リベンジプロポーズ - 6/6

おとぎ話になるように。二人はずっと一緒に幸せに暮らしました、で終わるように。

「カラ松、話、聞いてほしい」

着の身着のまま、過去から戻ってきたその足でカラ松の腕をひっ捕まえるときょとりと首を傾げられた。

「どうしたんだ一松。デカパン博士のところ行ったんだろ? 居なかったのか?」
「うん俺的には十日くらい離れてた気分だしもう博士の用事済んだしまさか行ったその瞬間に戻ってこれるとか思わないよねそゆとこだけ高機能でどうすんだって話だよね」
「ん? 用事が済んだならよかった、な?」
「おかげさまで」

よくわかっていないだろうににこにこ笑うカラ松は普段着のパーカーだし僕だって着古したTシャツだしそもそもここは居間だし。スーツで花束で夜景の見えるレストランとか、夕日がきれいな海辺とか、サプライズでどうこうとか、そういう一般的に喜ばれそうでわりとカラ松も好きそうなそういうシチュエーションじゃ全然ないし。プロポーズがいまいちだとずっと言われるから絶対頑張った方がいい、ってネットでいっぱい見た。後からずーっと言われるって。あれはなかった、もっとロマンチックなのがよかった、って。なるほど確かに、って頭に詰め込めるだけ詰め込んでしたプロポーズはさらっと断られたんですけどね、ええ。ええ。でもいい。だって戻ったら一番にするって決めてたんだ。
ぎゅうと抱きしめたら当たり前に腕が背中に回る。どうした? って嬉しげに弾んだ声で聞かれたらそんなのもう、言うしかない。

「ねえ、お願い。僕に全部ちょうだい。カラ松に関わる全部の役が欲しい。親はさすがに諦めるからさ、あと全部。兄も弟も恋人も旦那も友人も、そういう、おまえに関わる全部になりたい。それで全部に手出ししたい。カラ松の人生で僕のさわってないとこないようにしたい」

重いな。それで意味がわからない。でもカラ松(若)と約束したからね、プロポーズしなおすって。

「だから結婚して。俺に旦那の役ちょうだい。嫁の役も。ずっとずっと死ぬまで、僕に干渉されてて」

絶対に逃げだされないようにぎゅうぎゅうに抱きしめて、ひたすら懇願する。お願いお願い。僕のこと好きでしょ、愛してるでしょ、だからまあいいかなって絆されて。重いしイタイし病んでるし、ロマンチックでもスマートでもないプロポーズ。だけどこれが僕の全部だから仕方ない。
全部さらけだすから。世間の目とか評価とかそういう見えないけど確実に僕を攻撃してくるものから守ってくれるマスクもネガティブなポーズも全部全部なしにして、カラ松に差し出すから。おまえよりもずっとずっとずっとイタくてサイコパスな僕を、もらって。それで僕にもおまえをちょうだい。

「……猫を、見に行く時は一緒に行きたい。寂しいから」

背骨が折れそうなくらい抱きしめられて、耳元でひっそり囁かれたご褒美。

「ね、俺も約束守るよ、お兄さん」

 

 

 

ああ、兄の役柄ももらっちゃった。ほんとうに全部の全部だ。そうだねなにもしてない『松野一松』が幸せになるのはしゃくだもんね畜生クソが! サイッコーに愛してるよお兄ちゃん!!!