大人になんかなりたくない

今おれの目の前には下半身丸出しの兄がいて、おれは十歳程度の姿をしている。

なにを言っているのかわからないだろう。安心してほしい。おれも我が事ながらまったくわからない。たぶん不審者まったなしのこのクソボケもわかってない。
いや、おれの姿に関してはデカパン博士の薬だしそこはいい。問題はパーカーに靴下のみのくせに得意気にクソ顔を寄こすこの露出狂だけだ。

「……いやいやいや、おまえ自分でなに言ってるかわかってる?」
「もちろんだ! 要は大人に戻りたいって思えばいいんだろ? ならもうこの方法しかないだろう」

ふっと格好をつけながらサングラスをわきに置く仕草は常通り。
ここは松野家、昼下がり皆は出払っておれとクソ松の二人きり。ここまでは珍しいことじゃない。そこそこよくある日常、ニートとしてのんべんだらり過ごしてきた日々。
おかしいのはおれを部屋に連れ込みシコ松看板を出し、唐突にジーンズとパンツを脱いだこいつだけだ。

「なんで!? そりゃこれまでのは効果なかったけどさ、だからっておまえと」

思わず言い淀んだおれの戸惑いなどデリカシー皆無なクソバカはまるっと無視して、いっそ朗々と言い放ちやがった。畜生。これだからおまえなんかクソだっつってんだよ。

「セックスしようじゃないか、ブラザー!」

即座にぶちぎれて出ていかないおれの行動の裏を読むこともせず、罵って断らないこの繊細さを汲み取りもせず。そのくせこっちが黙ったままだととたん気弱げにうかがうような目するんだ。むかつく。
おれがおまえを拒否できないことも隣から離れないことも無意識で悟って、応える気もないくせにこの感情の上に気持ちよくあぐらかきやがって。
腹立つ。クソ。畜生。今のこの姿だってある意味おまえも加害者だからな。共犯だ。だからつまり、これは責任を取らせてもいいのでは? もちろんこのバカの提案でおれの身体が元に戻るなんてありえない。だけどこのままじゃおれは無になってしまうわけだし、じゃあその前にこのクソボケでちっとくらいいい目見てもいいんじゃないの。
これもまた言い訳、別にこのバカはそこまで悪くないとわかりつつおれはきれいに責任をおっかぶせた。すみませんね、ゴミクズなもんで。

 

◆◆◆

 

そもそも今おれの肉体が十歳程なのは、デカパン博士の薬のせいだ。
バイト代に惹かれて治験に協力したのはおれだし、少し若くなる効果があると聞いてもいた。完成したらそりゃ売れるだろうな、とのんきに考えたことも覚えている。
実際はじめはそう気にしなかったのだ。少し服が緩くなったかな、程度で別になにをするというでもないニートの身。猫を構うのも部屋の隅で膝を抱えるのもなんの不自由もない。サイズアウトした服をひっぱりだして着て、あら懐かしいわね、なんて親に目を細められるのも面映ゆかったけれど嫌じゃなかった。
最初に眉をひそめたのはトド松だっただろうか。一松兄さんまだ縮むの。問われた時にはおれ一人だけ、あからさまに背が低かった。もうちょっと大きくないとバットには物足りないね! 明るく言い放った十四松の表情は声ほど明朗なものではなかった。

どんどん若返っていく身体。さすがに危機感を抱いて博士の元に駆けこめば、ホエホエとのんきに「キミが大人に戻りたいと心底願えばすぐに戻るダス」なんて役立たないコメントしか残しやがらない。え、すでに結構切実ですけど? このままじゃ松代の腹の中に返るしかないのに当人からは「この年になって嫌よそんなの」ってお断りされてんですけど? え、つまり無……赤ん坊の前って腹の中にいなかったら無、つーか死、では。
まあおれに任せなよ、と鼻の下をこすった長男が連れていったのはパチンコ屋。大人に戻んなきゃここ入れないよ、楽しいよ~ってまあそりゃそうだけど。チョロ松はビデオ屋の18禁コーナーの前、十四松はタバコを差し出して。ねえおまえら兄弟で似すぎでしょ。思考回路が同じにも程がある。トド松だけは毛色が違って、ご近所から松代コネクションで集められた子供服から妙にかわいらしいものを着せつけ、大人に戻らないと着せ替え人形にされるんだからねと一言。
見事に戻らないおれに飽きたのか諦めたのか、ひととおり騒いだら普段と変わらぬ日常に戻ったのはありがたいんだかなんなんだか。戻らないんだから構われても困るしがっかりされたくはないんだけど、あんまりにも常通りでもさみしいとか本当おれってゴミクズ。どうしようもない。
そう、ゴミクズなんだよ。皆がそれなりに色々考えて元に戻そうとしてくれてたのに、無駄だろうなって思ってたくらいに。
デカパン博士は心底願えばと言った。もちろん大人の姿に戻りたいしこのままどんどん若返って死ぬのは怖い。だけど心底、今すぐにも大人に戻りたいかと問われれば……否と言ってしまうかもしれない。
いや、もちろん戻りたい。戻りたいんだけどあと少しはこのままでって言うかこう、もうちょっと小さくなってもいいよねとか。つい。ちょっとだけ、ほらあの、魔がさしたとかそういう関係で。あるじゃん。あるでしょそういうこと。ちゃんとわかってるんだよ正しい道はここって。ただちょこっと、ほんの一歩だけあっちの通りのぞこうみたいなそういう。

だって子供の姿だとめっちゃくちゃ簡単に甘えられるんだよクソ松に!!!!!

中身は変わってないって知ってるくせに、頭カラッポだからちょっと甘えたらほいほい奢ってくれるし。カラ松兄さんお願い、とか言えば買物でもなんでも面倒な事全部代わってくれる。膝叩いてここにおいでって言うし寝るときはトントンしてくれるし危ないからって外じゃ手つなぐしあーんとかも躊躇せずしてさ。子供の姿だから目に優しいのかな、兄弟も違和感持たずスルーだからなんの遠慮もない。こないだなんて怖い夢見たって夜中訴えたら顔に胸むぎゅって押しつけてきてさ、こわくないこわくないってもにょもにょ寝言まじりで言ってんの。とりあえず深呼吸するじゃん。唇とがらせて魅惑の突起にぶつからないかなって探索するでしょ。くすぐったいって離されたから諦めたけどさ、そういうあれやこれや、全部おれが子供の姿だからなんだよ。
まあこの辺で気づかれちゃったかな。そう。何の因果かおれ、あのクソな兄に恋愛感情を抱いちゃってるんだよね。性欲込みの。単なる愛情ならちょっとくらい行きすぎててもどうにかなったかもしれないけど、あいつでシコるのに罪悪感抱かなくなってからもう長いからすでに手遅れ。
かなうわけがないからひたすら抱え込んでたこじれた感情が、日の目をみちゃったんだよね。クソ松に向けても嫌がられない、それどころかプラスの感情で返してもらえる。子供の姿なら!

一途だな、と思ってもらってもイイデスヨー。は~、みっともね。むかつく。でもうれしい。ここで終わりなら問題はなかった。いやむつごのうち一人だけ皆の半分くらいの外見年齢なのは大問題だけど、この辺で若返りが止まるならそのうちまた博士に薬を作ってもらえばすむ話だ。
問題は、甘えられる日々をどれだけ過ごしてもまだおれの身体が小さくなり続けていることだ。
おかしいよね、この流れならそろそろ若返り止まってクソ松に思う存分甘えて満足☆ってなるでしょ。おれもそう思う。でも現実は日に日におれは小さくなっている。
たぶんこれは………………クソ松に授乳されないとダメなんだよな………………。
さすがにばれたら心配してくれてる十四松とトド松にぶち殺されそうだから口には出さないけど、十中八九これだと思う。いや違うんだよ、おれだって最初からそんなこと考えてなかったし子供姿なら油断してるのかラッキースケベ多くて楽しいなくらいだったんだよ。
でもさ、ほら、この間クソ松乳首からビール出してたじゃん。飲んだものが出せるってことはだよ、牛乳飲んだら、ね?
同い年の成人男性はいくら弟でもよっぽどの理由がなけりゃ乳首から牛乳飲ませてもらえない。でもこれが赤ん坊ならおっぱい飲むのが仕事みたいなもんでしょ。すでに乳からはなにもでない松代に代わっておまえが立派に授乳してくれよ…!!!
なんてことをちらっと思いついてしまったのが悪かった。
理性はそれはないって言ってんの。そろそろ大人に戻るべきだって。だいいち赤ん坊になっても哺乳瓶でミルク、いいとこクソ松が抱っこして飲ませてくれるくらいだろってわかってる。わかってるんだけど、でも、ワンチャンあるのではと本能が大人に戻るのを拒否してる。こればっかりは無意識の範囲だからおれにもどうしようもないんだよね……笑い事じゃねーから。結構これ切実な悩みだし。
乳首からビール出せるなんて情報知らなかったらこんな可能性考えなかったんだよな、今くらいで満足したはずなんだよ。あー畜生、クソ、アルコールは松代ストップがかかってるからやけ酒するわけにもいかない。
そうしてゆっくり死に近づくおれに、ここぞとばかりに声をかけたのが先程の考えなしだった。

 

◆◆◆

 

「状況をいちから整理するけど」
「おう!」
「おれは大人に戻りたいと強く願えば戻れる。でも大人しかできない娯楽をこれまで提示されても戻らなかった。ここまではいい?」
「オッケーだ、ちゃんと皆に聞いたぞ」
「で、おまえとセッ……セックス、しようって話なんだけど。……なんで」
「んん~?」
「あれ別に大人じゃないとってのじゃないでしょ、学生とかもやっちゃってるわけじゃんリア充とかパリピとかそういうの。だからこう、大人になったらセックス!!! みたいなのじゃないしそもそもおまえがさせてやるとかならまだしも今しちゃうのってなんの意味があるのかって話で」
「ああそれは」
「大人になったらねとかいけない家庭教師かよおれの童貞もらってよ先生まだダメご褒美は大学に合格したらねってやつかよヒヒえっろテストの点がよかったら胸揉ませてくれたりするんでしょ案外かわいい声だすんだね先生バカそんなことばっかり上手くなってもうこれじゃあキミの将来が心配になっちゃうぞじゃあ先生がずっと見ててよおれのことなにいってるの一松くん先生おれ本気だよご褒美じゃなくておれと、ノンノン違うだろ一松そう望むならカラ松だリピートアフターミー」
「一松」
「っひぅぁ!!!??」
「ああよかった、いきなりぶつぶつ早口で一人言呟きだすから薬の副作用かと思ったぜ」
「……副作用とか飲んでどれだけ経ってると思ってんの」

いけない。ついお気に入りの妄想が口をついて出てしまった。それもこれもクソ松がポンコツなくせに年上の包容力と聖母みを漂わせるから!!!

「ええと、まあだから、なんでセックスするの。大人じゃないとできないぞ、ならまだわかるけど」
「なにを言ってるんだ一松、大人になってもセックスできてないじゃないか」
「おまえに言われたかないんですよねぇ!!!??」

カラ松ガールズはシャイだから。痛いところを突かれもごもご口ごもったバカは、仕切り直しと言わんばかりに足を組み替えた。下半身全脱ぎということを忘れていやがる、なんてバカだ。視線を外せないおれはもっとバカだ。

「どこまで話したっけな、あー、だからつまりセックスをな、オレとおまえでする。ここまでは問題ない」

大アリなんだよバカ野郎。

「でも現状おまえの肉体は子供のものだ。そして成人と未成年のセックスは罪に問われる。つまり今おまえとセックスするとオレは捕まってしまう、アンダスタ~ン?」
「まあそうだね」
「愛しいブラザー、血を分けあった兄弟が犯罪者になる…! そんな悲しいことあってはならない、だろ。な?」

ぎゅうぎゅうと眉間に力が入る。なにひとつわかりたくないけれど、このトンマの言いたいことがなんとなくわかってしまった気がして嫌だ。絶対理解したくない。でもこれ以外にない。

「………………おまえを犯罪者にしないために大人に戻れ、って?」
「グレイト! 一松ならきっとわかってくれるって信じてたぜ!!!」

能天気でお気楽でどうしようもない。むかつく。おまえへの愛情を測り兄弟への好意を基礎としおれの感情全部きれいに見積もって出したこのトンチンカンでバカバカしい案が、それなりに効果があるだろうことがとんでもなく悔しくて嫌だ。
バカバカしいと鼻で笑って出ていかないと思われてる。このバカとセックスできると思われてる。警察沙汰になったら悲しむと思われてるしそのためにできることならなんでもすると思われてる。全部大正解、その通り。クソがと罵って立てばいいのにこんなチャンス逃したら後悔すると手を伸ばしてしまう、そこまで見透かしておいておれのおまえに対する感情だけスルーするのが心底苛立つ。泣きそう。そこまで。そんなにも、手を触れたくないほどにないものとしたいほどに見ないふりを延々続ける労力を払い続けるほどに。嫌なのかよ。
嫌でしょうねぇわかるわかるよわからいでか。抱えてるおれがこんなに苦しくて不幸で嫌なんだからましてやおまえが。わかってる。わかってるんだよ、だけどそれがプラスに働くかというとけしてそんなことはなくて。ああ、もう。

「……で、おれがつっこむのでいいんだよね」
「ふっ、オレの大砲ではおまえを壊してしまいそうだからな……」

今のおれよりはでかいけど普通だからなおまえのサイズ。

 

◆◆◆

 

四つん這いの兄の尻にローションをぶっかける。字面にまったくときめきがないのに、その兄がカラ松だというだけでおれの心臓は踊り狂っている。このまま飛び出してきたらどうしよう。

「うわ、あったか」

ぷちゅ。間抜けな音と共に指が穴に消えていく。おれが差し込んでいるはずなのにまるで食われてるみたいだ。もっと抵抗感があるとふんでいたのに難なく飲みこまれてしまった人差し指を、そろりと抜いてみる。あ、すげえ濡れてる。事前にローション入れてるとか本気でおれが断ることないと思ってやがったなむかつく。
もう一度挿れる。ぎゅぶ。出す。妙に指が寒く感じてしまって急いでまた中に。やっぱあたたかい。なんだ、人肌ってことかな。まあ体内だし、口に指入れた時あったかいのと同じってことかな。空いている左の指を自分の口の中に入れてみるも、あたたかいことはわかるが右手と同じかどうかはわからない。別に同じじゃなくてもいいんだけど、なんとなく。

「……い、いちまぁつ、ストップ。ドントストップだブラザー」

それ止まるなって意味だろ。言いたいことはわかったので指の出し入れを止めれば、遊んでないで早く入れろときた。

「は? 慣らしてやってんだろ」
「も、もう大丈夫だから……」
「いやなに言ってんの。そりゃ子供サイズだけどさすがにまだ痛いでしょ」
「じゃあ指増やしてくれ! ……その、出し入れされると……まずい」

指を増やしても出し入れはするしなんの解決にもならないと思うが、まあ当人の言うことだから。首をかしげながら人差し指と中指を揃えて突っ込めばにゅぷりと音がした。ローションが指先に絡まる。そういえば男は濡れないから痛いと聞いたことがある。確かに乾燥したら割れたりするもんな、どうせ残りはクソ松の自慰に使われるだけだろうから使いきる勢いでたっぷり入れてやろう。
親切心から指を開きローションを伝わせてやれば、発情期の猫のような鳴き声がした。

「っ、なに、なんなのおまえ」
「ひっ、だ……だいじょ、ぶ……問題ないぜ」

まるで大丈夫ではなさそうな声だが、こちらとしても気が急いているので痛そうでないならスルーする。いやだってほら、なんかくにゅくにゅしてるのもう少し堪能したいじゃん。追加ローションがぐぽりと溢れて出てきたのを親指ですくって押しこめてやれば、ひうっと息を飲んだ音が聞こえた。

「なあ、おいクソ松」

くちゅ。にゅる、ぐるり、ぎゅうぎゅう、ずるり。ぬぽ。にちゃ。ぺちょり。にゅくにゅく、ずる、ず、ず、にちょり。

「聞こえてますかカラ松オニーチャーン、お返事してくんないとさっみしいなー」
「ぅ、ぅ、~っ、いちまつっ、じゃあ指、指を」
「指? ああもう一本増やす方がいい? でももう三本咥えこんじゃってるじゃん、いくら子供の指でも四本は多くない?」

止めろと言われているのはわかっていてしれっと左手を参戦させる。うっわ入るし。マジかよマジだわ尻穴すげーな。

「ちょ、い、やめ、えっ」
「お~めっちゃ内臓」
「いぢまづぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

両手の指で開いてのぞき込んでやれば、本気の泣きが入った。さんざ指で弄くってローションどばどば注ぎ続けたんだから痛くはないはずだけど、まあいきなり体内見られるのはちょっとな、アレだよな。クソなわりにそういうとこ遊びがないっつーか王道派っつーか。おれなんかおまえの口の中とかめっちゃ見たいけどね。ぬめっとした色合いがとんでもなく卑猥じゃん。
べしょべしょに泣かせてようやく腹の虫がおさまったおれは、労り二割下心八割でそっと震える尻を撫でておく。畳に突っ伏して自分のズボンに抱きついて泣き、尻だけを高くかかげたままとか、下心八割に抑えられてるおれに感謝してほしい。これおれじゃなかったら絶対腰つかんでガンガン突っ込んでるからな。おまえが泣いてもわめいてもお構いなしだからな。おれの気の小ささに本当感謝してほしい。

「……なあ、落ち着いた? そろそろいい?」
「オレはいいって言ってる、のに! おっ、おまえが……っ!!」
「ハイハイ、じゃあおじゃましますね~」

正直ちょっと甘く見てたとこある。なんてったってクソ松が尻穴丸出しであんあん腰くねらせてるの見続けてたのに一回たりとも射精してないからね、今のおれ。言っても精神は成人男性だし? AVだって三こすり半とか高校時代で卒業済みですし? 今なんて指だけで身も世もなく啼かせたテクニシャンなわけじゃん実際の話。だからまあ、そりゃ挿入は気持ちいいだろうけど、ねえ? みたいな。
ヤバい。
なに、え、ヤバい。ヤバい以外の言葉が出ない。語彙消えた。
まず亀頭が当たった時ぷちゅんと音がして吸いこまれるように先が入ったのがヤバい。にゅくにゅくとあたたかい肉壁が圧をかけてきて、ちんこから全身クソ松の中に入って揉まれたい願望が爆誕。ヤバい。なんだこれ。なに。気持ちよすぎる。誘いこまれるまま腰を進めれば下腹にぺたんともちもちした尻たぶがあたり玉が遅れてぶらりと揺れた。はねかえされるまま腰を引けば、横からのきゅんきゅんした圧にとどまらず行かないでとばかりにきゅうきゅうと奥に引っ張られるのが絶妙に皮をひっぱって気持ちいい。ちんこに皮被ってたのこのためじゃねえのかな……この快感を味わうためならずるむけにならなくてもいいんじゃないの、ねえ。

「……は?」

腰を引きすぎて最高の巣穴から引きずり出されてしまった我がちんこを見て、さっきまで挿入していた穴を見て、もう一度ちんこを見て。

「え、なにおまえ……気持ちよすぎじゃない……?」

すげえ。セックスすげえ。
思わず声に出ていた感想に、まだべそついていたクソ松も顔を上げておれを見る。うっわ目の周り真っ赤じゃん。明日腫れるぞおまえ。

「いちまつ、気持ちいいか?」
「うん」
「そうか! じゃあがんばって大人に戻ろうな!」

つい素直に肯いてしまったおれに返ってきたのは無邪気なまでに当初の目標通りの言葉。
間違ってない。そうだよおまえがおれとセックスしようなんて言いだしたのは大人に戻りたいと思わせるためで、このままセックスしたら罪になる兄弟を犯罪者にしたくないなんて罪悪感を抱けってことで。このめちゃくちゃに気持ちいい行為を、悪いものにしておけという話で。
それが嫌だとおまえは欠片も思わないんだ、カラ松。
ぎゅうと心臓が痛んだのは、大人に戻ればもう二度とセックスできないからだ。おまえがどうとかじゃない。こんな気持ちいいことをできないのが惜しいだけ。悔しいだけ。だってどこの誰がニートで社会の底辺のクソゴミ野郎とセックスしてくれるの。いないよそんなバカ。こんな小さな身体、蹴りつけてやめさせるなんて簡単なのに。目の周り真っ赤にしてぴいぴい泣いてそのくせ一度たりとも手も足も上げやしない。セックスだってさ。体内に。あんなあたたかくて軟らかで優しいところにこんなゴミ受け入れちゃって。バカ。心底どうしようもないバカで、とんでもなく救い難いクソだ。おまえ。カラ松。なあ。
そこまでしてくれちゃうくせに、この最高に気持ちのいいおまえとだけしたい行為を愛ゆえでなく悪いものにしろだなんて。してはいけない行為に留めろ、なんて。
萎える気配のないちんこをもう一度ぶち込む。
気持ちいい。涙が出るくらい気持ちいい。最高。
最高にむかつくからおまえのことを犯罪者にしてやる。絶対に子供のままおまえとセックス完遂してやる。未成年に手を出した最低のクズとして生きろ。ざまあみろ。

 

なんて息巻いてた時もありましたね。

「かぁまつっ、か、かぁまちゅ~」
「大丈夫だ一松、落ち着け、落ち着いて深呼吸だ、な?」

落ち着けるわけがない。はふはふと息を切らしながらも腰の動きを止めることができないおれは、まさに今、気持ちよさと痛みの狭間で苦しんでいた。深呼吸など論外である。
きゅうきゅうと締めつける肉壁最高、慣れてきたのかうねりをみせることもあり、先はふんわか根元はきつく締めつけられるなんてオナニーでは味わったことのない快感まで供給されておれのちんこはもう限界。とにかく出したい。射精してからなにもかもを考えたい、なんでもするからとりあえず出させてほしい。
なのに射精できない。
考えてみればおれが精通したの、中学生になってからだったんだよね。えろいクソ松見ても暴発してねえじゃんやるねおれ、じゃねーんだよな。元から射精できる肉体じゃないわけ。そう言われてみりゃ十歳くらいなんてまだ泥団子作って喜んでた記憶だし、エロ本とかわけわかんねーなって思ってたよな。トト子ちゃんかわいいはもちろん思ってたけど、だからってその先はなにもなかったし。せいぜい手つなげたら大喜びとか? そうだ、そんなんだからなにかの刺激で勃起してもすぐおさまるしなにかをちんこから出すって考えがないんだよな。
でも出したい。え、なにこれどうしたらいいわけ。
精子製造しすぎて痛い。玉もぱんぱんで破裂しそう。これ安静にしておいたらおさまるってレベルか? とりあえず出さなきゃなにひとつ考えられない。でもちんこはうんともすんとも言いやがらねえ。おいおまえの持ち主がこうも苦しんでるんだぞ、ちょっとは融通利かせて今回だけって射精しとけよ。なあ。頼むって。

「だしたいっ、だしたいよかぁまつぅぅぅ」

訴えてもどうしようもないとわかっていても言わずにはいられない。
またこれ完全に痛みしかないなら萎えそうなもんなのに、クソ松の中があまりに気持ちいいうえちんこにびりびり走る痛みがいい感じのスパイスになってやがんの。MはMでも肉体的じゃなく精神的、のつもりだったけど軽いのなら肉体的な痛みも悪くないじゃんとか新たな扉開くの勘弁して。せめて後にして。
あああああ出したい。なんなの。これなんの罰ゲームだよなんでおれのちんこ子供なの。出したい。思いっきり射精したい。この最高の快感の中で出したらすげえことになるんじゃないの。なんだっけ。なんでおれ子供なんだっけ。ああそうだクソ松の乳首からミルク飲みたくて、あとなんだ。むかつくから。そうだ、こいつを犯罪者にしないために大人に戻る、とか絶対してやらねえって。ああでも出したい。出る。出て。びゅくびゅくって。頼む。うっわ、う、あ~。

「出ないか!? 気持ちいの足りないか??」
「バッカてめぇきゅんきゅんしたら、あっ、きもちい、いいっ、だしたいからまちゅ、から、からまつぅぅぅ」
「あっ、でも今射精したらオレ犯罪者じゃないか!?」
「ここまでした時点でとっくにだよクソボケ~!!!」

未成年相手に射精までいきつかなくてもがっつり淫行だよ犯罪なんだよお花畑脳みそ野郎。こいつは本当にどうしようもない。そしてそのバカの中でイキたくて助けまで求めてるのがおれ。最低の下ってなんだろうな。最悪か。
射精したくて出なくて痛くてでも最高に気持ちいい。ちんこの先からじゅわじゅわと快感がめぐりめぐって脳みそまでぐずぐずにとろかしてくる。ああなんでこの鼻水とか涙とか精液じゃないんだろ。ちんこがふさがってるなら他から出てこいよもう。目の前にパチパチと火花が散る。痛い。気持ちいい。ダメ。いっそ殴ってくれ。気絶でもしたら少しは収まるだろうから、なあ頼む殴ってくれよ。出したい。

「は、犯罪はダメだ! まずいぞ、おい一松っ」

今更焦りだすとかなんのギャグだよ。肉体年齢十歳にセックス持ちかけた時点でおまえめちゃくちゃやばいよ。

「意地はらずに大人に戻れってぇ! ……よし、じゃあちゃんと大人に戻れたらおまえの言うことなにかひとつきいてやるから!!」

出したい出したい出したい出した、ん?
なんでも。言うこと。

「っ、ふ、な、なんでもかよ!? なんでもっ、だな!!?」
「たたた大金と命はダメだぞ、オレにできることでだからなっ」

ぎゅぎゅんと身体中の血液がちんこに集まっていく気がした。
おれが戻れなかったひっかかり。元の身体では絶対に無理だから、と諦めきれなかった行為。クソ松の胸からの直でのJUNYUが叶う。

「あ、っぅうあぁぁぁぅああ~~~」
「いっだだだだだだだだぁぁっっぅあぁああ!!???」

力いっぱいちんこを握りしめられたかのような痛みと尿道を勢いよく通りすぎる快感の波。我慢しすぎたせいで快感は痛みに近い。視界がぶれる。ちかちかする。
全身の力が抜けて思わずへたりこめば、おれを追うようにちんこもずるりと姿を現した。
赤黒く猛々しい、とまでは言わないけれど先日までの見覚えあるちんこだ。大人の。懐かしさについようおれ等と語りかけそうになったが、その前に約束を取り付けておかなくてはとだるい身体に鞭打って顔を上げる。

「おいクソ松、さっきの」
「痛い」
「え」
「痛い。痛すぎる。さすがに今のはひどいぞ一松」

汗でしっとり濡れた尻たぶの間、ローションをぼとぼと落としながら尻穴が文句を言う。いやごめん、カラ松です。ごそごそと寝転がったままこちらに向けられた顔は、妙に血の気が引いている。

「おまえが大人に戻れてオレがポリスに目をつけられないのはよかったが、バッドタイミングすぎるだろう」

意味がわからないがおれが戻ったことより自分が犯罪者にならなかったことを喜んでるのは大変にクソだ。まあ気持ちはわからないでもないし警察に訴えても信じてもらえないからムリだろうけど、おまえあれだけのことしたら普通に淫行で捕まるからな。
この気持ちいい虚脱感のまま眠ってしまいたいけれど、さっきの口約束を確定させておかないとこのボケはすぐに逃げを打つ。なんでもすると言ったのはおまえだ。恨むなら気軽にその場しのぎで適当な事を口にする自分自身を恨めよ。
そう強気に押しきろうとしたおれに降ってきたのはまさかの言葉。

「尻穴が痛すぎる」
「は?」
「子供サイズなら問題なかったのに最後いきなり中で大きくなるとかひどすぎるだろ。契約不履行ってやつじゃないか? いきなりぎちぎちに広げられてそれまでの気持ちいの全部飛んでくし痛いし、しかもおまえ中に出しただろ。腹下すんだぞこれ。一応恩人のオレに対してあまりにギルティな態度じゃないか」

腹痛の薬を飲むのか? なんて首をかしげてる場合じゃない。いやちょっと待って。え。ねえなんか衝撃的なこと言ってませんかオニーチャン。
挿入したまま大人サイズに戻ったのは申し訳ない。確かにいきなり中で膨らんだら痛いねわかるわかる、でもそれ契約不履行じゃないから。そもそも契約してねえから。でもおまえが望むなら結婚とかそういう感じの契約はばんばん結んでも構わないんですけど違いますかそうですかはいわかりました、ってだからその後。後。

「き」
「んん?」
「きもちよかった、の」

おれのちんこで。
おれとセックスして。

「ちゃんと気持ちよかったわけ、おまえ」
「ああ! セックスって気持ちいいんだなぁ。一松はかわいいし尻も思ってたより痛くなかったし犯罪じゃないならまたしたいくらいだ」
「じゃ、じゃあ!」

またおれと。

「小さい一松と」

おれと?
ちらりとおれの股間に目をやったクソ松は、あからさまにがっかりした顔でため息をつきやがった。

「……今の一松とはちょっとなぁ……」

サイズが。

 

 

後日、松野家のむつごから別々に舞い込んだ依頼にデカパン博士は頭を抱えることになる。

「陰茎だけが子供サイズになるけれど射精はできる薬に男でも授乳できるようになる薬って、彼らは一体なにを企んでるダスか。一般受けしない薬にも程があるダス~」