとだけ固くなった、みたいな。
何もしてないのに勝手に自分の身体が変化したことが、どうしてかとんでもなく恥ずかしくなった。だって千空ちゃんは何もしてない、いつも通りで。なのに俺だけ。俺だけ、変で。
お口にパクってされちゃうような想像、したから。
「寒いから!」
「ほーん、なるほどな」
鳥肌もたってる、なんて言われて初めて気づいた。もう一度ぶるりと震えたら、胸もぷるぷる揺れる。やだな。寒くない。寒くないのに、こんなの。
「って、え!? なに??」
なにか考えてた千空ちゃんが、いきなり俺の胸に息をはきかけてきた。
「寒いなら温めてやればいいんだろ」
は? なに得意げな顔してんの。ゴイスーおかしいからその理屈。バカでしょ。千空ちゃん頭いいけどおバカでしょ。
千空ちゃんの口の中で温められた空気が、はぁって胸の先に吹きかけられる。
うわ。わ、わわ。うっわ。
大きく開いた口が今にもかじりつきそう。唇、ほんのちょっと前に動かしたら肌にふれちゃう。舌、動かしたら俺の胸にひっつきそう。俺の胸、乳首、ダメこれ以上大きくなっちゃったら、固くなっちゃったら、千空ちゃんのお口の中にパクって全部食べられちゃう。
ぎゅ、と手を握りしめる。
全然寒くない。目の周りが熱くて、頭ぐらぐらして、平衡感覚がおかしい。上半身が揺れて、このままじゃ千空ちゃんにぶつかっちゃいそう。
「ゲン」
名前と一緒に、さっきより勢いよく息がかかる。
跳ねた肩につられて胸も揺れて、千空ちゃんのお口の中で固くなっちゃった先もふるふる震えた。あとちょっと、ほんの少し前のめったら当たっちゃう。俺か千空ちゃんか、どっちかがほんの少しでも動いたら。
温められた空気が固くなった先を撫でて、すぐ冷たい空気に包まれる。温かいのと冷たいの、交互に感じてなんだかビリビリしてきた。ふにゃってやわらかかったはずの先っぽがどんどん固く腫れてきた気がして、どうしていいかわからなくなる。だって千空ちゃん気づいちゃう。さっきゴイスーしっかり見てたもん。ぷくってふくれてだんだん頭もたげてきた胸の先、乳首って自己主張してきちゃった俺の、が。
どうしようどうしよう。これ以上固くなっちゃったらどうしよう。千空ちゃんは元に戻そうとしてこんなことしてるのに。
身体中の感覚が全部胸に集まったみたい。ピリピリしてキュウキュウして、熱いんだか痛いんだかわかんなくなってきて。
「ちっとくれえ元に戻ったか?」
知的好奇心しかない声がいたたまれない。少しでもえっちに興味ある感だしてくれたらマシなのに、千空ちゃん本当にそういうつもりがないんだもん。
こんなの、俺が一人で勝手に。
「……バカ」
「あ゛!?」
「千空ちゃんのオコサマ! ボクネンジン! 科学バカ!」
「あ゛ぁ!?? ケンカなら買うぞ!」
勢い込んであげた顔が、俺の顔見た途端みるみるうちにしょぼくれる。
「え、おいどうした、どっか痛いのか? 腹か? 寒いつってたし冷えたのかもしれねえ、とりあえず服着ろ。確か百夜がカイロ買ってたから」
もうやだ。なに、ほんっとうやだ千空ちゃん。
なんで小学生なの。バカ。
「千空ちゃん、生まれてくるの遅い」
俺より背も低いし細い千空ちゃんは、力も全然たいしたことない。
肩押したら簡単によろけてベッドに寝転んじゃうくらいひょろがりだし、今も何が起こったかわかんないって顔で目をぱちくりさせてる。
「まだ俺が見てないでしょ、って……たってる?」
「なんで疑問形だよ」
「いや見たことないし……これ興奮したりしたらなるやつ? ジーマーで? こんなピーンってなるの?」
つるんとした千空ちゃんの子どもちんちん、まっすぐ上に伸びてるのこれ寝転んでるからじゃないよね。勃起、ってやつなのかな。千空ちゃんしれっとしてたけど興奮してたわけ?
右から左からじっくり見てたら、ゴイスーやな顔されて落ち着けって言われた。いやだってこれ、知りたいでしょ。
「別に興奮しなくてもなんか勝手に固くなったりすんだよ。ほっとけばそのうちおさまる」
「え、外とかでも? 困らない?」
「困る。けどまあ、そういうものだからな」
座りなおした千空ちゃんにつられるようにおちんちんもぴょこぴょこ動く。
脱いだ時に見た形じゃなくて、支えてもいないのに前につきだしてるのなんかびっくりしちゃう。何がどうなってこんななってんだろ……カレシも俺のパパも百夜パパも、学校の先生もその辺歩いてるおじさんも、みんなこんななわけ? ええ~、なんか間抜け。
「そんな唆るもんでもねえだろ。角度変わって膨張するくらいだ」
「それだけしたら十分じゃない? まあ唆るかどうかって言われたら……おもしろいかなぁって」
これならいけるな、って俺はぱかって口を開いた。
千空ちゃんにお口の中がしっかり見えるように、目の前で。ほら、温かいぬめった舌もやわらかそうな口内もきれいに並んだ小さめの歯も見てね。あんまり大きくないけど、その方がたぶんエッチな気がする。
怪訝な顔する千空ちゃんに目だけで笑いかけて、そのままおちんちんにゆっくり顔を近づけてく。お口は開いたまま、おちんちんを招き入れて。
「ッ、おいゲン!?」
どこにもふれないまま、はぁってため息みたいに息をはく。
俺の肩にのばされた千空ちゃんの手が迷うみたいにうろついて、結局さわらないままぎゅっと拳を握った。下腹がぴくぴく震えて太ももが下がろうと動くも、固まったまま。少しでも動いたらさわっちゃう、からじっとしてるしかないもんね。
仕返しだ。俺のが年上なのに、高校生なのに。やられっぱなしで終わりにするわけがない。
千空ちゃんはさわらなかった。見ただけ。あとはあたたかい吐息を吹きかけただけ。だから俺も同じ、おちんちんにはさわらないように、大きく開いたお口で囲ってみただけ。息をついただけ。千空ちゃんと同じことしてやってるんだよ、ざまあみろ。
息継ぎしたくて、でも口から出しちゃったら逃げられるから小刻みに鼻から吸うしかない。スンスン、ってなんか千空ちゃんの匂いかいでるみたい。同じこと思ったのか、嗅ぐな、って小さい小さい声がした。ちらって視線だけ上げて見た千空ちゃんのほっぺは真っ赤だった。いつも強気に上がってる眉毛がぎゅうって寄って、目が潤んでる。
そんな顔してるくせに、ずっと俺のこと見てるの。
「……離れろ、ゲン。なんか、なんか変だ。おい、頼むから」
顔を押しのけたくても、俺の口内におちんちんが当たったらと思うと動けないんだろう。
涙目で、ほっぺだけじゃなく耳も首も、うわぁ太ももまで赤くなってる。じわ、って汗の匂いがした気がした。
口を開きっぱなしだからよだれが溜まってきちゃう。空いた空間といえ千空ちゃんのおちんちんが入ってるから飲み込むわけにもいかなくて、でもだらだら流すのは年頃の女の子としてアウトすぎる。さすがによだれつくのはかわいそうだし、そろそろ反撃は終わりにしてあげようかなってそろりと頭を上げていく。俺の動きを見て終わったと思ったんだろう、千空ちゃんも安堵のため息をついて。
「あ」
ぽたっておちんちんの先っぽによだれが落ちた途端、なにかが飛び出てきた。
ぴちゃ、って千空ちゃんの下腹に。液体、みたいな。ええと。
「……何も言うな」
「えーっと」
「言うなよ、ゲン」
そっとティッシュの箱を渡してあげたら、見たことないレベルの虚無顔でお腹拭いてた。
なかったことにしてあげるべきなのかなこれ。精通おめでと~って言ったら今後顔あわせてくれない気がする。
◆◆◆
お互いに服を着て、千空ちゃんがコーラと麦茶持ってきてくれて、仕切り直しとばかりに二人して顔をあわせた。
「行くなよ」
「え?」
「俺の見たんだから、泊まり行かねえんだよな」
一言目がそれなんだ。痴女とかそういうのじゃなくて、それ言っちゃうんだ。
あーあ。ほんともう、あーあだよ。
「約束したからお泊まりデートは行かないよ」
にっこり笑顔で言えば安心したみたいに笑ってくれる。俺の幼馴染、心配性で素直でゴイスーかわいい。
「でもお家デートしよって何回も誘われてるから、そっちはもう断れないしな~」
「あ゛!? テメーわかってんだろ、行ったらどうなるか」
「どうってデートよ? 映画借りてきて見たりお部屋でお話したりするんじゃない?」
俺らみたいにね、と道順を示してやれば千空ちゃんはパッと顔を輝かせた。
「したことないから、つってたな!? 家で二人は俺としてるからそいつとしなくていいじゃねえか!」
「え~、千空ちゃんとはおつきあいしてないじゃん? じゃあ別ものでしょ」
千空ちゃんとどれだけしたことだって、カレシって存在とはしたことないもん。
ぐ、と言葉につまった千空ちゃんがちんちんと渋い顔で呟くから、もう見たから交換条件にならないよってくぎを刺す。
別に俺、男の子のおちんちん見たいとかじゃないんで。いや結構見ちゃったけど。なんならお口で囲ったりもしちゃったけど。でも千空ちゃんのだけだし。
うんうん唸ってる千空ちゃんはわかってるのかな。頭いいのにおバカなとこあるから、全然わかってないのかも。なんで俺のこと止めたいのかとか。幼馴染を心配してる、にしては踏み込みすぎだとか。
「……つきあってる野郎のこと、好き、ってわけじゃないんだよな?」
「嫌いじゃないよ? 俺のことゴイスー好きって言ってくれるし、いろんなとこ連れてってくれるし。千空ちゃんも知らないこと知るの好きでしょ? 一緒一緒」
嘘じゃない。カレシと色々するんだろうなって思う程度にはちゃんと。
でもカレシ、コートかけてくれないしゲンちゃんには紅茶が似合うとか言ってコーラ注文させてくれないしお部屋にクッションあるか知らないし、見るだけって言ってもいいからいいからって触ってきそう。下も見るか訊いたら即頷くと思う。フェアじゃないとか言わない。俺が泣きそうだったからって慌ててカイロ持ってこようとしない。ひょろくないしおちんちんもたぶん大人だろうし俺より力あるし、太ももまで赤くはならない。
千空ちゃんじゃない。
「行くな」
カレシ、千空ちゃんじゃないんだよなぁ。
「テメーは俺の……精通見たんだから、労働力で返しやがれ」
「バイヤー、やっぱりあれそうだったの」
「これまで出たことねえからたぶんな。今週末ロケット飛ばしに行くからついてこいよ」
「え~、デートの約束あるんだけど……まあいいよ。今回だけね」
「次も」
「それはダーメ。一回は一回でしょ」
ぐぐぐ、と難しい顔をしてる千空ちゃん、どうしたらいいかわかんないんだろうなぁ。俺がフリーなら告白してオッケーされたらいいけど、おつきあいしちゃってるもんね。それでも言う、なんて文化ないよね千空ちゃんには。小学生には。
「でも、千空ちゃんと行ったことないとこに行く、とかならオッケーしちゃうなぁ。まだ予定入ってないし」
毎週末カレシとデートしてたけど、別れちゃえば予定はなくなるわけだし。
「幼馴染と行ったことあるとこでも、関係性変わったらまた違う楽しさあるよね。幼馴染とはしないこと、するとか」
ヒント出しすぎだけど許してほしい。
だって正解してほしい。わかりやすすぎる道案内に頼ってまっすぐここまで来てほしい。
ねえ、ほんとは俺もさ、まだもう少しゆっくりでいいから。
「ゲン、プラネタリウム好きだろ。俺なら解説もばっちりしてやれる」
「好きだけど、千空ちゃんと行く理由って解説だけ?」
「だから、あ゛~……連れてけよ。小学生一人で行くの止められてんだよ、遠いから」
とん、と俺の腕に当たった肩は細くて頼りない。俺の方がきっと力強いし、さっきだって涙目で顔赤くてかわいくて。お願い、って言ったらわりとなんでもかなえてくれようとする、チョロい幼馴染。
「テメーがいい。一緒に行ってくれ」
下からのぞきこんで上目遣いのかわいい顔。殊勝な態度で年下って強みを出してくるあたり、ちゃっかりしてる。俺がこういう態度とられるのに弱いってわかってて、年齢差を武器にすることに躊躇ないの好きだよ。それでこそ千空ちゃんだもん。
あーあ、そうだよ結局俺もチョロい幼馴染。
「いいよ。保護者代わりにあちこちついてったげる」
「毎週だぞ。彼氏とやらと出かけてる暇ねえぞ」
「ん~、そしたら俺、振られちゃうかもだね」
「……いいのかよ」
怖気づいたかな、と顔を見たらひどく難しい顔をしてた。俺が振られるって言ったから悩んでくれてるのかな。カレシとデート阻止しようとしておいて? おちんちん見せるまでして止めて、それで今更とかウケる。深く考えないで止めたんだろうなぁ。
ね、千空ちゃんが考えなしに衝動で、ってだけでわかることいっぱいあるよ。俺がわかることだもん、きっと千空ちゃんもわかるよ。しっかり考えたら。
四六時中考えてね。俺のことで頭いっぱいにしてね。
「保護者代わりは小学生の間だけだよ」
中学生になったら違う言い訳考えてね。
にんまり笑う俺の求めてる言葉がわかったんだろう。千空ちゃんは三回深呼吸して、噛みつくみたいに俺を見た。
「テメーも知ってるだろうが、俺は走るのが得意じゃねえ」
「うん? そうだね」
「でも全力で走る。四年分」
年の差分。
「だから待っててくれねえか。止まってろとは言わねえ……まあ、なるべくゆっくり歩いてくれるとおありがてえが」
ぎゅっとつながれた手が予想より大きい。骨の細くてやわい、子どもの手だって思って。俺は。
もっとかわいい約束がくるかなって思ってたんだけど。
「え~、じゃあ俺スキップして待ってよっかな」
「んだそれ。浮かれてるじゃねえか」
「うん。うれしいもん」
「俺もだ」
同じくらい浮かれた声で顔で、千空ちゃんは四年分を一気に飛んできた。無自覚だけど。
いいよ、ねえ。俺は待ってるから。ウキウキで待ってるから、次は自覚できるくらい育って迎えに来てね。