おにいちゃんは絶対教

「俺は別にいいよ、おまえらが幸せなんだったら。無理やりじゃないんだろ? 二人ともオッケーなんだろ? じゃあいいよ」

 

◆◆◆

 

末の弟とその上がこっそりひっそりおつきあいを開始していた、と知った時のチョロ松といえば青天の霹靂もいいところだった。
え、おつきあいってあれですよね、好きですって告白とかしちゃって手つないでデートとかやっちゃうし隙を見てキスとかもっとそれ以上とかでゆくゆくは家庭を築き孫保障を、っていうあの伝説の。上から下まで皆クズ、の松野兄弟に最も遠かったあの。あれ、それを男同士で? 兄弟で?? あれぇ???
ホモじゃん。兄弟だよ変態か。おまえらなにそれデリバリーコント笑えねえよ。
言葉の意味をかみしめる前に口から飛び出しそうだったツッコミは、へぇ、という長男のゆったりした声にぎゅっとのどで止まる。

「なになに、両想いってやつぅ? めでてえじゃん」

じゃあ今夜はおまえらの奢りでパーティーな! 飲もうぜ!
思いっきり集る気満々の言葉に遅れ気味に末弟が、なにそれちょっとは遠慮してよね、と明るい声を上げた。その瞬間、魔法が解けたように空気が見知ったものに変わる。

「いーじゃんいーじゃんケチくさいこと言うなよトッティ」
「トッティ言わないで。別に奢らないとまでは言わないけどさ、上限決めるよ。じゃないと兄さん際限ないじゃん」
「え~、この機会にたっかいヤツ飲んでやろうと思ってたのにぃ」
「やっぱり! ひっどいクズだね知ってたけど」

ぽんぽんと交わされる会話はいつも通りの兄弟のもので、チョロ松はなんとなく安心した。
何も考えず思いついたことを口にしてしまわずによかった、なんて。否定とかそういうつもりはなかったけれど、勢いに任せてつっこんでしまえば現在のこの空気感にはならなかっただろうから。
だから十四松がくるりと目を回しながら問いかけた時、うん、と肯けた。

「いいの?」

うん。

「なに、どうしたのさおまえそんな小さな声で」
「チョロ松兄さん、だいじょぶ?」

そういえばさっきから話すのはトド松だけだったな、とか。ばたばた楽しげに動く長い袖の残像を見なかったな、とか。いろいろ今更気づいて、妙にうかがうような視線を四人分感じてしまったりもして。
なんだよ馬鹿だなおまえら。許可とか大丈夫とかそういう話じゃないじゃん。これさっきまでの反応が正しいってやつでしょ。恋愛関係ぽんこつとか言われてるけどさすがの僕だってこの空気くらい読めるし、だからおまえの方がぽんこつのくせになんでそんな心配そうにこっち見るんだよカラ松。
言いたいことはいっぱいあって、口から今にも飛び出しそうで、でももう一度チョロ松はぐいと止めた。ごくりと飲み込む。なにを? いろいろを。

「うん」

だいじょぶ? って。無駄にいつも笑ってる元気の塊の弟が小さな声で問いかけて、すぐあげ足とってからかってくる弟はこっちに話を一切ふらないで。猫以外興味ありません、って態度の弟はそわそわとうかがってくるし。
なんなの、馬鹿だねおまえら。呆れて笑いが込み上げてくるのを、チョロ松は今度こそ飲み込まなかった。

「いいんじゃない? そこの馬鹿の言う通りさ、おめでたいことでしょ」

だからおまえらの奢りだよ今日は、と言い放てば力強く肩を抱かれた。おまえ馬鹿力なのいいかげん自覚してカラ松。

 

◆◆◆

 

かんぱい、と笑えばウーロン茶のグラスを同じように持ち上げられた。

「よかったな、本当に」

しみじみと呟くカラ松は真っ赤な頬のまま嬉しそうに上を見た。今頃二階でぐっすり眠りこけている弟達に向けられるまなざしは慈愛ばかりで、ちょっとなんだか心配になってきてしまう。

「な~におまえ、そんなんで大丈夫? もうひと頑張りあるよ??」

お兄ちゃんの計画的に、そんな愛おしいばっかりでいてもらっては困るのだ。大層身勝手なおそ松の声に視線を戻したカラ松は、まあ大丈夫だろう、とあっけらかんと笑う。

「一番ネックだったチョロ松がああして受け入れてくれたんだ。潔癖なところがあるし思っているより言いすぎるから心配していたけど」
「ね~、俺が最初に言っといてよかったろ?」

常識的な行動を好む三男、というキャラを崩したくないチョロ松は自覚している以上に口をすべらせるところがある。本心はそこまで嫌がっていないのに、一般的でないからといった理由で否定してしまうとか。自分一人の判断を信じればいいのに、どうしてもその場の『常識』を探ってなびいてしまう。長いものに巻かれる、とまで言ってはまた怒られるけれど。
だからこそおそ松は最初に空気をつくってやった。否定することじゃない、祝福していいんだ、弟達を受け入れてやるんだ。あまりにわかりやすいレールだったけれど、松野家男子としてあたりまえにブラコンなチョロ松はさっさと乗ってくれた。

「まあチョロ松も弟はかわいいからな」
「お兄ちゃんだってかわいいです~」
「はいはいかわいいかわいい」
「雑じゃない!? カラ松なんで俺にだけそんな雑なの!」
「俺も弟はかわいい。おそ松は兄だ。アンダスタン?」

ぴっとポーズを決められて、ただでさえ弱いおそ松の腹筋は崩壊寸前だ。酒の力は偉大。いつもより三割はおもしろく見えております。
あばらが折れるとじたばたするおそ松を横目に柿ピーのピーナッツをよける作業にいそしむカラ松は、そういえばと明日の天気でも予想するかのように口を開いた。

「そろそろ一松に告白されそうなんだが、焦らすか俺もって受け入れるかどっちがいいと思う?」

兄弟で、男同士で、いくら本日弟同士が恋愛関係にあると暴露された松野家であろうともそもそも仲がいいとは言えなかった四男の名前に、おそ松はツッコミのひとつも入れず当たり前に答えた。

「結構時間かかったね。おまえらが一番かと思ってたよ俺。……ん~、焦らした方がよくね?」
「一松は慎重だからな。今日、皆が祝福したのが大きかったんだろう」
「それへたれって言うんだぜ一般的に」

一般的に、弟に告白されそうだと兄に相談したりはしないだろう。それも受け入れる方法をだ。
同じように思ったのか、カラ松もおかしそうに笑って「一般的ってどこの一般だ」なんて珍しくツッコミをいれる。

「まあ松野家は兄弟間恋愛推奨ですから~」
「おまえの都合だろ」
「そうだよ」

あったりまえじゃん、と鼻の下をこすればクズだなと容赦のない声が降る。同じくらいクズの隣の男は、くつくつと楽しそうに笑っておそ松に肩をぶつけた。

「おそ松こそがんばれ。チョロ松は一番手ごわいぞ」

 

 

自分はなかなかにいい兄ちゃんをしている、とおそ松は自認している。
なんせ弟はかわいい。問答無用で愛している。もちろん五人の敵でもあるけれど、いうなればそれはライバルというか、人生におけるスパイスというか、つまりは必要不可欠で大切でどうしても切り離せない。弟がいない、六人じゃない自分を想像したくない程度には手放せない。
それを依存と世間では呼ぶだろうが、じゃあそれでもかまわない。大切なのは六人が揃っていることで、弟が皆おそ松の手の内にいるということだ。
そう自覚したのが早かったおかげでこうして手がうてたのだからラッキーだった。もしかしたら神様もこうなることを望んでたんじゃないかな、なんて責任転嫁もこっそりしてしまう。

「チョロ松な~……どういう方向がいいかねえ」

おそ松は欲がない、と昔カラ松は笑った。巻き込むことを決めた時。
本当は丸ごと弟達を抱え込みたいくせに俺しか巻き込まなかったんだから欲がない、と。
確かに手はうったけれど確実なものじゃなかったし、最大限弟達の気持ちをないがしろにしないようには気をつけた。つけたけれども、気持ちを勘違いするように働きかけはしたしそもそもカラ松を巻き込んだ時点で弟達は手に入れたも同然だったから欲がないというわけでもないだろう。

「あいつレイカ好きじゃん? だからかわいい感じがいいかね」
「いや、結構おそ松に夢見てるところあるぞ。頼りになる兄っぽい方がいいんじゃないか」

うんうんとうなるカラ松を見ておそ松はどうにも笑いが堪えきれない。
弟に告白されそうなんて言いながら、今度は別の弟の落とし方に頭をひねる。末弟あたりが知ったらまたサイコパスだなんだと叫ぶだろうか。

「あいつ夢見てる? 一番俺に対する当たり強いよ」
「見てるから強いんだろ。それに今日チョロ松が受け入れられたのは、おそ松が受け入れたからだ」
「まあ長男様だからね」

六つ子だから同じ年齢で小さい頃は自分たちの区別もろくにつかないまま育ったくせに、いやだからか、自分たちは妙に兄弟間の序列に厳しい。
兄は兄。弟は弟。普段どれだけあなどってもクズと罵ってもヒエラルキーの最下層でも、おそ松は長男でカラ松は次男だ。長男が受け入れ次男が異議を唱えないなら、それは松野家の兄弟にとっての正解。どれだけ世間一般でおかしいとされてもそれはそれ、どこの家庭でも独自ルールがあるだろうそれなのだ。
だから仕方ない。恨むなら一番に気づかなかった自分を恨め、弟達よ。

「じゃあカッコイイ感じにしよ。カラ松が言うならそれが一番効くだろうし」
「ふっ、褒めても何もやれないぜ」
「あ、それたぶん一松に受け悪いから。焦らすならもうちょっと聖母なお兄ちゃん感だせよ」
「待ておそ松。聖母とお兄ちゃんはまず性別が」
「いけるいける、ってかあいつそういうの求めてるって絶対。ゴミでクズの俺をそれでも受け入れてくれる優しくて愛に満ち溢れたお兄ちゃんあいちてる~、だよ」
「……おそ松の方が向いてないか?」
「うーん、あいかわらずおまえはぽんこつだね? そもそも一松をそういう風にしたのはおまえでしょ」

最初にカラ松を巻き込んだのはすぐ下の弟だという理由だけじゃない。悪だくみの相棒ならチョロ松がいたし、頭がいいのは一松だった。口がうまいのはトド松で、皆から問答無用で愛されていたのは十四松だ。それでもカラ松だけを選んだのは、それだけで全部が手に入ると知っていたからだ。

「人聞きが悪い」
「えー。じゃあさ、そもそもトド松にはなんて言ってやったの」

一番兄弟から抜けだしたがっていたかわいい末弟。おそ松の夢を誰より恐れていた彼になんと言って落としたのか。
言葉にせずとも察したカラ松は、首をかしげて口を開いた。

「ん? ああ、トド松は働いては傷ついていただろ。だから、俺たちは絶対に受け入れるから安心するようには言ったかな。なんせあいつはかわいい一番下の弟だ。兄は絶対に裏切らない生き物だからな!」
「十四松には?」
「とくにはなにも。十四松は基本なんでも一人で決めるだろ」
「でもあれじゃん、トド松はおまえのたった一人の弟なんだから、とか言ったんじゃないの」
「すごいなおそ松! なんで知ってるんだ?」

悪気なんてひとつもない、純粋に弟を愛してやまないカラ松。
なんとか社会で認められようとして必死に外に出ては傷ついて、みじめに逃げかえってくるトド松にすりこまれる問答無用の甘やかし。兄だから、弟だから。それだけでなにもせずとも与えられる、努力の欠片も必要としない甘ったるい愛情。
トド松がカラ松ではなく十四松を選んだのは、ひとえにプライドの問題だろう。一方的に甘やかされるばかりなんて耐えられない、なんとか面倒を見て頼りにされて、お互いを支えあえる相手でなくてはトド松はつぶれてしまう。
そして唯一の弟をかわいがりたい十四松は、つぶれるトド松など見たくないのだ。だって自分が受け入れなければカラ松がトド松を受け入れてしまう。

「そういえば一松がな、俺たちみんなクズなんだから今更気にする必要ないよって十四松にフォローいれてたんだ。やっぱりあいつ優しいいい子だよな」
「うーん、それをフォローって言っちゃうカラ松くんはひどいね本当に!」
「え」

どうして、とでかでか書かれた顔を隠す気もないすぐ下の弟は本当にぽんこつだ。これは社会に出してまともに生きられるとは思えないから、一番どうにでもなりそうな四男に押し付けられてよかったとおそ松は胸をなでおろした。
ちょっと卑屈でツンが激しいが、カラ松の言う通り兄弟でもっとも優しいのは一松だ。なんせ兄弟を愛しているし、恋愛感情がないのに実の弟とつきあうなんてひどいことをするすぐ下の弟にも、クズだからいいんだよと慰めてやれる。馬鹿みたいに愛情を垂れ流す兄を放っておけなくて見守っているうちに、うっかり自分が面倒をみなくてはいけないと決意するくらい流されやすい優しい男。

「やっぱり一松にはおまえしかないな」
「そうか? おそ松たち仲いいだろ」
「仲いいのとそれはまた別でしょ」

小学生じゃないんだから、と笑えばおまえは小学生だぞメンタルが、と真顔で注意をうける。意味がわからない。
恋愛感情以前に、家族とそれ以外できっぱり分けて家族以外に愛情を注げないカラ松に言われる筋合いはないとおそ松は思う。おまえこそ感情系の成長がおかしいんだから自覚しろ、と言っても通じないのは今更なので口にもしないけれど。

「一松にもなんか言ったの?」
「普通に、幸せでよかったなって言ったぞ。おまえもいただろ、さっき」
「あ~さっきの。え、おまえ無自覚? 俺てっきり一松落としにかかったんだとばっかり」

恋愛成就おめでとうリア充滅べ、と下二人を囲んで酒盛り中になんて仕事が早いとおそ松は感心していたというのに。
ほろ酔いのふわふわした声で、頬を真っ赤にして、感激に目を潤ませて。しあわせでよかった、すきなひととずっといるなんてうれしい、おとうとがしあわせになったうれしい。舌足らずに繰り返して笑うカラ松はそれはもう優しいばっかりの生き物で、こんなやわらかい心の生き物はすぐその辺で傷ついて泣くんじゃないかなんて想像は簡単で、それは少し離れて見ていたおそ松でさえ思ったんだから隣にいた弟なんて。つまり一松なんて、イチコロで。
カラ松が優しいだけの男じゃないなんておそ松が一番知っている。なんせおそ松が弟達を全部手に入れて縛りつけようと計画し、巻き込んだのはすぐ下の弟。兄弟を愛し家族を愛し、それ以外を愛せないぽんこつな生き物。ずっと六人でいるために協力しないか、と笑いかければいいなと目を輝かせた愛おしいブラコン馬鹿。
そう知っているおそ松さえ誤解しそうなくらい保護欲をかきたててきたカラ松は、もうそんな雰囲気を欠片もみせない。

「そんなつもりはなかったが……だから告白してくれるのか」
「落とした自覚はないのに告られる自信はあるとか」
「だって一松だぞ。自分で自覚して諦めない限りこっちから言っても無理だろ、絶対」
「ソーネ、ってほんと弟のことよく見てるねカラ松」

じゃあやっぱりおそ松じゃなくて俺が担当か、と納得する弟をちらりと見ておそ松はまた笑う。

「そうそう、俺がチョロちゃん担当。ねえ、カッコイイで押すって言ってたけど正直チョロ松俺に抱かれてくれると思う?」
「無理だろそれこそ。大人しく受けてやれよ」
「えええあっさりー。でもカッコイイお兄ちゃんでいくって言ったじゃん? なのにヤる時だけ逆とかそんなのアリ!?」
「セックスまで女役ふられたらチョロ松が壊れる。そこは男としてのプライドを立ててやれよ、兄貴だろ」
「カラ松が冷たい~、チョロちゃんにだけ優しい~」
「弟はかわいい、チョロ松は弟。別に気にしてないくせにうるさいぞおそ松」
「ちぇー。じゃおまえも女役な? お兄ちゃんだもんな!?」
「俺で勃つならたぶんそうなるだろうな。一松も妙にこだわるところあるし」

そりゃ感情の起点が守ってやりたいなんだから抱きたいになるだろうね、なんて言ってもどうせカラ松は首をひねるだけなのでおそ松は教えてやらない。あとたぶん問題なく勃つ。かわいそうとかわいい、守りたいと傷つけたいは性欲的にわりと近い位置にある、とかもぽんこつには言っても無駄だから。

「あ、そういえばチョロ松に、男同士とか兄弟とか俺は気にしない愛がすべてだ、って言っておいたからな」
「サンキュ。めっちゃ助かるぅ」

カラ松お兄ちゃんからの言葉すげえ効くもんね、と笑いかければ同じように返される。

「お兄ちゃんからのお願いだったからがんばったんだ。かわいい弟だろ?」

さほど兄だとも思っていないだろうにわざとらしい。笑うカラ松の表情はおそ松とまるで同じだ。

 

 

トド松には五人から。おまえを絶対裏切らないよ。
十四松には四人から。みんなクズだし、たった一人の大切な弟だし、おめでたいことだよ。
一松には三人から。好きな人と一緒は幸せで、いいんじゃない、じゃあいいよ。
チョロ松には二人から。愛がすべてだ、二人ともオッケーなら。

どれだけ雑に扱っても馬鹿にしても殴っても、松野家の兄弟は皆上に弱い。けして口にも態度にも出さないけれど、兄の言うことは頭の片隅に置くように育っている。どうしてか。どうしてか?

 

 

受け入れる言葉。認める言葉。否定なんてけしてけしてしない、ここにいていいんだよ大好きだよの証。

「俺は別にいいよ、おまえらが幸せなんだったら。無理やりじゃないんだろ? 二人ともオッケーなんだろ? じゃあいいよ」

問答無用に許すよ。なぜならおまえたちが弟だから。俺は兄だから。だからずっとこうして皆で、六人で幸せに暮らそう。笑って生きていこう。六人ならできるよ。
六人じゃなきゃできないよ。

おそ松が受け入れカラ松が異議を唱えないならそれは兄弟の新しいルールになる。
いつから決まっていたのかわからない、それがもっとも古い兄弟のルール。
兄弟間でおつきあいを初めて、それをおそ松が受け入れた。幸せでよかったとカラ松が異議を唱えなかった。つまりはそれが、明日からのルールだ。そしてチョロ松も一松はルールには従う方。
世間一般では受け入れられない。兄弟間の恋愛だなんて否定される。この家の中、六人の間でしか許されない、認められない関係。ココでなら祝福までされるのに。

「長男から末弟までみーんなクズ、だもんなぁ」
「甘やかされて生きてるから厳しい現実なんて見たくないもんな」

楽しくてにこにこ笑えばやっぱり隣の顔もにこにこ笑う。同じ顔だ。おそ松と同じ、嬉しくて幸せで達成感でいっぱいの、顔。カラ松の。

「油断するなよ、おそ松。まだチョロ松は落とせてない」
「そっちこそ告られてないからな、まだ。あと一松はつきあってからも面倒なタイプだな、俺の予想では」
「たぶんチョロ松もだ」

マジか、と笑いあって乾杯をする。
世間の厳しさに。この場所のゆるさに。世間の荒波になんて耐えられないから、絶対に兄弟から抜け出さないだろう甘ったれのクズな弟達に。
六人全部抱え込んで一生終えたいんだけどどうしたらいい、と巻き込めば目を輝かせてこんなどうしようもない計画を練り上げた参謀様、おそ松と同じ顔をした同じ生き物に。

「かんぱ~い!」