千空ちゃんとキスしてないな、とは薄々気づいてた。
一番最近したのって確か夏だよね。ゴイスー暑くて家までもたない茹だっちゃう! って大騒ぎしたら千空ちゃん家に入れてくれて、冷たい麦茶もらった時だ。
え、待って待って待って。今もう十一月よ? 秋も深まり、どころかそろそろ冬だよ? なのに『最近』が夏なわけ?
おかしくない? 俺達つきあってんだよね??
初めてのキス、まで結構時間かかったのは仕方ない。だってあの頃千空ちゃんはまだ小学生で、さすがに俺も罪悪感とかそういうのアレコレあったし。いちおう。だってこっち高校生だよ、ランドセル背負ってる子とそれっぽいことするの、バイヤーじゃん。
恋人、おつきあい、なんて言いあっててもあくまで予約的な? 好きだから大きくなるの待っててくれ、にいいよーって感じだったし。でも、かわいい近所の子だった千空ちゃんが、精一杯背伸びして俺のこと好き好きってアピールしてくれて、俺だって大好きだったからさ。ホワイトデーにかこつけてチュッてしたら、あとはもういつでもどこでもだよね。うそ、どこでもはさすがにしてないです。千空ちゃんの部屋か俺の部屋。二人きりになったらつい、話したり作業の合間とかにさ、ほら。仕方ないじゃん俺ら若者だし!
そうだ、部屋。
中学生になってからだんだん千空ちゃんが部屋に入れてくれなくなってきて。それまでは本人いなくても勝手に入ってオッケーで、俺の別荘みたいになってたのに。俺専用クッションもあったのに。なのに急に。じゃあ俺の部屋くる? って誘ってもなかなか乗ってくれなくて。
まあ千空ちゃんも中学生だしね、お年頃お年頃。わかるよ、やっぱ彼女と密室に二人きりとかちょっとね。エッチなDVDとか友達から回ってきたりしたの隠してるかもしれないしね。……千空ちゃんがエッチなDVD……見るかな……いやでもキスはするし! 顔赤くして俺のこと見たり、ハグしたりしたし! 性欲がないわけじゃないでしょ。精通も見たじゃん俺! しっかり!!
とにかく、部屋に入れてくれないのは理解できるんだよ。男子中学生らしい葛藤、ってやつでしょ。
でもさ、キスくらいよくない? 別に舌いれる深いヤツがっつりしっかりやれってわけじゃないのよ。チュッて軽く挨拶みたいな、性的な雰囲気のない「好きだよ」を伝えるかわいいの。傍に居て、顔見あわせて、ふとした瞬間にそっと唇を寄せる。部屋に入れてくれなくなるまでしてた、そういうのをしてない。カレカノって感じの、温かくてふわふわするキス。
そもそも千空ちゃんと恋人らしいことはしにくい。お休みといえばロケット打ち上げ作業するし、中学と高校じゃ放課後デートも難しい。作業のお手伝い兼デート、と思い込もうにも大樹ちゃんとか杠ちゃんが来てくれるからさ。そりゃ千空ちゃんのお友達がきて協力してくれるのはゴイスーいい事だよ。でも二人きりにはなれないわけで。そうするとイチャイチャなんて当然リームー。行き帰りに手でもつなぎたいな、と思ってもロケットの備品で両手はいっぱい。ならお互いの部屋しかないのに、入れてくれないともうどこでカレカノしたらいいのかわかんない。
いっそ大樹ちゃんと杠ちゃんひっつけてダブルデートっぽくしよ、って目論んだこともあるのね。二人とも相手の事好きなのバレバレだったからさ。千空ちゃんも応援してたし。でも中学で科学部に入った千空ちゃん、部活のお友達も来てくれるようになってさ。人数も増えて、専門的な話ができるようになって。正直俺ら、門外漢、て感じなわけ。大樹ちゃんや杠ちゃんだけなら一緒にゴイスーって言えたし俺のこと千空ちゃんの彼女ってわかってくれてて、だからまあ、うん。中学生に気を遣わせたいわけでもないしね。ついこの間まで小学生だった男の子達に、友達の彼女が来てるからって空気読むとかリームーでしょ。俺だってそんなの求めてないし。でもそうすると、近所の親切なお姉さん役するしかないわけで。千空ちゃんとイチャイチャとかありえない。
それにいい子達なんだよ、千空ちゃんの部活仲間も。お姉さんお姉さんって慕ってくれてさ。作業の時だけじゃなく、道で会った時なんかも挨拶してくれて。俺の友達、青田買いかよってめちゃウケてたし。
中学の文化祭もね、千空ちゃんは大したことしてねーぞって俺が行くの渋ってたのに、お友達がぜひにって誘ってくれて。だからこの間、堂々と行っちゃったもんね。去年は誘われなかったし、俺も家族でもない近所の高校生が行くのズイマーかなって遠慮しちゃったからさ。でも今年はちゃんとね! 千空ちゃんの彼女としてね!
……やっぱまずかったの、これかな。
そこまで彼女でーすって前面にだしたりはしてない。はず。ちゃんと、年上のきれいなお姉さん的メイクと服で千空ちゃんが自慢できるようにしたつもり。いつもの感じ出すと恥ずかしいかもだから、落ち着いて適度な距離感も保ったし。外面っていうか、友達の前で見せる顔と家族の前で見せる顔って違うじゃん? 俺に見せるの、家族の前の顔だからさ。やっぱ照れくさいかなって。そういうの考えられるの、ゴイスーできる彼女じゃない!? いい感じでしょ!?? やっぱ友達とかにさ、いいな~って思われてほしいじゃん。え、千空あんなきれいで大人っぽい人とつきあってんの!? すげー! みたいな。そういうのをちゃんとして。
した、つもりで。
ケバかったとか? ノーメイク中学生の中でアイメイクがっつりめにしたのはバイヤーだった!? 制服と私服だからより年の差感じちゃったとか!?? いやでも科学部のお友達とか、千空の彼女さんなんですかってゴイスー歓迎してくれたし。空気読んであんまり長居しなかったもん。もしかして、千空ちゃんのことよろしくねって言ったの親っぽかった? 違うのよ、親ぶりたかったんじゃなくて彼女アピなんだって!
だって千空ちゃん、中学入ってからよりモテてるんだもん。知ってんだよ俺。
小学校の頃からそれなりにモテてたけど、その頃はなんだかんだ走るの早い子とか体育で活躍する子の方が人気じゃん。でも中学生になってから、勉強ができる子もモテるようになるわけで。千空ちゃん、頭めちゃくちゃいいんだよね。ぶっきらぼうなくせに何気に親切で、男女で態度を使い分けない。口は悪いけど陰口たたかないし、態度でかいのは堂々としてるとも言える。ぱっと見イイ感じですぐ「あれはないな」になって、その後じわじわ「皆は知らないだろうけど私だけはステキなとこ知ってる石神くん♡」になりやすいんだよね。わかるよ。しかも顔もいいんだ……本人にたいして自覚ないけど、千空ちゃんはとんでもなく整ったきれいな顔してる。それが、自分の興味あることに向けてイキイキ笑ってるのゴイスーかわいい。まあそういう顔向けられてるのは宇宙だけどね。
そんな千空ちゃん、おつきあいしてる彼女がいるって全力で主張してるうえ、誕生日とかバレンタインとかことごとくお断りしてるのにモテ続けているわけで。情報源? そりゃ千空ちゃんのお友達よ。皆なにかあればすぐ教えてくれるの、かわいいよね。
だからまあ、ちょっと牽制というか。ね。つい。
いいじゃん! 噂の石神くんの彼女見たよ、年上のキレーな人だったよ、って諦めてもらおうってだけの話だし。
……そういうこと目論んで文化祭に行ったの、千空ちゃんにバレて嫌がられちゃったかな。重いとか。彼女だからって束縛やだ、とか。普段二人でいるのは気にしないけど同級生と並ぶとゲン結構年上だな、とか。とかとかとか。うっ、つらい。想像上の千空ちゃんが思いやりこもった目で「無理して若ぶんなよ、俺はゲンが年上でも気にしねえから」って言ってくる……俺だってまだぴちぴちの十七歳だし。高校生だし。敵は中学生なわけだけど。
やめよ、やめやめ。ぶるりと頭を振って気分を切り替える。
千空ちゃんが一言も言ってないこと勝手に妄想して傷つくの、無駄にもほどがあるよね。たぶん暇だからこういうこと考えちゃうんだ。大学は海外に留学ってもう決めてるから受験生っぽくピリピリしないでいいのはうれしいけど、友達みんな遊んでくんないんだよね~。ロケット作業の手伝いもしばらくいらないって言われちゃったし。そりゃ素人より科学部の子達の方がお役立ちだもんね……って、あー、またうじうじと!
せめて悩むことを決めよう。言われてないことは無視。そう見えたとかは要確認。なんせ千空ちゃんは何もかも俺が初めての、彼氏のひよこなんだから。おつきあい経験のある俺が年上らしく教えてあげないとね!
というわけでキスです。
悩むこと! キス、してない。大 問 題!!
別にさ、部屋じゃなくてもいいじゃん。千空ちゃん気まずいなら入んないよ。でも軽くチュッてだけなんだから、人気のない道とか公園とか玄関先とか、どこでもできるじゃん? 俺ゴイスーしやすい隙つくってるし、唇プルプルになるようがんばってるし、わりとおしゃべりだけど千空ちゃんがタイミング読みやすいようにここだよって時には無言になってるじゃん。今、チュッて! サッて!! ここでするんだよ!!!
なのに「疲れたのか」「腹減ったか」ってとんちんかんな気の遣い方してさ。そういうとこもかわいいけど、でも。俺からキスしよって言ったことあるんだよ。そしたら真っ赤になって「嫁入り前の女がそんなこと軽々しく言うもんじゃねえ」って、昭和? 俺よか年下だったよね?
好かれてるのは疑ってない。部屋で二人きりにならないのも、キスしよって言われて照れちゃうのも、全部俺のこと好きで意識しちゃってるから。
でもさ、それはそれとしてキスはしたいでしょ。
だってカレカノじゃん? デートもキスもしないなら、なんでわざわざ『恋人』になったのかな。俺達おつきあい前だって仲良しだったし、バレンタインチョコ毎年あげてたし、ロケット作業もお手伝いしてたよ。たぶん文化祭だって行きたいって言えば招待してくれただろうし、千空ちゃんは目キラキラさせながら科学部の発表つきっきりで解説してくれたはず。おつきあいしてる今と同じように。
一緒。おんなじ。なーんにも変わらない。
じゃあおつきあいしてる意味ってなに。なんでカレカノするの。そういうの面倒がる方じゃん千空ちゃん。
だから好かれてるのは知ってる、わかってる。最初から好感度バリ高の近所のお姉さん、小さい時からずっと一緒のお姉さん。面倒見がよくて、自分をかわいがってくれて、ちょっと憧れたこともあったけどそのうち生活環境の変化で会わなくなって、お姉さんから気がそがれた時に会った同級生が成長してて昔との違いにドキッとして。なんて。
俺、大学は海外に行くんだ。もう決めてるし、将来の夢のためで、家族も友達も応援してくれてる。だから千空ちゃんがどれだけさみしがったって行くし、やめないし、延期もない。実際は一番応援してくれてたの千空ちゃんだけどね。俺の夢、すげぇなって。がんばれって背中押してくれるんだ、ゴイスー尊敬のまなざしで。
でも、だから、つまり、離れちゃう。生活環境の変化で、遠距離恋愛で、千空ちゃんが隣見ても俺は居なくて。
物心ついて以来ずっと居た俺がいなくなって、それに慣れちゃったら。ねえ、そしたらただのご近所のお姉さんとかわらない彼女とか必要? 意味ある? だって何もしないよ。そういうことに興味もった時にいなくて、なのに名目だけ彼女で、だから新たに誰かとつきあうなんて千空ちゃんはできなくて。
知ってるんだよ、そういうことに興味あるって。だって部屋に二人きりにならないようにしてるの、そういうことじゃん。お友達に年上の彼女いいなってニヤニヤされて、あいつをそういう目で見るなって怒ってたの聞いたもん。ロケット作業メンバーとは連絡先交換どころかかなり仲良くしちゃってるからね。千空こんなこと言ってたんっすよ~、って教えてくれるんだからね。
だから、ちゃんとキスしたい。しっかり恋人だって千空ちゃんの脳みそに刻み付けておいてほしい。
女の子とそういうことしたいなって考えちゃった時に、一番に妄想するのが俺であってほしい。同級生より後輩よりエッチなDVDのオネーサンより、俺がいいでしょって。同じ制服着たノーメイクの女の子達より俺の方が。クラスの先生の口癖とか昨日学校に犬迷い込んできたよとか知らないけど、言えないけど、でも。
俺が一番お得だよ。
◆◆◆
「というわけで、来ちゃった♡」
「どういうわけだよ、勝手に人の部屋入るんじゃねーつったろ」
「本日は家主の百夜パパにオッケーいただいてまーす」
千空ちゃんに内緒で驚かせたいの、サプライズってやつ! ってお願いしたら満面の笑みでお部屋入れてもらっちゃったよね。こういう時、家族ぐるみのおつきあいは強い。
「千空ちゃんも言いたい事あるかもだけど、ちょっと俺のお話聞いてほしいな。ひとまず」
きりりとした顔で座ってとうながせば、真面目な話なんだと思ったんだろう。千空ちゃんは俺を追い出すことなく勉強机の前の椅子に座った。隣に座ってほしかったけど、やっぱベッドはハードル高いみたい。まあドアから遠くなったし、これならすぐ逃げ出せそうにないからオッケーかな。
「俺、考えたんだよね。最近ギクシャクしちゃってたじゃない? だから」
真顔で意味深に言葉止めてみたら、千空ちゃんもつられたのか真剣な顔してる。
うわ、顔色悪。別れ話とか勘違いしてんだろうな。え~、俺と別れたくない千空ちゃんかわいい、好き♡ まあある意味別れ話に近いというか、これスルーされたら結構ショックだし正直立ち直れないかもだけど。彼女として、というか女の子として。でもこの反応ってことは勝機アリアリでしょ。
とうとう脂汗流し始めた千空ちゃんの目の前、ベッドにころんって寝転んで膝たてて。ええい女は度胸! ぺらりとスカートをめくり上げて、仕込んできた成果を見せてみる。
「カレカノっぽいこと、しよ♡」
「……あ゛? は、え、…ッ……あ゛ぁ゛!??!?」
うーん混乱してる。かわいいな。
「キスの次はこっちかな、と思うんだけどさ。まだ学生だし、俺留学するじゃん? 授かり婚も悪くないんだけど、さすがに中学生とはダメかなって」
「……ダメかな、じゃねえだろ完全アウトだわ」
「ねー。だからほら、見て見て。ラップしたから精子入んないよ!」
正直これ思いついた時、俺天才だと思ったよね。
恋人同士がすることで、キス以上で、でもセックスは絶対千空ちゃんオッケーしないだろうし俺もまだ早いかなって思うから、その手前。触りあいっこレベルで、けど万が一でも赤ちゃんできるようなことはダメ。いや、挿入しなきゃ大丈夫と思ってたんだけどさ、なんか精子動くとか? 入れてなくても付近についてたらもしもがあるとか、都市伝説かもしれないけどやっぱ知ってたら避けたいじゃん。射精の時だけ抜いたらオッケー、が嘘だってのは知ってたんだけどさ。精子ゴイスー強いね。生命力バイヤー。
そこで取りいだしましたこのラップ。
これを巻いておけば、俺の中どころか入り口にもどこにも精子が直接さわらないって最高の案! 端っこからうっかり、の事故を防ぐためお腹から太ももまでちゃんと広範囲をカバー。
「……これ、で、テメーはなにを……」
わかってるくせに意地悪だなぁ。いや、大混乱しすぎてまだ頭回ってない感じ? そうだよね、千空ちゃんってば『こういう意味』で女の子とふれあうこと全然慣れてないもんね。百夜パパと二人暮らしだし、身近な女の子って俺か杠ちゃんかうちのママだし。性的な意味で見ないように無意識でするよね、親友の好きな子と近所のおばさん。
で、唯一オッケーな彼女の俺。
「さすがにセックスは早いから、こすりあいっこしよ。千空ちゃんのを俺のここにさ。ラップあるから問題ナシナシ」
にっこり笑顔で押し通せば、両手で顔をおおったまま天を仰いだ千空ちゃんが呻いてる。よし、初っ端の拒否なし。いける。理路整然とダメな理由説明してこっちを諦めさせるのがいつもの千空ちゃんの手だから、まず混乱させるのが勝ち筋だよね。インパクト勝負に出て大正解。大混乱してくれてよかった。下半身なにもつけずにラップだけ、の彼女見て冷静だったらこっちのダメージハンパないもんね。だってパンツもなしだよ。ラップは透明だよ。これで「腹冷やすなよ」とか言われたら実家に帰らせていただきます案件だよ。一緒に住んでないけど。
どうかな。千空ちゃんが女体にそこそこ興味持ち出してるのは知ってるし、俺のこと大好きなのもわかってる。だから大丈夫、と思うんだけど。
笑顔のまま、たぶんちょっと圧もかけてたと思う。にこにこ待ってれば、相変わらず天を仰いだままの千空ちゃんが声をしぼりだした。
「…………天才かよ…ッ」
「!! でしょ! えへへ、任せてよ。経験値が違うんだからね!」
中学生の、千空ちゃんの同級生達じゃこんな思い切ったことできないんだからね。どれだけ千空ちゃんのこと好きでも、絶対。俺だから。ちょっとだけ千空ちゃんより年上の、俺だからこういうのできるんだから。
うれしくって胸を張れば、子ども扱いされたと感じたのか少しだけ唇をとがらせた千空ちゃんがベッドの上に乗ってきた。かわいい。拗ねてるのに興味の方が勝っちゃってるの、千空ちゃんらしいな。だよね、やっぱり中学生男士、女の子の身体に興味津々。部屋に二人きりにならないようにしてた時点でお察しだったけど、目の前であからさまにわかりやすく見せられると笑っちゃいそう。嬉しくて。
ここまで計画通りにいったらあとは流れでいいよね。いいよ。千空ちゃんだから絶対むちゃなことしないし、無理やりラップはがしたりもしないはず。そういうとこの理性ゴイスーだもん。たぶん世界で一番信頼してる。
「ね、おねえさんとちょっとだけワルイコト、しよ」
カレカノ特典、と笑えば真顔で「助かる」と返されて、今度こそ声出して笑っちゃった。
視線が物理的な感触あるとか知らなかった。
まだ指一本さわられてないのに、千空ちゃんは見てるだけなのに、どうしてかぴくんとお腹が動くのが恥ずかしい。いや、でも開いた足の間に座り込まれて顔寄せてまじまじ見られるの、恥ずかしくない方がおかしいよね。俺が照れるの当然だよね。こんなとこ人に見せないし。でも今、ラップ越しといえ、その、丸見えなわけで。
「ゲン、ちっとだけさわる」
人差し指を、これでさわるって俺に見せてからゆっくり、ゆっくり。本当に動いてる!? って速さで近づけてきて。やるならさっさとしてよ、って言ったら俺一気にいやらしい子になっちゃう。さわられたいんだ、って。違うよ、このじわじわ感が落ち着かないっていうか。
ぴと、って感触にびっくりしてつい腰が動いたら、千空ちゃんの指先がくにって俺に埋まった。待って、今こっちから押しつけたみたいに見えた!? 違うよびっくりして勝手に。さすがにそこまでの積極性はないんで千空ちゃんの顔をちらっと見たら、真顔すぎて何考えてんのかわかんなかった。え、なんか実験中みたいじゃない? もうちょっと顔赤くするとか息荒いとか、興奮してますってわかりやすい顔見たいんだけど。俺の意図せぬエッチな反応はスルーされて、ひっついた指は動きもせずそのまま。ラップ越しでもじわじわ体温感じちゃうんだな。これ何か俺言うべき? 気まずいんですけど~。ていうかエッチの時っておしゃべりするもの? しない? かわいいねとかきれいだねとか千空ちゃんが言うわけないとは思うけど、無言もやだ~。お願い何か言って。でも「思ったより腹出てんな」とかなら心の中にしまっておいて!
「……千空ちゃん、ねぇ……ほかのとこも、いいよ」
「ッ、お、おう」
耐えきれずに話しかければ、肩跳ね上げた千空ちゃんの上ずった声。あ、よかった、ちゃんと緊張してんじゃん。だよね、中学生だもんね。俺が初カノだもんね。大人のお姉さんにドキドキしすぎて、ってやつだなコレ。えへへ。
「んだよ。悪ぃな、ダサくて」
「えー、いいじゃんかわいいよ」
つい笑った俺にむくれて文句つけるのもかわいい。俺だけのかわいくてかっこよくてやっぱりかわいい千空ちゃん。好きだな、って気持ちが胸の内でどんどん作られてる気がする。いいよ。俺でダサくなっちゃう千空ちゃんでいてよ。
「あんまガキ扱いすんな。……つーかテメーの方こそ……おい、これ生えてねえ、いや剃ってんのか!? あ゛!?? や、あれか、ステージ衣装の時邪魔とか、いや待てダメだろ。こんなとこ露出する衣装完全アウトだろどうなってんだゲン!?!!?」
「予想以上のくいつきじゃん」
「目一杯抑えての現状だが!?? 俺の記憶にあるテメーのステージ衣装に陰毛剃る必要あるもん一切ねえんだが、そこのとこはっきりしっかりご説明いただこうじゃねえか!!」
サプライズその二が思ってた以上の大爆発でゲンちゃん大満足♡ その一の『ラップ越しで彼女をさわれちゃう♡』が驚いてたみたいだけど反応薄かったからさ、まさかすでに誰かの見たことあったかなとかね。ちらっとだけ考えちゃったよね。もちろんエッチな本とかDVD、中学生男士ならお友達から回ってきたら見ちゃうのはわかる。わかってるよ頭では。でもさ、俺が納得するかは別じゃん。そういうお仕事のオネーサマ方の身体先に見ちゃってたらさ、同じ年上なのにゲンは結構違うなとか思われたらさ、ダメージが。俺が千空ちゃんと同い年とか年下ならこれから成長するって言い訳できるし、実際その辺りの年齢になれば本職と身近にいる子達が違うの当然って理解するだろうけど。
だけど今は、千空ちゃんも初心者じゃん。女の子の身体に興味出てきて、そういうこと自分もできるんだなって自覚してきた初めてくん。へたに学習されて俺にがっかりされるとか、ジーマーで勘弁だったから。
「ん~……見やすいかなって」
「み??」
「千空ちゃん興味あったっぽいし、なら俺が見せてあげれるし、見るならない方がいいでしょ」
陰毛ってなんとなく口にしにくくてぼかして伝えちゃったけど、なんで千空ちゃんはそういうのはっきり言えるのかな。ただの名称で、恥ずかしい言葉って思い込んじゃってる俺がいけないのかな。
ていうか、もしかして俺が見られたい風に聞こえちゃった? 違うよ!? 露出系の趣味ないからね! 一般的な、いやどんなのが一般的か正直わかってないけど、でもあんまり特殊じゃないっていうか、よくマンガとか小説にあるやつ。そういう、恋人同士の愛情表現セックス希望。いずれね、そのうち。先の話。ただ今は赤ちゃんできちゃうのズイマーだし、でも千空ちゃんの興味は俺が満たしたいし、同級生とか後輩ちゃんよか絶対俺のがオススメってアピールすべきかなって。彼女だし。
「……マジか…マジ、なんだよなテメー……っは~~~~~」
あとはこう、家でラップはってみた時さ、ちょっと見場が良くなかったというか。なんかラップで押しつけてるせいか普段より、ねえ。ゴイスー濃いってわけじゃないよ!? そんなんじゃないけど、うわこいつ毛むくじゃらかよとか思われても大問題だし。なら別になくてもいっかな~とか。だからちょちょいと。千空ちゃんそういうこだわりとかないよね? え、生えてる方がタイプとかあった??
「すげぇよく見える」
「い、いかた~」
「ちっと赤くなってねえか? 剃った後ちゃんと保護したのかよ。あんだろ、なんかクリーム? とか」
「ご心配どーも! 化粧水も乳液もクリームも塗りました~」
赤くなってる、なんていかにも他の部分とそこを見比べてる言い方に、どうにも落ち着かなくて手をぎゅっと握りしめた。裾、しわになっちゃいそう。スカートめくり上げた後、いつ手を離したらいいかタイミング読めなくて、結局ずっと握ったまま。こんなの、すごく見てほしいみたいじゃん。俺が。
「すげぇやわっかいな……ふにふにじゃねえか」
ふれてるのは人差し指いっぽんだけ。
指の腹、ほんの一センチくらい。押すほどの力もなく、ラップ越し、意識しないと流しちゃいそうなレベルの強さで。
なのに動けない。砂にでも埋められたみたいに身動きできなくて、ただじっと千空ちゃんの指先の感触追ってるだけ。なんだか空気がどろりとして息苦しい。せめていつもの雰囲気に戻したくて声を出そうにも、喉の調子が悪いのか掠れちゃう。
緊張してるのはわかっても、解けない。舞台前に感じる高揚感含みの緊張とは違う。いつもなら、ドキドキもハラハラも全部まとめてステージへの活力にできるのに。
「……似てんな、胸と」
「そ、っかな~」
どこが?
ってか千空ちゃん俺の胸見た時のこと、まだ覚えてんだ?? つきあう切欠だから二年前だよ。そりゃ衝撃的だったかもだけど。俺も千空ちゃんの精通覚えてるから一緒か。
忘れられてなかったことにほんわかするけど、似てるって言われるのは正直どうよ。え、胸と股が? まず比べようと思ったことないからな……どこ基準で似てるんだろ。たぶん絶対エッチな意味でないことは確実。
「こんなやわっかくて、あったけぇの……おい、防具かなんかつけなくて平気か? 布一枚で守れんのか!?」
「別に攻撃されないから大丈夫かな~」
なぜか庇護欲でてきちゃってるけどなに? こちとらエッチな気分になってもらいたいんですけど!? つか防具って、俺はどんな怖い世界に生きてる設定なの。
ぷにぷに突っつかれたり、手のひらで優しくおおわれてそのまま動かされたり、指先でするする撫でられたり。パンツの他にもっと防御力の高いものはけって言いながら、千空ちゃんの手はそこから離れない。意識は半分以上憤りなのに、ペン回しみたいに意識せずに手慰みで動いてる。失礼では、と思いつつもパンツの防御力について熱く語ってるの、俺を心配してなんだよなと思うと文句もつけにくい。というか、そっちに意識やらないと俺の方がちょっとズイマーっていうか。
大きさは同じくらいだけど、深爪ぎみで指先が薬品荒れしてる千空ちゃんの手。よく知ってる、なんども引いて歩いた手が、俺のにずっとふれたまま動いてて。直接じゃないけど、ラップ越しだけど、温度も動きも伝わってくるから。
「……千空ちゃん、その」
「ゲン! おい、んだこれ血……っ、では、ねえ……な」
そこがくちゅん、と小さな小さな音をたてたのと、血が出たのかと千空ちゃんが血相変えたのはほぼ同時だった。
血、ではない。ないけど。
「すまねえっ」
「いや、謝ることじゃないし……」
水音がしてラップが滑ったから液体、つまり汗か血が出たと推察。もし血なら怪我をしたんじゃ、って俺のこと心配したからこその発言ってわかるよ。わかってる。さっきからやけに柔らかいってショック受けてたから、よけいに怪我したかもってなっちゃったんだよね。
ゴイスー理解できるんだけど、かといって「感じちゃったからで~す」とか開き直れる? リームーすぎでは。
「や、けど俺のせ、い……かどうかは知らねえが!!!」
「うんそうねそうだねちょっと深呼吸しよっかお互いに!!!」
そもそも色からして違うわけだから百パーセント千空ちゃんの勘違い。いつもなら絶対しないだろう早とちり。刺激されたら当然の反応で、とかしどろもどろ言ってるけどメンゴ俺あんまり聞けてない。少なくとも剃る時自分でその辺さわっちゃったけどなにも出なかったです。言えないけど。言わないけど。千空ちゃんのせいだよとか、そんなの。
だって追い打ちすぎてさすがにバイヤーじゃん、ここまで平常心どっかやっちゃった相手にさ。真っ赤だもん、顔も首も。らしくない早とちりも、もごもごして何が言いたいかわかんない言い訳も、全然いつも通りじゃない。幼馴染の千空ちゃん、じゃない。たぶんこの人、今、彼氏の千空ちゃんだ。俺の彼氏の。
「血じゃないから続き、しよ。指じゃなくて、その……千空ちゃんのでこすっても、いいよ」
「……あ゛? ……………あ゛ぁ゛!???!!」
「俺だけとかさみしいじゃん」
おちんちん見たいなら胸見せろって言われた、あの最初の時から。
俺達ずっと、片方だけじゃなくて二人して同じくらいの事しようとしたでしょ。俺は下半身丸出しにしてんだからさ、千空ちゃんだってそうすべきだよ。
当然の主張をすれば、千空ちゃんはなぜかバチンと自分の両頬を打ってからズボンと下着を脱ぎ捨てた。気合入れにしては勢い良すぎだったけど、蚊とか飛んでた?
そのまま、俺のお腹の上にぴとっとのせる。……あれ? なんか記憶にあるよりだいぶ、かなり、そうとう……成長してない?? なんかずしってしてるし、色もちょっと、なんか。なんだか。前に見た千空ちゃんのおちんちん、つるっとしてかわいくて怖くなくて。あれ??
軽く混乱する俺に気づいていないのか、千空ちゃんは無言で腰を動かした。おへそや下腹がふぬ、ふぬ、って押される。ずるずるラップが動いて、直接肌をこすられたみたい。
手は、数えきれないくらいつないだ。腕も組んだし、ハグもしたことある。背中にのしかかったこともあるし、ゴイスーちっちゃい頃なら一緒にお風呂やお昼寝もした。これまでのどこかでお腹なんて絶対さわられてる。水着とかステージ衣装で出したりもするし、背中の続きのただの肌だし、特別視することない。くすぐったくもないし、本当、ジーマーでなんの問題もない。ないったらない。
否定ばっかり繰り返して、大丈夫って言い聞かせて。なのに千空ちゃんが動くたび、勝手にお腹がビクビク震える。俺のお腹なのに言うこと聞いてくれない。
硬いとかやわらかいとかわかんない。たまにおへその中に先がぐって入りかけて、縁をこすり上げながらお腹をぐにぐにする。よれてぐちゃぐちゃに固まりだしたラップを、千空ちゃんが丁寧にのばして俺にもう一度はりつけた。今日初めて直接さわった手が、とんでもなく熱い。
「……サウナスーツ着てるようなもんだ、暑ぃよな」
は、と体の中の熱気はき出すみたいなため息と共に呟かれた言葉は、フォローの色が見えた。ええと、暑い、はそうね。千空ちゃんの熱が移ったのか、さわられた所からどんどん熱くなってきてる。でも、わざわざ言われるほどかな。千空ちゃんの方がよっぽどじゃない。
こめかみにつたう汗をぬぐってあげようとして、届かないことに気づいた。寝転がったままじゃ手上げても遠い。もうちょっと近づいてよって言おうとしたけど、そうすると千空ちゃんのが今よりもっと俺のお腹に押しつけられると気づいてしまった。体勢がね、俺の上におおいかぶさったら、当然ぎゅって。
そのまま動かれたら、まで即考えて声が出なくなる。千空ちゃんの顔が近づいて、俺の顔の横に腕置いたりして。俺のこと囲い込むみたいにされたらそんなの、視界が千空ちゃんで占められちゃう。そこからお腹ぐにぐにされちゃうの? 凹むくらい押しつけられたり埋められたりする、んだ。
ダメ。そんなのなんか、だってなんか。想像しただけでまた勝手にお腹が震えた。きゅって力が入って、自分から千空ちゃんのにすり寄って媚びたみたいに。……媚びた!? は?? なに、こび、媚びるって。お腹こすられるの嫌じゃない、けど、してほしいってわけでもなくて。ないよ。違う。だって変じゃん、そんなの。優しく背中撫でられるとかじゃないんだよ、おちんちんでお腹ゴシゴシされるのは。
なんか、それは、ダメじゃん。バイヤーでしょ。こんなこと考えてる場合じゃないって、ほら。今は千空ちゃんと、ちょっとだけワルイコトしてるんだよ! 初志貫徹!!
ここまでしたから、みたいな。そういうのもあった。こんなにがんばったんだから最高の結果を出さなきゃ、とかあるでしょ。だから、曲げてた両ひざをそろりと抱え込んでみた。太ももを俺の胴体に近づけて、その動きにつられてお尻も上がってベッドから離れて浮いちゃう。俺の態勢が変わったから、千空ちゃんのがあたるとこも変わって。
まあラップあるからいいでしょ、って気持ちがあったのは否定しない。あと、お腹で満足されるのもいかがなものか、とか。いや俺はいいけど、ってよくない。よくないです。お腹ぐにぐにされて気持ちよくなったりしません。
黙って俺のこと見てた千空ちゃんは、最終的に自分のおちんちんがどことひっついたのか気づいて固まっちゃった。えへへ、びっくりしたでしょ。うごいて、ってなんでか声が出にくくて口パクしたら、ぎゅって眉よせてうなずいた。伝わった。よかった。ホッとして笑ったのがからかってるって誤解したのかな、さっきまで柔らかかった空気が急に尖った気がした。優しくふれてた手が勢いよく俺の膝を押し上げて、すごい速さでこすりつけてくる。
「っ、俺は、こういうこと、できちまうんだぞ…っ」
なに、なんで、違うよバカにしたとかじゃない。通じてよかったなって。そりゃオコサマってからかうこともあるけど、今は違うじゃん。
「簡単にすんな、考えろよっ」
考えてるよ。だからラップ巻いたでしょ。簡単とか、ねえ。そんな怖い顔で怒る事ないじゃん。今。
ごめんねって謝ろうにも、千空ちゃんの腰が俺のお尻にゴンゴン当たって揺れるから全然しゃべれない。やっと口から出た声、まともに千空ちゃんの名前も呼べないで揺れてばっかり。全身揺さぶられて、千空ちゃんは眉間にしわよせたまま苦しそうで、歯くいしばって。ラップ越しだけど摩擦でなんか痛い。こんな感じなのかな、セックス。おかしいな。もっとほっぺ赤くして慌てる千空ちゃんと、なんか楽しくていい感じのことになると思ってたんだけど。前みたいに。興味あることに夢中になるじゃん千空ちゃん。だから初めて見る女の子の身体とか絶対興味津々に違いなくて。さっきまで喜んでたじゃん。なのに、なんか。ねえ。どうして。
「うっ、…っは、ぁ」
急に千空ちゃんが止まって、息はきだして。押さえてた俺の膝から手が離れて、一歩後ろに。
こういうのか。そっか。なるほどなるほどゲンちゃん理解。元カレもこういうのがしたかったんだよね、お泊まりデート誘ってくれてた時。あの時ならラップ巻くとか絶対オッケーされなかっただろうし、そしたらベイビーワンチャンだからやっぱまずかったよね。なら千空ちゃんでよかったのかな。よかったよね。こんなことしちゃったら記憶力のいい千空ちゃん、忘れないもん。
ああでも、曲げてた腰も擦られてた股間も痛い。またしよって言われたらちょっと期間おきたいな。いや、一度確認したらもうそこまで興味もたないか。学習スピードゴイスーだもんね。
それに、たぶん、またしたいって千空ちゃん言わない。
こんな顔しかめて嫌そうにしてるのに、次とかあるわけない。俺ずっと寝転んでたけど、そっちは動いてたから疲れちゃったかな。実験ばっかしてるからひょろがりなんだよ、って言うのは嫌味か。
「…………すまねえ」
重い重いため息をついた千空ちゃんは、まだ転がったままの俺の横にティッシュの箱をおいてまた一歩下がった。さっきからどんどん遠くに行くね。
なにが? 途中から一方的だったこと?? 俺の腰と股が痛いこと?? ……いざやってみたら、二度目はいらないって思ったこと??
俺、なんで謝られたの。素直に聞いたらいい。いつもならすぐ聞くじゃん、俺。千空ちゃんだって答えてくれる。なのに全然、さっきから夢の中みたいに声が出ない。話そうとするたび、何か詰まってるみたいに言葉が押しつぶされる。千空ちゃん、ねえ。なんでそんな顔するの。失敗した、みたいな。後悔してます、まずいことしました、って主張しまくり暗い顔。そんなの、俺とこういうことしたのが悪い、みたいな。
悪くないよ、恋人だもん。ちゃんとカレカノだし。いたいけな年下をたぶらかしてる悪い大人、とかじゃない。ねえ、違うよ。しよ、って俺が誘っていいぞって千空ちゃんがオッケーしたんだから。すごくしたがるもんでしょ男子中学生とか。千空ちゃんだってしたかったでしょ。俺相手だからできたんだよ、ラッキーじゃん。俺が彼女でよかったでしょ。なのに。
やっぱり同級生がいいんだ。
高校生なんて。もうちょっとしたら大学生なんて、気の迷いで。同じ中学生同士の方が。
文化祭で会った、ノーメイクで同じ学校の制服着てる女の子達を思い出す。石神くん、ってはしゃいだ高めの声で呼んで。返事されたらきゃあきゃあうれしそうに笑って。担任の先生の話して、明日の委員会の連絡して、授業でわかんなかったところ今度教えてってお願いして。かわいくて無邪気でどうしようもなく俺と違う。俺は全部しない。できない。だって同じ中学校じゃないし。明日の時間割なんか知らないし。気合入れて引いたアイラインがよれてたらやだな。マスカラ落ちてたらどうしよ。早く直さなきゃ。直して、きれいにして、それで。
それで、どうするの。
石神くんのお姉さんですか? え、近所の、ああ小さい頃から面倒みてあげてたんですね。わ~大人っぽい、ステキ、校則あるからメイクするのダメなんですよね。お姉さんすごくきれい、憧れちゃう。石神くんいいな、こんなお姉さんが近くにいるなんて。きっと大人なかっこいい彼氏さんとかいるんですよね。中学生とかガキっぽくてダメですよね、やっぱりお姉さんくらい大人だと相手にならないですよ。
悪意があったらよかった。千空ちゃんのこと好きで、俺のこと敵視してるとか。そういうのならよかった。
全然ないの。本心から、年上のお姉さんにお話し聞いてみたいって皆してきゃあきゃあ笑って。千空ちゃんのこと好きな子いたのに、俺に嫉妬とか悔しいとかそういうの向けない。俺のこと、かけらも敵だと思ってない。千空ちゃんの彼女だなんて、想像すらしない。
俺達それくらい意外なんだ。可能性すら思いつかない、あたりまえにないものとする。カレカノなのに。違うんだよ。
だって俺達キスもしないもん。
「……やっぱ別れよっか。しょーがないもんね」
千空ちゃんのことは大好き。別れても、彼氏じゃなくなるだけで大切な幼馴染のままだから安心してほしい。だから気まずくならないように明るく声をかけたのに、千空ちゃんは返事すらしてくれない。別に責めたりしないし、百夜パパに告げ口もしないし、ちゃんとおつきあい前に戻るから大丈夫なのに。ロケット作業も細かいドイヒー作業も断らないし、これまでと何もかわらないよ。
「これからも特に何もかわらないから安心して」
「いやだ!」
おう、って。悪いなって気まずげに頭かいたりするんだろうなって予想してた。
あんなに後悔してるから。俺とセックスまがいして困ったな、って顔だから。興味あったけど違ったんだ、謝ってくれたのお別れなんだってちゃんとわかって。それで。なのに。
いつの間にかドアまで下がってた千空ちゃんは、俺を通せんぼするみたいに立ってもう一回声を張り上げた。
「いやだ。ゲン、俺は……悪い、こんなことするつもりじゃなかった。止めらんなかった。すまねえ、なあ、反省する。もう絶対しない。だから別れんのはいやだ。勘弁してくれ」
え? あれ?
なんかこれ引き留められてる?
「こんなに自分の意志が弱ぇなんて思いもしなかった。情けねえ。無責任すぎる。ゲンが失望すんのは当然だし全面的に俺が悪い。信じられねえだろうけど、頼む、チャンスがほしい」
切々と訴えられてるけど、あまりに謎の展開で返事に時間がかかっちゃったら、また絶望って顔された。
「話したくもない、か……」
いや違うよ!? 勝手に完結しないでほしい。こっちも混乱してるし、ちょっと情報整理する時間ほしいだけで。びっくりすぎて何をどうしたらいいか思いつかないっていうか。
そのままずるずるへたり込んだ千空ちゃんが土下座を始めてしまったので、俺は無理やり頭を再起動させた。混乱してる場合じゃない。そんな、下半身丸出しで土下座ポーズとか、謎のファンタジー光線とかでもし今石化なんかしちゃったらどうするの。趣味? なるほどそういうプレイね……って納得されたらバイヤーすぎ。俺は絶対やだ。それだけはやだ。石になるならせめてポーズの選択肢がほしい。
じゃなくて!
「情報の! 公開を要求します!!」