リベンジプロポーズ - 3/6

とりあえず絶対に必要なのは、僕(過去)がカラ松(若)のためにがんばっているということを知らせることだ。なんせ現状、僕(過去)からカラ松(若)への態度は最悪。当たりが強いなんてもんじゃない。内情を知ってる僕からすれば照れ隠しなんだなとかこじらせやがってとかわかるけれど、それを当事者のカラ松(若)に求めるのは酷だってことくらいわかる。でもここでがんばれば一発逆転満塁ホームランだから。いつもは冷たい弟が自分のために、ってだけで下にはゲロ甘なあいつは好感度爆上げだから。そこで弟じゃなく一人の男として、みたいなやつは後でな。おまえががんばれ過去の僕。とりあえずそこまで辿り着くために、なんとか僕(過去)ががんばってるところを見せたい。
見せたい、んだけど。

ちょっと僕(過去)~、上手に隠ぺいしすぎなんじゃないですかぁ~??!
変な手紙とか処分した記憶はある。あと十四松に野球誘わせるようにして外で一人にならないようにしたり、待ち伏せされてたらやばいと思って違う道順で帰るよう誘導したりもした。うん、それ確かにカラ松にばれないようにがんばったんだ当時の僕。でもがんばりすぎじゃね? カラ松(若)を見守ってる僕に気づかれないレベルってことは、おまえのがんばりなにひとつ伝わんないってことだよ?? もちろんそれを求めてたのは知ってるけどね、今となってはばれててほしいんですけど切実に! てゆーかばれないとカラ松(若)、ストーカーにあってることすら気づかないで平穏な毎日過ごしちゃうんですけど!!!
ちゃうねん。平和に歌って過ごすのはかわいいからええねんけどワイ(過去)に恋に落ちてもらわへんとワイ(リアル)死んでまうねん。プロポーズ断られてる時点で死にそうやねん。助けて十四松はーん。

「カラ松兄さんそれなんっすか? おいしい!?」
「これは食べたらお腹が痛くなるからストップな十四松。腹が減ってるならこれをやろう」
「ひょー! 飴うま~」

大荒れの僕の心の中とは正反対に、平和の象徴かとでもいうような尊い光景が目の前では展開されている。ちょっと鳩、鳩飛ばそう。あと羽とか風船とか。このほのぼの空間を彩るステキななにかを誰かよろしく頼む。

「そんで兄さん、それなんっすか」
「……どうしても気になるんだな。あと飴は噛んだら虫歯になりやすいぞ?」
「でも歯があるから! 噛んじゃわないと飴がかわいそうだから!!」
「んん? そうか」

あ、カラ松(若)今流しやがった。確かにちょっと意味がわからなかったけど、ほんっとーにおまえはすぐ理解を諦めやがって。脳みそすっからかんか。僕のことだけつめこんどきやがれ。
十四松に見せるかどうかちょっと迷って、ごまかせないと思ったのか手に持った紙きれを渡すカラ松(若)は困ったように笑っている。控えめに言って孕ませたい。基本的に自分のことに弟を巻き込まないあいつが大丈夫だと認識した、という事実がときめきエスカレート。

「手紙!」
「知らないうちにタンスに入っていてな」

なにを隠そうあれこそが僕の作戦である。
自分のがんばりを見せないシャイボーイな僕(過去)の努力をなんとかカラ松(若)に知ってもらうため、おまえを見守ってるタキシード仮面様がいるよ、というメッセージを送る事にしたのだ。直接言うわけにもいかず、だからといって僕(過去)がぽろりしてくれるのを待ってる余裕などない今、とれる手段がそれくらいしかなかったとも言う。
ちなみに昼間、普通に家に玄関から入ってカラ松(若)のタンスのパーカーにつっこんでおいた。しっかり見れば年齢の差は一目瞭然だろうが、遠目からなら問題ない。ニートのわりにアクティブな兄弟様々、昼間は案外留守にしていることが多い松野家に堂々と入るのは簡単すぎてあれだ、ケツ毛燃えるというやつである。なんせ鍵も持ってるし。ちなみに、僕はカラ松が燃やしてくれるというなら自分のケツを差し出す気持ちはあるけれどセルフでは別に興味はない。チョロ松兄さんと一緒にしないでほしい。あの人常識人とか言いながらすぐ他人のケツ毛焼こうとするのどうなの。さすが自称。
とにかくメモだ。何回か送っているからそろそろ自覚してくれると嬉しいんだけど、なんせカラ松は鈍いから。なんなら十四松が後押ししてくれるとありがたい、と二人の後ろ姿に念を送ってみる。おまえを守ってるんだよ僕(過去)が! 気づけ。気づけ!

「“いつも見守ってます”“近くにいます”“危険があれば排除します”“助けたい 助けを呼んで” ひゃー! 兄さんこれ熱烈でんなー!」
「ああ、いつの間にかたくさん入っていて」

僕の名前を出すわけにもいかなかったのでとりあえず守ってる存在がいるってアピールをしてみた。はっきり“松野一松があんたを守ってる”とか書ければよかったけど、なんせ過去の僕はカラ松(若)を守っていることを秘密にしている。つまり名前なんて書いてしまっては、自分で「俺がおまえを守ってるんだよ」と言ったも同然だ。確かに話は早いけど、そんなことになっては恥ずかしさで死んでしまう。この気持ちがカラ松に伝われば死ぬと思ってたんだから、両想いになる前にばれたら過去の僕の命が危ない。つまりは今の僕が死んだことになってしまう。あー、しかし照れ照れ笑ってるカラ松(若)かわいいなー。なんなのあいつの無邪気感。見守ってもらうのが嬉しいのか。僕が。僕がこうして見守ってるのが嬉しいのかそうかそうだよなよっしがんばる、カラ松(若)がカラ松(恋人)になってカラ松(嫁)になるまでめっちゃがんばるから僕。SSレアでも進化させまくるから。カード課金しまくるから。
モテモテっすね、フッ俺は見知らぬガールさえ虜にするギルトガイ、などときゃっきゃはしゃぐ天使達を見守りながら次の手に移る。さすがにこれだけで気づいてくれるとは思っていない。そんなに聡いならとっくの昔に僕(過去)の気持ちに気づいてるはずだ。
僕はわざと路地裏で大きな音をだし、振り向いた二人から声をかけられる前に逃げ去った。

 

◆◆◆

 

おかしい。
今日も今日とてカラ松(若)に僕(過去)を売り込むアピールを続けているのだけれど、まったく進展が見えない。いや会話は増えた。今も目の前で僕(過去)が怒鳴っているんだが、それに対するカラ松(若)の態度がまるで好きな相手にではない。それを言ってしまえば僕(過去)も好きな人に対する態度ではないのだが、そこらへんはばれてはいけないと必死で押しとどめているんだから多めにみてほしい。

「っ、だからなんでおまえはそうなんだよ!? 馬鹿か! 頭すっからかんにも程があるだろ!!」
「しかし呼ばれたからには」
「あ゛~こいつほんっとうにポンコツ…ッ、おまえがほいほいそうやって出かけるから」
「大丈夫だ! ほら、俺が好きだから直接告白したいって書いてくれてるだろう? 勇気ある彼が卑怯な真似をするはずがないさ。カラ松ガールズじゃないのは残念だがたとえボーイズであったとしても俺は誠心誠意向き合うぜ。人類皆を虜にしてしまう俺……ギルティ……」
「そういうことじゃねえっつってるだろ! おっまえこれストーカーからの手紙なの!! 犯罪者!!! 信じるんじゃねーよこのクソがっ。おまえのこと狙ってる男なんだから向き合ったらまずいって話な!!!」
「……じゃあ一松がつきあってくれないか?」
「は?! ぜってーやだ。なんで俺がおまえとつきあわなきゃいけないの。そんな暇あったら路地裏でも行ってる」
「そ、そうか……一松キャットたちによろしくな!」

心配してるんだって言え。ほら、ちょいっと。迷惑かけてほしい、心配する、頼って、そういう胸の内でぐるぐるに回って飛び出してきそうな感情全部吐き出していいんだよ。弟大好きなカラ松はそんなことくらいで引かないし、つーか大喜びだし、僕の気持ちがばれちゃうかも☆みたいなの全然問題ないから。いっそちょっとは察せよレベルで気づかないから。
現に今、道のど真ん中で騒いでるおまえら二人すげえホモの痴話喧嘩だから。当事者じゃないと冷静な目で見られるってこれだよね。自覚なかったけど僕らつきあいだしたら兄弟みんなしてやっとかよって顔しやがったからな。え、隠すつもりだったの? とかおそ松兄さんさらっと言いやがってあの人弟の秘密把握すんの好きすぎる。とりあえず僕の片想いなんてそりゃもうばればれで、ここでこっそり見守ってる僕にさえもわかりやすくテンぱって心配してる僕(過去)のこと、一番わかってないのカラ松(若)だからな。とにかくクソ鈍だから。だからすぱっと言っていいんだって、つーか言えよ。言っちまえよ心配だからって。そのために呼び出しの手紙まで書いたんだからな!

そう。これもまた僕の計画の一部なのである。
つーか僕(過去)が悪いんだからな。ストーカーを完膚なきまでに防いでくるからカラ松(若)が僕(過去)に惚れるエピソードがない。おまえは満足そうだけど僕的には死だから。未来をどんだけ暗いものにしたいんだ僕(過去)よ。一昨日足ひねってたの絶対なんか活躍したんだろ、あんまり覚えてないけど。そういうので同情からでもいいってのに、本気できれいに隠し切りやがって。おかげでカラ松(若)はぽやぽや平和に暮らしててかわいいけど、でもこのままだと僕のカラ松にならない。
え、どういうこと? それどういうこと? おはよって言いながら鼻先ひっつけて笑いあってみたり星屑ついてるぜ☆って言われながら食べカスひょいぱくされたりオムライスにケチャップでネコとハート描いてもらったり俺の腹まくらにして寝たり寝ぼけて半目のあいつに睨まれてみたり銭湯で兄弟のふれあいぶって背中流してやるよって言いながらこそばしてきゃっきゃしてトッティに軽蔑のまなざし与えられたり帰り道手つないでみたりおやすみって言ったら今日のいちまつもかっこよかったぞ昨日よりもっと好きになった困る、とかそういう。そういう僕のハッピーライフハッピーホームな毎日が。おまえの行動でなくなってしまうかと思うともう恐ろしくて呪うしかない。いや大丈夫。まだ大丈夫。未来はまだ僕の記憶の中にあるし、失わないためにここに来たんだから。

つまりはちょっとくらい恥ずかしいだのなんだの我慢しろよおまえ、という話だ。はたから見たらばればれだし。近親相姦ホモなんて家族に知られたら軽蔑どころのさわぎじゃない、って怯えてた過去の僕には申し訳ないが、確かにこれは受け入れちゃう。こんなに全身で、カラ松に構ってほしいそれはしゅきだからぁ~!!! って主張してるの見てたらバカバカしくてなんかどうでもよくなってくる。うん、これはつきあいだしてしばらくしてからチョロ松兄さんに言われた。僕が言うのもなんだけどさ、僕に気づかれるって相当だよ。確かに恋愛関係ぽんこつなチョロ松兄さんにまで片想いがばれてたんならそりゃもうダダ漏れだったんだろう。ちなみに両親は、他に四人孫保障がんばってくれそうなんだから別にいいわよあんたたち楽しそうだし、てスタンスだ。ねえ精神力すごすぎない? さすが六人ニートのままにさせといてくれただけあるよね。僕だってその血を継いでるんだからさ、やればできるはずなんだよ。羞恥心とか罪悪感とかそんな持つだけクソみたいなもんさっさと捨てて正直になってくれよ。なんのために僕がこうまでお膳立てしてると思ってるんだ。もちろん僕の輝かしい未来のためだけど! おまえだって幸せになれるんだからな僕(過去)!

カラ松(若)への手紙の他にも僕は色々と手を打った。
まず、さりげなく僕の姿を見せる。これは僕(過去)があまりにも上手にカラ松(若)から身を隠しているせいだ。うっかりでもなんでもいいから姿を見せないことには惚れてくれないだろ! 馬鹿か!! 仕方ないので僕が身代りに、見守っているのを隠しているけどうかつにも姿を見られちゃいました、を演出しつつ背中とか足音とかでちら見せしている。服はダース買いのパーカーだしたとえ十四松がいても匂いが同じなんだから違う人間だなんて思いもよらないはずだ。なんせ同じ『松野一松』なんだから。
次に僕(過去)の危機感を煽るためにストーカーっぽい手紙もじゃんじゃん出しておいた。とにかくおまえたちは一緒にいる時間が足りない。会えない時間が愛育てるのは恋人同士になってからだし、つーか会ってる時間でも育てるから離れたくなんかないし。あー僕のカラ松に会いたい。超愛育てたい。育てるために今がんばろう、離れてるけど。あーつら。いきつら。カラ松の吐いた二酸化炭素の混じってない空気とか吸って生きたくない。なのでとりあえず僕(過去)はカラ松(若)に寄れ。近くにいないと危ないって考えろ。知ってるよ? カラ松のテンポ、わりとゆっくりだし。しかもわりと黙るし。すぐ愛しのブラザーだからな、ってまとめるし。そういうのが僕(過去)には我慢できないくらい腹立つって。むかつくし、だから怒鳴るし、そうしたらカラ松はすぐ涙目になるしびびるし、でもそういうの見たくないからせめて怒鳴らないですむように距離とって。おまえがカラ松のためって考えてるつもりなの知ってるよ。なんせ過去なんだから。
でも、近寄れ。そうじゃなきゃわからないことはたくさんあるんだ。
テンポがゆっくりなのはしっかり考えているからだ。言葉を選んで、僕を怒らせないように、楽しく会話できるといいなって一生懸命考えて話すからとろいんだ。黙るのだってそう。愛しのブラザーだから、っていうのも本心から。自分がそう言われると嬉しいから、焦るとすぐそう言うんだ。僕が兄弟の枠を越えたがっていることなんて想像もしてないから、自分の考える一番素晴らしい言葉を伝えてるつもりで。ほんと馬鹿。僕のことちょっとでも見てたらすぐ気づくのに。あのチェリー松兄さんでさえ気づいた僕の気持ちになんて一切見向きもせず、よき兄でいようって精一杯の顔で。
いらつくよな。腹立たしいよな。意識しろよって思うよな。わかるよ。知ってるよ。だからこそ。
だからこそハードル越えたい僕が最初の一線を越えなきゃいけないんだよ。