リベンジプロポーズ - 2/6

と、鼻息荒く過去に来てみたもののカラ松はまだストーカーにあっていなかった。僕が間違ってたんじゃありません~。指定した日より十日も早くついたのはタイムマシンの誤差だ。おつきあい記念日を毎年祝ってた僕に不備はない。

そもそもそんな簡単に過去に行けるの、とか過去改変したらタイムパラドックスが、とかはまあデカパン博士偉大なり、で済まそう。過去の僕に『松野一松』として認識されてはいけない(同一の時間軸に同じ個体が存在してはうんちゃらかんちゃら)とか言われたけどそれくらいは僕だって理解している。時間遡りモノのお約束というやつだろう。過去も変えようとか思ってない思ってない大丈夫大丈夫。ただちょっとクソ松がプロポーズ断る原因つぶしとこうかなってだけだから。僕らがうれし恥ずかしラブラブおつきあい始めるの見守っちゃおっかなーってだけだから。八年前じゃんめっちゃ若いカラ松じゃねうっおシコいな、とか思ってないない。三十路になってもカラ松激シコいのは事実だけど。まあ過去に行きたいって直談判しにきたらちょうど試してみたい機械があるんダス~、などとホエホエ時計を取り出してきたときは御都合主義にも程があると思ったが。

時計は大方の予想通り過去へ行ける便利機械で、デカパン博士のラボにあるメイン装置で操作して指定の時間に行けるらしい。理論上は。人体ほど大きなもので試していない、と言われたけれどいいから治験だ~! と半ばむりやり立候補したのはここだけの話。まあちょっと自棄になっていなかったとは言えないよね。一生に一度のプロポーズ断られたし、これで上手くいかなくてカラ松と結婚できないなら僕なんて別にどうなってもいいとかそこそこ思いつめてたのは否定できない。あいつを殺して僕も死ぬ、まで一気にかっ飛ばなかっただけ昔より丸くなったよ僕。えらい。あ~、いつもならカラ松がそうやって褒めてくれるのに。すぐ死のうとしないで他の方法を考える一松はえらいな、ってほわっほわの笑顔で言ってくれるのに~。褒められてぇ~。カラ松に褒められたいよぉぉぉぉぉ。

カラ松に、俺を諦めないでいてくれてありがとうなそんなおまえが大好きだよ俺から離れないでくれ、って言われるためにがんばろう。改めて決意しながら目の前の背中をこっそり見つめると、いかにもなにも考えてませんといった暢気な顔でカラ松(若)はあくびをした。油断しすぎじゃねえのカラ松ガールズとか言って逆ナン待ちしてたくせに、とは思うけれど平日昼間の釣り堀に人気なんてまずない。見守るには便利だけどこんなとこでふわふわしてるからストーカーにあったりするんじゃないだろうか。いやストーカーだけじゃなくどう考えても犯罪的なあれこれに巻き込まれそうな顔だ。
なんせお人好しだし、頭が悪いわけじゃないくせに回転が遅いからわーっと説明されると流されるし、案外飽きっぽいから理解するの諦めてあっさり受け入れるし。あれ? あいつ大丈夫?? 社会でちゃんとやっていけてる??? いやいくらぽんこつカラ松でも僕の知ってるあいつは働いてるしやっていけてる。大丈夫大丈夫。こないだもお客さんからもらったとか言って大量のミカン持って帰ってきたじゃん。箱で。天地を逆さにしてから開ける方がいいらしいぞ、とかそこそこ有名なトリビアどや顔で言ってきたじゃん。あ、でもあいつの職場商店街だわ。超地元密着型でじいちゃんばあちゃんにかわいがられてる孫系店員だったわ。そうか、じじばばとならテンポあうのか。ちくしょう癒し系だなかわいいんだよクソが!!! オレオレ詐欺にはほんと気をつけろ!!!!!

とにかくゆるふわな脳みそがあからさまに外見から推察されるカラ松(若)を見守り続けて三日。僕はもうひとつ、心配ごとができた。
ねえ過去の僕本当に大丈夫!!!??
大丈夫かどうかと言われたら僕としては大丈夫だと言いたいところなんだけど、いや不安なのは僕(過去)の健康状態でも精神状態でもなくつまりは。

おまえはあと一週間でカラ松とラブラブカップルになれるのか!? という話です。

ちょっとは自覚あったよ。ありましたよ。照れ隠しに手やら足やら出てたな~って反省もしておりますよ。だって仕方ないだろめっちゃかわいいんだよあのクソ。こっちがどれだけぶっきらぼうに接しても無視してもちょこちょこ話しかけてくるし、信じてるぜとか鳴き声かって勢いで言うし、そんなん手ぇださないの無理~。でも弟からレイプとかされたらカラ松お兄ちゃん絶対泣いちゃうよかわいそうだよ泣き顔シコいよまた僕のイッチモツ勃っちゃうよ二度目は俺のザーメンのおかげですべりいいねほらす~ぐ飲み込んじゃった淫乱だね兄さん、とかしないようにどれだけの理性を動員したことか。一応ね? 身体だけじゃないからね? そりゃ泣き顔即ハメ激シコボンバーなギルトガイだけどね? ほわ~って笑顔が一番好きですからね? ね???

だから必要以上にカラ松が近づかないように避けてたのは認める。いっそ嫌われてしまえば、なんて自分で精神的イジメ気分でカラ松に嫌われるようなことばっかりして。覚えてるよ、僕は。もちろん自覚あるし覚えてるし別に誤魔化しとかしないし逃げも隠れもしないんで本当いっくらでも糾弾してくれていいんですけどねカラ松からなら! そりゃもう下劣な豚を見る目で「最低だな」とか吐き捨ててほしいんですけどね!?

でも僕(過去)、アレはない。どう贔屓目に見てもカラ松が惚れてくれない。

まず会話がない。あるとしてもカラ松が誰かに話しかけているのを遮るように罵る。黙れ、うぜぇ、最悪。おっまえが最悪だよ僕(過去)!!! 耳赤くしてるのなんてクソ鈍カラ松は気づかないからな!? あの頃ちょっとおまえのこと怖かったんだ、とか言われる僕(未来)のことも考えろよ僕(過去)! ちょっと、ですませてくれるとかあいつマジ聖母かよ……いや僕の彼ぴっぴだ……イッチの彼ぴっぴ超心広い……好き……結婚しよ……うん結婚するためにがんばるね!

とにかくだ。クソ鈍感なカラ松に照れ隠しとかツンデレとか一切通じない。それなのに僕(過去)のアピールがそれしかないってどういうことだよ……僕の記憶が確かならばストーカーから必死で守ってくれた姿に惚れてくれたはずなんだけど、守るどころかストーカーがまず現れてないんですけど……え、じゃあカラ松(若)は僕(過去)になんで惚れてくれるの? 原因がなくない?? いやちょっと待て思い出せ思い出すんだ松野一松。当時はそもそもこの恋がかなうなんて欠片も思ってなかったしカラ松にばれでもしたら死ぬからとにかく距離をとってて、そうだ、あいつの周りをちょろちょろしてる変なおっさんをこっそり警戒してたんだ。そのおっさんがまあストーカーだったわけだけどね。カラ松のおはようからおやすみまで見つめてきやがってクソが羨ましいんだよおいこら。そうそう、こっそり守るつもりで。こっそり。
ダメじゃん僕(過去)!!! こっそりやったら惚れてもらえないじゃん!!!!!
あーだからまだ僕の目の前にストーカー出てきてないのか。カラ松(若)に近寄らないように必死でがんばってるのか僕(過去)。馬鹿。大馬鹿か。今こそおまえを守ってやれる頼れる男アピールすんだよそこが大事だろ。たとえド底辺の救えないクズのゴミでもなんとか無理やり長所に置き換えるんだよチョロ松兄さん直伝の履歴書と同じで! 就活の時必死でなんとか絞り出したんだからどうにでもなるだろうがよ僕(過去)!! ってそんな簡単にできてたらこんなにこじらせてないよなわかるよ僕(過去)~!!!

「……これは俺が一肌脱いでやらなきゃだね……ひひっ」

過去を変えるわけじゃない。この時代の松野一松に会うわけでもない。ただ未来を変えないためにちょっとサポートするだけだ。僕とカラ松がラブラブチュッチュするのは確定してるんだから大丈夫。とりあえず僕(過去)の態度は照れ隠しだってことを伝えるのと、ストーカーから守ってくれる頼りがいあるところを見せないと。あ~僕(過去)に嫌われてないどころか好かれてたって知って真っ赤になるカラ松(若)かっわいい~。記憶にあるしまったく色褪せてないけどあれこれからもう一回見られたりしたらもうどうしよう。イッチのイッチモツ大丈夫? とりあえず記憶の中の僕は大丈夫でなかった気がするけどどうだろう。告白したあたりは頭が茹り過ぎていて正直なにをどう話したかあやふやだ。
少なくともカラ松(若)と、できればちょっと接触とかしてみたいな~とかじゃない。もちろんあるけれど、これは純然たる好意なのだ。過去の僕への。
というかここで僕(過去)がしくじってカラ松とつきあう未来が改変でもされたら絶許。絶対おまえを殺すマンにしかなれないんだから本当に感謝してほしい僕(過去)よ。命があってよかったな。